”創造神”
2話投稿の日。もう1話はできれば午前中に出します。
ユラナスは陽介の家から帰宅したあと、ひとまず息を整え、主の待つ空間へと跳んだ。
そこは、現実世界とは隔絶された純白の領域。空も地も境界がなく、ただ淡い光だけがゆらめく場所だ。
その中心に、三つの影が立っている。
ユラナスの主——落ち着いた雰囲気を纏った神。
そして、初対面となる二柱の神格。
一人は柔らかな表情と、知的な雰囲気の神。
もう一人は、どこか子どもっぽいほど快活な神。
ユラナスは膝をつき、任務報告を始めた。
「以上が、今日の異能力事案への対応報告です」
主は静かにうなずいた。
「ありがとう。世界は広い。すべてを一人で背負わせるつもりはないが……君が最後の報告者になったね。他の使徒たちは、もう済ませている」
「はい。遅れてしまい申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。──ほら、顔を上げて」
促され、ユラナスはそっと身体を起こす。
すると、初対面の二柱がユラナスを興味深そうにじっと見ていた。
柔らかい雰囲気の神、”柔和”が口を開く。
「ところで……陽介くんに能力を与えた神のことだけどね」
その名を聞いた瞬間、ユラナスの肩が僅かに揺れた。
「ディオニス。あの”暴君”が、どうして彼に力を与えたと思う?」
隣の活発な神、”活発”がニヤニヤと笑って続ける。
「でもまあ、邪智暴虐の王(w)おかげで面白そうな展開にはなってるでしょ? ”ヤツ”の過去を見る機会も増えるし、暇つぶしには最適じゃん」
言葉の端々に、どこか親しみと面白がりが混ざっている。
最後に、中央の落ち着いた神—”創造神”が、少し困ったように眉を寄せた。
「……あまりニヤニヤして見るな。いくら“他人”とはいえ、こっちは恥ずかしいんだ」
その声色。
その話し方。
その三人の掛け合い。
——どこかで。
——誰か。
——聞いたことがある。
ユラナスは、ふと胸の奥に“何か”が引っかかるのを感じた。
(……え? これ……)
記憶の端に手が届きそうになった、その瞬間。
”活発”が指を差して言った。
「おいおい、“創造神”サマ。そこの……ユラナス、っていったか。こいつ、今時間停止使おうとしてるぞ?」
”柔和”も、優しく目を細める。
「何か、思い出しかけたんじゃないかな?」
二柱がまるで、いたずらを咎める子どものような視線で中心の神へ訴えかける。
中央の神は小さく息を吐いた。
「……わかっている」
——次の瞬間。
ユラナスの頭を満たしかけていた“何か”が、するりと消えた。
思い出しかけていたはずなのに、何を考えていたのかすら曖昧になる。
「あれ……?」
胸に残った違和感だけが、かすかに疼いたが——
すぐに「まあいいか」と思えてしまった。
何も問題はないような気がした。
いつものように、主へ礼をして退出する準備を整える。
けれど、その背中を見つめる神々の視線には、柔らかくも深い意味が宿っていた。
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ユラナスが部屋を出ていったあと、“活発”が静かに“創造神”へ尋ねた。
「どこまで”消した”んだ?」
“創造神”は額に手をやりながら、短く答える。
「お前ら二人の喋り方。それと、浮かんだ疑問をある程度だ」
言った直後、胸の奥を押さえるようにして“創造神”が苦しげに息を呑んだ。
その様子を見た“活発”と“柔和”は慌てて身を乗り出したものの、動揺はしていない。
――どうやら全く予想していなかったわけではなさそうだ。
「いつものアレ? 大丈夫?」と“柔和”が心配そうに声をかける。
“創造神”は呼吸を整えながら、ゆっくりと頷いた。
「ああ……。そろそろ俺も、本気で考えなくてはいけない」
二柱が見守るなか、“創造神”はゆっくりと立ち上がった。
“柔和”も“活発”も、普段の余裕を見せず、ただ心配そうな眼差しを向けている。
その頃――ユラナスは一人、静かに確信へと近づいていた。
陽介に抱く好意の理由。それは、“主”に酷似しているからだ、と。




