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第13話 最悪の来客

 ずっと家族と一緒。


 ザクスはそう信じていた。


 何故なら、奴隷は裏切れないから。


 勿論、約束した通り恋人が出来、新しい家族をつくるとなるのであれば祝福するつもりだった。


 だけど、


「これは……! これだけは! 認めない! 認められない!!! 認めたくないっ!!!!」


 満身創痍、傷だらけのザクスは叫ぶ。

 その鋭い視線の先には、家族の中で一番幼く、誰からも愛されたユウの背中。

 そして、その向こうには白く光る肌を持つ存在達が薄ら笑いを浮かべてユウに向かって両手を広げて待ち構えていた。





 王都を出て、1年。


 ザクスたちは最終目的地である黒の森そばにある屋敷へと辿り着いた。

 ここまで多くの事件や騒動に巻き込まれ、随分と時間がかかってしまった。


 だが、乗り越える度にザクスたち家族の繋がりは強くなっていき、絆を感じられるようになった。ザクスはそう思っていた。


 ドラアグとリリは家族の中でも遥かに年上ではあるが遊び好きでよくシュラに怒られてはいるが、困った時には頼りになる年長者として皆から尊敬されていた。


 シュラは一家をまとめるしっかり者であり、子煩悩な教育ママとして誰も逆らえない母に。


 ボボはシュラに比べ多少頼りなさはあるが、家族を支える大黒柱としてジャムやザクスのよき相談役となっていた。


 ジャムは口うるさいがその口うるささも愛情の裏返しだとみんなに理解してもらえているし、魔法を駆使し、何度も家族のピンチを救った頼れる兄。


 アンジェは元婚約者である王子との一件で家族の姉という立場を捨て、ザクスの恋人になり、シュラと共に家族を様々な面で守っている。


 アンジェの代わりに姉となったリィンは、古代文明の人形であり感情表現が乏しいが、ザクスの命令であれば全て従い、なんでも完璧にこなす頼れる存在であった。


 ニアは狼獣人の中でも感覚が優れ、家族の関係性が危うくなった時に何度も懸け橋となりザクスを助けた。


 そして、一番年下のユウは家族みんなに愛され、勉強や運動もどんどん覚えすくすくと成長していた。


 ザクスにとって、誰もがかけがえのない存在。


 そんな家族との幸せな日々を何より愛おしく思っていた。

 だが、その日々を終わらせようとする者達が現れた。



 その日は、雨が降っていた。

 白い雨が。

 白い雨が降ると魔物が現れなくなり縁起が良いと言われていたが、ザクスはなんとなく好きになれず、窓から忌々し気に空を見ていた。


(多分、アレを思い出すからだろうな)


 アレとはザクスをこちらの世界に転生させた神。


 真っ白な人のような何かで、ザクスの毒親や托卵妻を含めた最悪の家族がいた前世を嗤いながら、こちらの世界でも最悪のグリディアール家に転生させた存在。

 今の家族と出会えたのはその神のお陰と言えるのかもしれないが、ザクスに言わせれば自分の意志でつかみ取った家族であり、しあわせ。


 だが、ずっとザクスは引っかかっていた。


 シュラの信仰する女神や、リリが力を与えられた森神、竜族のあがめる竜神などいくつかの神と出会い、言葉を交わした。

 なのに、あの神は今のザクスのしあわせを見て何も思わないのだろうか、と。


「まあ、何もないならそれが一番いいが……」


 そんなザクスの呟きがどこに届いたのか。その日の昼。ザクスたちの家に訪問者がやってきた。彼らは皆、気味が悪いくらい真っ白な衣を纏い、気味が悪いくらい真っ白な帽子を被り、気味が悪いくらい真っ白な歯を見せて笑っていた。


「家族水入らずのところ申し訳ありません。突然ですが、ユウを引き取りに参りました」

「は?」


 ザクスを含めた家族全員が鋭く睨みつけたにも関わらず、先頭の白い男は笑い続けたまま、話を止めない。


「いえね、その子はウチの子でしてね。いやいや、今まで育ててくれてありがとうございましっ……!」


 白い男が言い終わる前に、ザクスの黒い魔力を纏わせた手が男の口を掴んでいた。そして、そのまま持ち上げるとちらりと後ろで不安そうに瞳を揺らすユウを見て顔を歪める。


「ユウがお前の子だと? ふざけた嘘を言って、かわいい弟を困らせるなよ。ユウの事は誰より俺が知っている。お前らのようなヤツがユウのそばにいたなんて聞いたこともない」


 ザクスは、奴隷達を買う前にありとあらゆることを調べた。ドラアグやリリについては人族では生きられないほどの長い生涯であった為全てを知ることは出来なかったが幼いユウのことは完璧に分かっていた。


 ユウが元いた家は普通の平民の家で、暴力を振るう父親がいたが、彼は本当の親ではなかった。母親が別の男との間にもうけた子どもで、母親は父親から捨てられたくないが為に、ユウを奴隷にして売り払った。そのユウの血のつながった親である男も調べがついていた。


 その調べの中で白い男達の情報は一切存在していない。


 ザクスがその記憶を確かめるように思い出していたその時だった。


 がぶり、


 白い男の真っ白な歯が見えた。ザクスの手を魔力ごと嚙み切る歯が。


「な……がぁあああああああ!」

「ザクスくん! すぐに治癒を!」

「てめえ、ウチの息子に何をしやがる!!!」


 いち早く動いたのはシュラとボボだった。シュラは、自力での回復が出来ないザクスに駆け寄りながら魔力を練る。そして、取り戻した聖女の力で喰われたザクスの手を治療。ボボはジャムと共に開発した金属の大きさを変える魔術式を組み込んだ金づちを巨大化させ白い男に殴りかかった。

 大切な家には一歩も入らせないという強い意志を持って振りぬいたボボの大槌は白い男の背後にいた白髪の女が出した魔法の壁に防がれてしまう。

目の前で大槌と魔法障壁がぶつかり合い家が揺れる程の轟音が鳴り響いたにも関わらず、白い男は笑みを絶やさず繰り返す。


「ユウはウチの子なんです。返してくださいますよね?」


 後ろで手を組み笑い続ける男の両脇に現れたのは、ジャムとニア。


「ふざけろよ……この馬鹿が!」

「ユウはアタシらの家族だっ!」


 4色の魔力で作られた剣を飛ばすジャムと、両手に短剣を持ち嵐のような連撃で襲うニア。

 だが、その攻撃はもう一人控えていた白い大男によって防がれた上に、飛んできた白い魔法球によって二人とも吹き飛ばされてしまう。


「ニアさん! ジャムお義兄様! ……おじいさま、おばあさま! 彼らは一体……」


 アンジェが吹き飛んだ二人の無事を確認すると直ぐに状況判断せねばと知恵者二人に問いかけるが、二人からの返答はない。目を見開き、ただただ震えている二人にアンジェは尋常ではない脅威が迫っていると理解する。


「アレは……『使徒』です」


 声の主は、アンジェの代わりに姉となったリィン。


「しと?」

「進化しすぎた古代文明を破滅に追い込んだ神の使いです」


 リィンの言葉によって確信を得たことでドラアグとリリも驚きが少し収まったようで続くように話し出す。


「増えすぎた竜族を殺したのも奴らだ」

「エルフを森に閉じ込めたのも、あの使徒じゃ」


 家族の言葉はザクスにも届いており、シュラの回復魔法を受けながらザクスは彼らを見上げながらも睨みつける。

 魔法障壁によってはじき返された大槌が視界から消えると、真っ白な歯が見えた。


 白い男はわらっていた。


 アレにそっくりな三日月形の、口が裂けたような笑い方で。


「ユウを返してください。ソレは貴方のモノではないのです。ザクスさん」

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