やさしい嘘
ちょっと短いです。
「俺が、キャンセル?」
「はい。……自覚はなかったのですか?」
「全く。」
ユラナスは本気で不思議そうにしており、陽介も開いた口がふさがらない。
しばらく二人で「いやでも」「どうして?」と噛み合わない会話を続け、やがて静かに考え込んだ。
前回の“時空停止のデモンストレーション”では確かに止まった。
だが、今回は止まらなかった。
違いは――
ただ一つ。
「……前は、”止められる”って思ってたよな」
「で、今回は発動してから気づいた、ですね」
二人は小さく息を呑んだ。
――結論。
陽介は“停止系の干渉そのものを無効化できる体質”を持っている。
しかもそれは、意識でON/OFFが切り替わる可能性がある。
この答えに、ユラナスはぽかんと口を開けた。
「……どうして今まで気づかなかったんですか?」
「いや、そもそも時間止められるような場面なかったし」
「それもそうですが……一体いつからなんでしょう」
謎が増える一方だった。
もし先天的なら、陽介の両親は何者なのか。
もし後天的なら、誰がいつ与えたのか。
二人は深追いするのをやめ、いったんは事件の処理に集中することにした。
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そのあとは淡々とこなすだけだった。
家の近く。
最寄り駅。
隣駅。
隣町。
市内。
別の市。
次々と範囲を広げていき、トラブルを探し、見つけては片付け、見つけては片付ける。
移動の手段として使用した電車の中でも乗客トラブルを解決し、気づけば太陽はすっかり真上、というかちょっと超えていた。
「そういや昼飯まだだったな」
「そうですね。お昼ご飯はどうしましょう」
二人が周囲を見回すと、目についたのは――
「……あそこのファーストフード店はどうですか? 陽介くんからこないだ頂いたクーポンもありますし」
ユラナスが、赤と黄色のピエロの人形を指さして提案してきた。
(……あ、クーポンの話、ここで聞くべきか)
陽介は意を決して口を開く。
「その……クーポンって何だ?」
その瞬間、ユラナスの顔が雷に打たれたみたいに固まった。
「……協力者が二人増えそうだって、陽介くんが手紙で伝えてくれた時に…
…後ろに、くっついていたじゃないですか。あれ…
…陽介くんが僕にくれたものじゃないのですか?」
ぽつりと問うユラナスの瞳は、うるんでいた。
(……あ、あれか……!)
陽介は思い出す。
確か、家にあった広告の裏紙を適当に掴んで手紙を書いた。
そこに印刷されていたのだろう。でも
(これ……「善意じゃない」とか絶対言えねぇ……!)
かなり悩んだ末に、彼が絞り出した言葉は――
「……そ、そういえばそんな事もあったっけな」
嘘である。
だが、ユラナスを傷つけないための“優しい嘘”でもある。
仮にユラナスが心を読む能力を持っていたとしても、
”易しい”嘘だと思われると同時に、”優しい”嘘だとも伝わるはずだ。
「陽介くんは忘れん坊ですね〜」
と、どこか楽しそうに煽られたが、陽介は耐えた。
「じゃあ、食べに行こっか」
「はいっ!」
ユラナスの明るい返事に、陽介の肩の力も少し抜けた。
――二人は昼の街へ歩き出す。
その二人の背中を、じっと見ていたものの存在には気付かずに。
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やる気が出ます。
ちなみにタイトルの「やさしい嘘」の”やさしい”を平仮名にした理由は…。
本文にあります。




