つくづく不幸な”暴君”
”暴君”ディオニスの日々です
退屈──その一語に尽きる。
宇宙の端で揺蕩いながら、ディオニスは顎に手を当てていた。
“創造神”、そしてその脇にいつもいる“活発”と“柔和”。
あの三柱が仲良くしているだけで、なぜか腹が立つ。
気に入らない。実に気に入らない。
「……あいつら、今日も楽しそうだな? チッ」
視線をそらしたその先に、彼らが妙に大切にしている惑星が目に入った。
あれほど大きい宇宙の中で、なぜ“あの星だけ”あんなに目をかけるのか。
理解できない。
そして、理解できないほど──いじりたくなる。
「ちょっとだけ、軽くつついてやるか」
ディオニスは、悪気のかけらもなく指を鳴らした。
そのとき視界の端に、ひとりの少年が映り込む。
影浦陽介という名らしい。
「……ふん。創造神の好み、変わらんな」
どこかで見覚えのある雰囲気をしていた。
“創造神”に少し似ているような、似ていないような……妙に気になる。
次の瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
ああ、コイツに何かやったら面白いかも──
軽率という言葉だけでは表せない衝動で、ディオニスは陽介に力を押しつけた。
「ほら。受け取れ。暴君の力だ。どう料理するか見せてもらおうじゃないか」
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……それから数日後。
陽介を観察していたディオニスは、信じられない現象を目の当たりにした。
何にも変化していない。
本当に、何ひとつ。
「あぁ?? オイ、嘘だろ……? どうしてそうなるんだよ……!」
暴君は頭を抱えた。
せっかく力を与えたのに、
せっかく“創造神”たちの顔色を変えようとしたのに、
せっかく、せっかく、せっかく……!
「動けよ、お前ぇ……!!」
だが陽介は、変に慎重で、変に優しくて、変に真面目で、
扱いづらいことこの上ない。
業を煮やしたディオニスは、任務のためかそばにいたユラナスに愚痴をこぼした。
「お前の主、もっと派手にやれって言ってやれよ。全然驚かせられねぇんだよ」
するとユラナスは、やけに清らかな顔で言った。
「私の主は、もっと派手に動かさないと動かないと思いますよ」
その瞬間だけは、ディオニスの眉が跳ね上がった。
「そ・れ・だ!!」
陽介は真面目すぎる。
なら周囲を動かし、環境を爆発させればいい。
その方が派手に事が運ぶ。
案の定、陽介はすぐ動いた。
しかも思ったより全力で。
そして。
”創造神”の使徒が、一斉に地球へ飛び降りたのだ。
「あっはっは! 気づいたな!? やっと俺に気づいたか!!」
ディオニスは両腕を広げ、歓喜に震えた。
「ようやく、ようやく俺の仕掛けに反応したか……ッ!」
だが、そこで予想外のことが発生する。
――陽介の動きが変わった。
妙に慎重になり、
妙に考え込み、
妙に落ち着いている。
「あ? 待て。お前、俺を避けようとしてねぇか?」
面白がってくれればいいのに、
怖がればいいのに、
破壊的に動き回ればいいのに。
なのに、陽介は妙に“整理”しようとしている。
「……チッ。つまらねぇな。じゃあ見る夢くらい、少し味付けしてやるか」
ディオニスは悪い未来の“映像”を、陽介の夢にそっと流し込んだ。
ほんの悪戯。
ほんの刺激。
ほんの
──不安を植え付ける程度。
「これでちょっとは動くだろ」
そう思った矢先。
ユラナスが、陽介の心へ滑り込み、
その夢の主導権をひょいっと奪い去った。
「………………は?」
数秒後、ディオニスは震え始めた。
プルプルと。
小刻みに。
怒りとも…悲しみともつかない感情が胸の奥で渦を巻く。
「おい……俺の……俺の“演出”……返せよ……」
ユラナスは気づいていないのか、
それとも気づいた上でやっているのか、
どちらにせよディオニスは歯を食いしばった。
たかが“創造神”の使徒如きが、自分の“暴君の演出”を打ち消すなど。
許せるわけがなかった。
しかし──
今すぐ出て行くのも、何か負けた気がして悔しい。
「…………もう……限界なんだけど」
神域の片隅で、暴君は拳を握りしめる。
このまま黙って見ていられるか。
あいつらの静かな世界? そんなもん──俺が壊してやるよ。
思ったよりもカマチョ方向に傾いてしまった




