再度
2日続けて夕方投稿になりました。ゴメンナサイ。明日は朝に出せるように頑張ります。
その日――金曜日の四時間目あたりだった。
昨日ほとんど眠れなかった反動か、視界の端がじわじわと暗くなり、黒板の文字が……にじむ。
先生の声も、周囲の物音も遠くなる。
「……影浦、大丈夫か?」
誰かの声が聞こえたが、返す余裕はなかった。椅子が軋み、体が傾いた瞬間、担任がすぐに駆け寄ってくる。
「保健室行くぞ。歩けるか?」
頷くことすら辛くて、ただ曖昧にうなずいたような気がする。
腕を支えられながら廊下を歩くうちに、靴の音すら遠くなっていった。
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保健室のカーテンに囲まれたベッドに横たわると、全身から力が抜けた。
冷たいシーツが気持ちいい。呼吸をするたび、肺の奥が変にざわつく。
(……少し寝れば、楽になる……はず)
そう思って目を閉じた直後だった。
――白が、にじむ。
心臓が跳ねた。
見覚えのある“無音の白”が視界に広がっていく。
今度は夢ではない。意識がはっきりしているのに、保健室の気配がすべて遠ざかる。
『――よぉ。ずいぶん弱ってんじゃねぇか』
聞きたくもなかった声が、真横から降ってきた。
反射的に体を起こそうとしたが、動かなかった。
それどころか、白い空間の中央に立つ“ソイツ”――あの巨体が、保健室の中と重なるように存在している。
「……なんで、また……」
喉がうまく動かず、かすれた声しか出ない。
アイツは、その様子を見て鼻で笑った。
『別に? お前の状態、ちょいと気になっただけだ』
「……気にするようなタイプじゃないだろ」
『はっ、そうだな。でも――壊れちまうのは困るだろ?』
ぞくりと背中が震える。
『で、本題だ。お前、悩んでんだろ。
“どうやって世界を面白くするか”』
核心を、あっさり突かれた。
『答え、教えてやろうか?』
アイツが、ゆっくりと近づいてくる。
白い空間の奥で、黒い影が揺れた。
『――お前の能力で、この世界の連中に“力”を配ればいい』
呼吸が止まった。
「……は?」
『簡単な話だ。能力を持つ奴が増えれば、世界は転がり始める。
争いも、変化も、奇跡も。
“面白い”ことなんざ、勝手に起きるさ』
「そんな……そんな危ないこと……!」
『危ない? だからいいんじゃねぇか。』
低く、楽しそうに笑う。
『お前一人が頑張るより、よっぽど効率的だぜ?
世界を、滅ぶ未来から遠ざけたいんだろ?
だったら――動かせ。他人を。』
耳元で囁かれた瞬間、白い世界がひび割れた。
ぱきっ、と乾いた音が広がり、保健室が戻ってくる。
「……っ!」
はっと目を開く。天井。
保健室の天井。
息が荒い。手足が冷えている。
(……あれは……幻覚? 夢? それとも……)
答えは、誰も教えてくれない。
ただ一つだけ確かなのは――
胸の奥に、嫌な鼓動がひとつ落ちたことだった。
そして陽介は、誰にも言えないまま、静かに目を閉じた。
今日は朝が早かったためか、もう眠いです。




