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第2話 最悪な家

 ギリル=グリディアール。

 グリディアール家の次男として生まれたこの少年は生まれながらの悪と言える存在であった。

 悪党としての才能は、己を過信する傲慢な長男やなんでも欲しがる三男、自分を着飾り男漁りに夢中になっている長女や次女に比べれば圧倒的と言えた。


 己を理解し、己の目的の為であれば、プライドを捨てることも出来るし、躊躇いなく己の手を汚すことも出来る。


 己の快楽の為に、自分さえも操り悪の巣窟と言えるグリディアール家を操ろうとしていた。


 だからこそ、ギリルは、後継者がこれ以上増えれば自分の力だけでコントロールすることが難しいと感じていた。それになにより。



 ギリルは一度人を殺してみたかった。



 殺しても何も言われない奴隷達ではなく、価値ある者の命を壊してみたかった。



(生まれたばかりのザクスを殺す)



 それを決めた時、ギリルは言葉に表せないほどの緊張感と同時に興奮を覚え、一筋赤い血を鼻から垂れ流しながら嗤った。


 兄や姉を操り、ザクスの元から母や使用人を引き離す。


 ザクスの母クレアや使用人達の遠ざかっていく背中を見つめながら、その慌てて駆ける足音よりも早い心臓の音を打ち続ける胸を抑えながら静かに大きく深呼吸をし、息を殺して部屋へと入っていく。


 計画は実にシンプル。どこにでもあるような縄で首を絞めて殺す。

 一気に締め上げて声も出せないまま殺す。

 縄には三男の血を沁み込ませてあるので何かしら調べることの出来る魔法を使ったとしてもギリルだと思われることなく、他の後継者候補を蹴落とすことが出来る。


 ギリルは興奮故にふーふーと荒くなっていく息を必死に抑え、両手で持った縄を生まれたばかりのザクスへと伸ばす。


「ザクス、オレに人を殺す快感を教えてくれてありがとう」


 ギリルが小さな震え声で囁き、首に縄を当てた。

 その時だった。


「……!」


 ザクスがぱちりと目を開けた。


 ギリルと目が合う。ギリルはいきなり赤ん坊が目を開けたことに驚き、自身の真っ赤な瞳を見開いた。そして、動けなくなった。


 何故なら、ザクスはじいっとギリルの目を見つめていたから。

 母親譲りの真っ黒な目をじっと向けるザクス。

 その瞳はルビーのようだと評されるギリルの瞳とは違い淀み濁っており、何故か黒い沼に沈むような感覚に襲われ、動けなくなってしまった。


 それはギリルの才能であり、本能。


 正体不明な危険なものに対し一瞬で警戒レベルを上げる強烈な生存本能。


 ギリルのその感覚は間違いではなかった。


 ザクスの身体は生まれたばかりで小さく弱弱しいが、その中に宿った魂は前世の記憶を持ち、神にさえ復讐心を抱く存在。


(生まれて意識を持って早々これとは……神の奴、本当に最悪の家に落としやがった。しかも、あんな中学生くらいの子どもが随分と楽しそうに殺そうとしていたな……!)


 ザクスは目を開く前に、息をひそめ近づいてくる気配を感じており薄目で周囲を探っていた。

 それは憎むべき神が与えた才能であることがザクスにとって堪らなく苦痛だった。

 だが、生きたいというのは人の本能。記憶に刻まれている前世の死の恐怖は拭えず、ザクスは生を掴もうと必死に藻掻くことを選ぶ。


 ギリルの明確な殺意を確認したザクスはギリルが縄を首にかけようとするのをギリギリまで待ち、目を見開いた。すると、ザクスの予想通り驚いたギリルは手を止めた。


(ただ目を覚ましただけでは幼いにも関わらず人殺しをする為に此処にやってきた彼は止まらないだろう。)


 そう判断したザクスは驚かせ、隙を作ることに集中した。そして、その目論見は見事に成功し、ギリルは止まった。

 更にザクスは次の手を打つ。神にチートほどではない才能を与えられたザクスに出来ることは多くない。赤ん坊に出来、ギリルを止める方法。


 ザクスは、ギリルが次に動くよりも早く、静かに深く息を吸い……


「あぎゃあああああああああああああああああ!」


 泣いた。


 部屋に他に誰もいないことを確認していたザクスは、この赤い瞳の中学生位の少年が部屋に暫く誰も入らないようにしていたと考えた。だが、部屋の外であれば、通りがかる人もいるはず。大きな泣き声が聞こえれば誰かがやってくる可能性がある。


 勿論、来ないかもしれない。だが、この邪悪ながら利発そうな少年も僅かな可能性があれば避けたいはず。


 そう考えたザクスは大声で叫び続けた。叫べば叫ぶほどザクスは自身の感情が高ぶっていくのを感じた。

 神への怒りは勿論だったが、ギリルに対しても並々ならぬ怒りをあふれさせていた。


 中学生くらいの容姿のギリルが前世の娘の中学生の姿となぜか重なった。


 その頃の娘はとにかく男を嫌悪していた。

 そのくせ、金はせびり、少なければ鼻で笑い、多かったとしても礼も言わずに出かけていくような娘になっていた。


 後になって分かったが中学生に挙がる頃には男の妻、母親から、男が実の父ではないと教えられていたらしい。


 今、思い出せば、あの目は嘲りの目。

 母にも騙され、愛されていると勘違いしている男への嘲笑の目だった。


 その嘲笑とギリルの殺意あふれる笑みが重なり、どんどんと怒りが膨れ上がった。


(許さない許さない許さない! 神も! 俺を殺そうとしたアイツも! 前世の娘も! 絶対に許さない! 俺は! お前ら全員を許さない!!!)


 喉が千切れるほどに怨嗟の声を飛ばし続けるザクスに、ギリルは状況が悪いと考えたのか、顔を歪め、慌てて部屋を出ていく。


 その後、戻って来た母親や使用人も何故泣いているのか心配するどころか、五月蠅いから早く泣き止めという表情を浮かべており、ザクスは悟った。


(本当に、最悪な家だ……前世と変わらない。最悪な人生のはじまりだ)


 こうして、極悪貴族の四男、ザクスは生まれて早々喉を潰し、しゃがれた声を手に入れ、『家族』達に馬鹿にされる日々が始まったのだった。

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