違和感
遅くなりました。スミマセン。
怒涛の時間がようやく過ぎ去り、玄関が静かになった瞬間──
陽介たちは、ほぼ同時に深いため息をついた。
「……ふー……生き返った……」
翔が壁にもたれかかりながら呟く。
陽介はソファの背に手を置き、少し笑ってからユラナスを見る。
「ユラナス、本当にありがとう。助かったよ。あれはマジで無理だった」
「当然のことをしただけですよ。……でも、“女設定”は……予想外だったな」
ユラナスは疲れたように目を細めつつも、どこか誇らしげだった。
そこへ奥から野々花が戻ってきた。親を追い返せたことで、ようやくこっちに来られたらしい。
「……ほんと、ごめん。うちの親、ああいうとこあるから……」
謝りながらも、安堵の表情が浮かんでいる。
「気にすんなって。まあ、俺の心臓はもうちょい労ってほしいけど」
翔が言うと、野々花も小さく笑った。
一息ついて、気持ちが落ち着いたところで、三人は机の上を整えた。
「じゃ、続きやろっか」
陽介が声をかけると、自然と皆が席に着く。
勉強会が再開してしばらくすると──
野々花がふと顔を上げて二人を見る。
「そういえば、今日の国語、ユラナスも翔もめっちゃ出来てたじゃん。びっくりした」
その言葉に、翔が「んっ」と変な声を出してから視線をそらし、耳の先まで赤くなった。
「お、おぉ……あ、あれは……昨日の勉強会の……おかげ……」
自分で言いながらさらに顔が赤くなる。
ユラナスはというと、なぜか胸に手を当てて真剣な顔。
「褒められるというのは……こう、胸に暖かいものが……。悪くない、かな」
と、若干ズレたコメントを残す。
陽介は笑いながらノートをトントン叩いた。
「はいはい、照れてる場合じゃないぞ。ほら次の問題いくぞ」
4人が机に顔を寄せ、あーだこーだ言いながら問題を解いていく。
難しい問題が出るたび誰かが悲鳴をあげて、誰かがツッコミを入れる。
ユラナスは分からない問題に首をかしげながらも、真面目に学ぼうとしている。
翔は、分かったところだけ妙に得意げ。
野々花は、二人をフォローしつつ楽しそう。
そして陽介は、そんな三人を見守りながらページを進めていく。
だが──
陽介の手が、ふと止まった。
プリントの片隅に印刷されたある語句が、何処か“創造神”を彷彿とさせたのだ。
胸の奥が、わずかにざわりと揺れる。
「? 陽介、なんか疲れてる?」
すぐ近くにいた野々花が、小さな声で覗き込んでくる。
「大したことないよ。ただ、ちょっと考えごとしただけ」
陽介は軽く笑ってごまかした。
しかし、そのわずかな“揺れ”を、ユラナスだけは見逃さなかった。
「……陽介くん。何か、考えてる?」
周囲に聞こえないくらいの、ごく静かな声。
陽介は一瞬だけ目をそらし、曖昧に笑う。
「んー……まあ、ちょっとね。けど、今はいいよ。後でちゃんと整理するから」
このことが話題に上がることは、もうなかった。
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外はもう夕方の気配。
なのに四人の周りだけは、不思議と柔らかい空気が流れていた。
嵐のような時間を乗り越えたあとだからこそ、
ささやかな“いつもの勉強会”が、何倍もあったかく感じる。
まるで、静かで優しい家族の時間みたいに。
その後もしばらく、机の上には笑い声や小さなため息、鉛筆の走る音が交互に落ちていった。
陽介の胸の奥に残った“ざわつき”は、静かに沈んでいくわけでも、完全に消えるわけでもなかった。
けれど──
それを抱えたままでも、こうして笑える時間があるのなら。
今はそれで充分だ、と陽介は思った。
そういえば、昨日気まぐれで書いた物語を投稿しました。お好きなジャンルかはわかりませんが、よかったらご覧になって下さい。




