決断
今日は2話更新の日です。続きも楽しみに待っていてください!
■■■■の姿がふっと空へ滲むように消えると、通学路にはいつもの風が戻った。
ざぁ、と木々が揺れ、車の走行音が遠くで響く。
さっきまでの静寂が嘘みたいに世界が動き始める。
陽介はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「……なんだったんだ、アイツ……」
声に出してみても答えは返ってこない。
空は薄曇りのまま、静かに広がっているだけだった。
しばし呆然としたあと、陽介は自転車のハンドルを握り直し、ゆっくりと家へ向かってこぎ出した。
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家に着くと、日常は何事もなかったかのように続いていた。
夕飯を取り、風呂に入り──
そして自室に戻る。
机には部活の資料と、今日決めたゲーム企画のメモ。
いつもならそれを見ると自然と気分が上がるはずなのに、今日はどうしても意識がそっちに向かない。
ベッドに倒れ込むと、天井をぼんやり見上げる。
そして、脳裏によみがえってくる。
■■■■の、あの静かな声。
――君は、世界を揺らしつつある。
「……揺らしつつある、ね」
呟いた言葉が空気に溶けていく。
世界を? 自分が?
そんな大層なことをしているつもりなんてなかった。なにせ、自分がやっていることと言えば、能力を配るか悩んでいるだけなのだから。配っているわけでもないし、勿論それのせいでなにか起きているわけでもない。
それでも、あの観察するような視線と言葉には、妙な現実味があった。
一瞬、未来という単語が頭をかすめたが、振り払った。人間が過去にさかのぼれるわけがない、と。
そこまで頭に浮かんで、もっと重くのしかかってくるもう一つの声。
――配ればいいんだ。
アイツのあの台詞。
「……配るだけで、全部解決するわけじゃないだろ」
陽介は頭を抱えた。
配ったら、それはそれで新しい事故や暴走の原因になる。
でも、配らないで放置しておけば……
アイツに、いずれ世界を滅ぼされる。
どっちにしても放ってはおけない。
「……はぁ……どうすりゃいいんだよ……」
何度もため息をつきながら、陽介は枕に顔を埋めた。
しかし、睡魔のつま先さえも見えなかった。
(配るべきなのか……?でも、どう配る?誰に?どんな基準で?)
頭の中で同じ思考がぐるぐる回る。
その果てに、ようやくひとつの考えが浮かんだ。
(……ルールだ)
配るにしても、ただ与えるだけじゃ駄目だ。
暴走しない仕組み、使いすぎない制限、守らせるための枷。
それがあれば……少しはマシになる。
「そうだ……能力そのものに“制限”をつければ……」
ようやく、自分の胸にほんの少しだけ落ち着きが戻ってくる。
能力を配る。
けれど、ただばら撒くんじゃない。
きっちりとしたルールを作り、能力として配る。
それが唯一の妥協点であり、答えなのかもしれない。
陽介はゆっくりと目を閉じた。
(……明日、考えをまとめよう)
ようやく眠気が訪れはじめる。
世界を壊すか、守るか。
その分岐点にいる自分を自覚しながら、陽介は静かに眠りへ落ちていった。
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