とある休日の帰宅中 ②
一週間が早いです(;´Д`)
放課後、薄曇りの空の下。
陽介は自転車をこぎながら、通学路の緩い坂道をのんびり上っていた。
今日の部活の楽しさと、静かに胸の奥へ戻ってくる不安。
その二つが、頭の中でせめぎ合う。
(──結局、“配る能力”をいつ使うか、すら決められてない)
そんな思考を抱えたままペダルを回していると、家まではもう数分というところ。
……その時だった。
ふっと、世界の“音”が一段静かになった。
風の流れが止まり、木々のざわめきが遠のき、景色の色さえわずかに鈍る。
「……え?」
陽介がブレーキを握り、顔を上げた瞬間──
前方の空に、ひとりの男が“立って”いた。
高い位置。だが揺れず、ただそこに存在している。
異質そのものだった。
その男と目が合った瞬間、陽介の背筋に冷たいものが走る。
(……危険だ)
本能が警告を鳴らした。
男は陽介をじっと“観察する”ような瞳で見つめていた。
なにかを読むように、測るように。
陽介には理由も意味も分からない。
そして男がふっと呟く。
「あぁ……これは、想定以上だ」
かすかに動いた口の形だけが、陽介の不安を増幅させる。
息を呑んで立ち尽くす陽介のもとへ、男の声がすっと降ってきた。
「少年。聞こえるか」
静かだが、よく通る声。
「少しだけ……話をしよう」
陽介の心臓が跳ねる。
だが逃げるより先に、なぜか問いたださなければならない気持ちが勝った。
「……あなた、誰だよ」
それを聞いた男は、ゆっくり降下し、地面に足をつけた。
敵意はない。だが味方とも思えない冷たさもある。
「君は、世界を揺らしつつある。だから確認しに来た。この”眼”で」
深い黒の瞳が、陽介を貫いた。
遠いどこかから見下ろしているような静けさ。
陽介は、ごくりと喉を鳴らした。
「……だから、名前を……教えてくれよ」
一瞬、男の瞳が揺れた。
「僕の名は──■■■……っ」
風が破れたような、聞き取れないノイズが割り込んだ。
男の表情が一瞬だけ苦しげに歪む。
「……失礼する。今は……名乗れない」
短くそう告げると、男はふいに空へ跳んだ。
風が巻き上がり、次の瞬間には雲の奥へ消えていた。
ぽつんと取り残された陽介は、しばらくその空を見上げ続けた。
胸の鼓動は収まらない。
──名前を言おうとした“瞬間だけ”走った、謎のノイズ。
あれがいったい何なのかも、
あの男が何者なのかも、
何ひとつ分からないまま。
ただ、この出会いが自分の未来を変えてしまう──
そんな感覚だけが、確かに残った。
おかしな点がありましたら、構わずコメントで教えてください。
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