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第7話 揺れる竜車

 正体不明なものを見る目を向けた奴隷達と奴隷商人たちの視線に構わずザクスはユウを抱え上げ、歩き出す。



「さあ、行こう。竜車を用意してある」



 ザクスはそれだけ告げると奴隷商館を後にする。ザクスの言葉にぽかんと口を開けたままの奴隷達とロゴスたち。ドアを開けた先には、この王国で用意できるものでは最高級と言えるであろう竜車。

 ぽかんと丸く開けていた口が一斉に縦長に開く様子をザクスの腕の中で見ていたユウはきゃっきゃと笑う。


 そのユウを抱えたままザクスは乗るように促す。てててとすぐさま歩き始めたリリ以外のぼうっと立ち止まってしまっていた奴隷たちの隷属紋にちりと痛みが走り、慌ててザクスに従い早足で歩き始める。ふと立ち止まったザクスが一番先頭で歩き始めた竜の鱗がある男を見る。男はザクスの言わんとしたことに気付き、首を振る。



「あれは魔物の類ですので。我々の認識では人と虫くらい違います。なので、お気になさらず」


「そうか」



 相変わらず鋭い目つきのザクスではあったが、ほっとしたような溜息を吐き、答えた男は伏し目がちにしていた顔をあげ、まじまじとザクスを見る。その視線に真正面からこたえるようにザクスはしっかりと男を見つめてきたので男は姿勢を思わず正した。



「敬語の類はいい。これから家族になるんだ。何も遠慮はいらない」


「いや、我々は奴隷ですので……痛っ……!」



 『雇い主であるザクスの命令に逆らってしまった』男に隷属紋から痛みが奔り顔を歪ませる。だが、その痛みがザクスの本心であることを証明しており、男は目を見開く。



「のう、竜族の。言いたいことは分かるが今は竜車に乗ろうではないか。わしらを買ってくれた『家族』が言うておるのじゃから」



 竜族と呼ばれた男の肘の高さあたりで頭をぴょこぴょこさせている小柄なリリが呑気な顔で笑いながら告げると男は苦笑いを浮かべ何度も頷く。



「分かった。ドラアグと言う。よろしくな」


「ああ、ドラアグ。よろしく頼む。ドラアグ達はアレと何と呼ぶ?」


「……亜竜、かな」



 ドラアグが少し思案顔を浮かべ告げると、ザクスは深く頷き振り返る。



「では、みんな、あの亜竜の車に遠慮なく乗り込んでくれ」


「ありゅー!」



 ザクスの竜族の奴隷とのやりとり、腕の中で楽しそうに叫ぶユウ。信じられない光景に奴隷達は顔を見合わせるが、先ほどの痛みを思い出し慌てて車に乗り込む。


 車の中はかなり広く、9人が乗り込んでも足を伸ばせる程で幌もしっかりしており、床には敷物があり、ザクス、リリ、ドラアグ以外の奴隷達は恐る恐る腰を下ろす。

 全員が座ったのを確認するとザクスの声に従い車を付けた竜が走り出していく。奴隷商人たちは呆然とその様子を見つめていた。



「さて、俺の家族たちよ、歓迎するぞ。これからよろしくな」


「あの!」



 ユウを抱え竜車の揺れに合わせて揺らしながら口を開いたザクスの言葉。それを遮るように手を挙げたのは金髪の女。女はしっかりと頭を下げて話し出す。



「わたくしたちを買って頂き、ありがとうございます。わたくしはアンジェリーナ=スヴォル……いえ、アンジェリーナと申します。どうぞよろしくお願い致します」


「敬語は……」



 ザクスは身を乗り出すが、それを制するようにアンジェリーナが陶磁器のような美しい白い手を差し出し、口を噤む。



「いえ、不要という気持ちも分かりますがまだ頭の整理が追いついておりません。お許しを」


「わかった。話しやすいように話してくれ。俺達は家族なんだから」


「あの……それです」


「ん?」



 視線を彷徨わせ戸惑いながらアンジェリーナがつげるとザクスは首を傾げる。

 それを真似るようにユウが首を傾げるので、アンジェリーナはどう言うべきか迷った挙句に純粋な疑問を口に出す。



「その、家族とは……どういう意味なのでしょうか?」


「そのままの意味だ。これからみんなは俺の家族だ」


「わたくし達奴隷と家族になる……ということですか?」


「それ以外にないと思うが」


「は、はあ……」



 背筋をすっと伸ばした美しい姿勢で会話を続けていたアンジェリーナだが、理解が及ばず身を丸くしじっと床を見つめザクスの言葉の意図を探し続ける。


 アンジェリーナの様子を見てさらに首を傾げるザクスとそれを真似るユウ。



「ちょっといいか」



 そこに割って入るように残っている方の手を挙げたのはドワーフの髭男だった。



「ドワーフのボボという。俺も先に礼を言っておく。ありがとう。その子の扱いを見る限りあんたは悪い奴じゃなさそうだ。そんなヤツに買ってもらえてありがたいし、敬語不要なのもありがたい。だが、どうにもすっきりせん。あんたは何故おれ達を買った? 何をするつもりだ? こんなドワーフにエルフに竜族、魔族、獣人族……異種族を集めて……何故おれ達を選んだんだ?」


 あまりに傾きすぎて落ちそうになったユウを抱え直すと、ザクスはボボに笑顔を向ける。



「何をするつもりって家族でゆっくり暮らすんだ。何故選んだかは……そうだな、言っておくべきか」



 ザクスがユウの頭を優しく撫でると、ユウは目を細める。その様子を見て抱える腕の力をきゅっと少しだけ強めるとザクスは揺れる竜車の中の奴隷達を見回す。



「みんなは裏切られて此処に連れてこられた者たちだ。」



 息を呑む音を出したのは青髪の女性。両手を口元に当て見回している。アンジェリーナもその言葉でぱっと顔をあげ丸くした目でザクスを見る。ボボが『何故それを……』とつぶやくが、ザクスは気にせず言葉を紡ぐ。



「一族を守るために1人で戦い捕らわれたにも関わらず誰も助けに来てくれなかった竜族の長、なんらかの理由で目を潰され森を追い出されたエルフ、弟子に騙され功績を奪われたドワーフ、力が弱った事でその座を奪われた挙句に魔女扱いされた聖女様、紫肌であるだけで学園でひどい扱いを受けた魔族、婚約破棄をされた上に罠に嵌められ家を追放された令嬢、強すぎるが故に兄弟から疎まれた獣人、そして、毒親に捨てられた子ども」


「どくおや?」



 ユウが最後に聞こえた言葉を繰り返すと、ザクスは慈しむような目でユウを見つめ、再び頭を撫でる。

 整備のできていないでこぼこな王都の道。その道ではザクスが用意した最高級の竜車でも吸収しきれないほどの揺れが生まれ、ゴトゴトと音を立てる。揺れる竜車の中で互いに見合う奴隷達を見て、ザクスは悲しそうに、それでいて、しあわせそうに微笑んだ。



「俺は裏切られた者達同士なら、家族になれるんじゃないかと思ったんだ」

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