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第11話 二人の男

「ザクスにいちゃーん! えへ、えへ、えへへへへ」


 しっぽを物凄い勢いでふりふりするニアの耳をザクスが丁寧に撫でていると、リリに抱えられていたユウがバタつき出し、身をよじり腕の中から脱出してザクスの元に小さな足で駆けだして行く。


「ざくす、にいちゃ! ユウも!」

「おお、そうか。ニア、交代だ」


 とててとやってきたユウをニアはザクスに抱き着きながらじっと見てしっぽをぱたぱたさせると、再びザクスに顔をうずめる。


「や! ユウは……さっきまで、さっきまでいっぱい撫でられてたからあ! ……ニアはまだちょっと」


 竜車での視線は敵意と羨ましい思いがごちゃまぜになったものなのだと気づいたザクスは少し笑うと、ニアの小さな肩を優しく掴み、膝を曲げ視線を合わせる。


「ニア、俺達は家族だ。ニアは俺に頭を撫でられてうれしかったか?」

「うん」

「なら、そのうれしいをユウにもあげるんだ。家族だから。ユウはうれしいをくれる家族は好きだろう」

「……うん」


 小さく頷くニアを見てザクスは頭をひと撫ですると座ったままユウに話しかける。


「ユウ、おねえちゃんが譲ってくれたんだ。ありがとうって言いな」

「ねえちゃ、ありがと」


 ユウがザクスに言われるままにニアに礼を言うと、しっぽをぴーんと立てて目を見開いたニアが次第に口をもにゃもにゃさせ同じようにしっぽをゆらゆら揺らした。


「……! ユ、ユウ……ふ、ふふーん、アタシはいいおねえちゃんだからな。そうだ、ユウの頭、アタシも撫でてあげる!」

「ふえ……きゃー」


 ニアとザクスが肩を寄せ合いユウの頭を四つの手で撫で、ユウが笑う。

 そのうち、ザクスが片手でニアの頭を撫で始めると、ユウもそれに倣って一生懸命背伸びをしてニアの頭を撫でた。


「まあ、ああいう感じなわけじゃ。あのくらいの年ごろと違って、それなりの人生経験を踏んでおるお主らにとっては、まだ信じきれぬ部分はあるだろうが、少なくとも今はアヤツを信じて、一緒に行こうじゃないか」


 リリが振り返ると、ユウとニア以外の奴隷達は複雑な表情を浮かべながら無邪気に笑える彼らを見つめていた。そして、その場からすこし離れじっと手を見ていたのはボボだった。


「……父親、か」


 その夜、竜車を止めてキャンプをすることにしたザクスは、奴隷どころか平民でも味わえないような高価な食材を使った料理を〈影箱〉で取り出し、料理を作って見せ驚かせる。


 まだ蘇生したばかりで身体を動かすのに慣れていないリリとドラアグ、ボボ、そもそも料理が出来ないユウやニア、作らないと言い張ったジャムを除く、ザクス、シュラ、アンジェリーナの三人で料理を作り始めた。

 のだが、旅に慣れたシュラと前世で料理をさせられていたザクスは手際よくやるのに比べ、アンジェリーナはわたわたと戸惑うばかり。


 結局、アンジェリーナはユウとニアの話し相手に指名され、シュラとザクスが料理をすることになる。アンジェリーナがひどく落ち込みユウとニアに慰められている間に料理は完成。


 食事の時間は大騒ぎだった。


 奴隷としても最低の食事しか用意されていなかったドラアグたちは目を丸くして、料理にかぶりついた。そして、今までの気を張っていた生活から解放されたこともあってかほとんどの奴隷達はすぐに眠りについた。


「それじゃあ、母さん、じいちゃん。頼んだよ」


「ええ」


「う、うむ」



 ユウとニアのお守りをドラアグとシュラに任せたザクスはボボと一緒にその場を離れる。


「お前は……」


「うん?」



 連れだって歩いていると、ザクスにボボが話しかけて来る。ボボの身体は大きいがドワーフ特有の横に大きな体格で、ザクスと並ぶとザクスを見上げる形になった。ボボは見下ろすザクスから視線を外し歩きながら話を続ける。


「いや……随分と家族の扱いを分かっているようだな」


「分かっちゃいないさ。ただ、良くない見本はいくらでも見てきたからな」


「よくない見本、か……」



 それ以上はボボは何も言わなかった。ザクスも聞かなかった。

 そして、無言のまま歩く二人がたどり着いたところには、襲ってきた賊を吊るされていた。


「〈影鎌〉」



 ザクスが指先から黒い鎌を出し吊るされた賊達の口にくわえさせられた縄を切ると、切ってもらえた賊が新鮮な空気を吸い込もうと何度も深い呼吸を繰り返す。そして、酸素が行きわたった脳でここを逃げ出す方法を考え始めるが、どう考えても答えは絶望しかない。


 縄を咥えさせられる前に飲まされた黒い薬の球は毒だったらしく、飲み込まざるを得なかった賊達は抵抗する力さえも奪われ藻掻くことも出来ない。とにかく生き残る術を見つけようと賊はザクス達に縋るような視線を向ける。


「お前らの今の状況は分かっているな。質問に答えろ」


「わ、わかった……」


「お前らを雇ったのは、グリディアール家の者だな」


「……ああ」


「ダヴィラスか?」


「いや」


「ダグラスの方か」


「あ、ああ」



 奴隷となって王都に入り、そのまま奴隷商館に連れていかれたボボにとって聞き慣れない名が飛び交い思わず尋ねてしまう。


「ダグラス? 誰だ?」


「俺を追放した家の父だった者だ。まあ、もう赤の他人だ……さて、話を聞いた以上、お前たちは用済みだ」



 ザクスは薄く笑うと両手を広げ指をかきかきと鳴らし始める。

 その様子を見た賊達は目を見開き、吊るされたまま必死にもがくが力が入らず滑稽な人形劇を披露する。唯一声の出せる賊が目に涙を浮かべ叫ぶ。


「な……た、助けてくれ! 命だけは!」


「賊に身をやつす程度の奴ら、家族不幸な奴らだ。もしくは、家族全員が誤った教育を受けこうなってるかだろう。お前らをいかしておくことはユウやニアの教育に悪い。だから、死ね」



 その刹那。

 ザクスの指から伸びる10本の黒い鎌は夜の闇に溶け、全ての命の灯を刈り取り、森は静かにその血を受け入れた。



 静寂に満ちた森の中、ボボとザクスの葉を踏みしめる音だけが聞こえた。

 その沈黙に耐え切れず、話しかけたのはボボだった。


「なあ、ザクスよ。お前の父は一体……」


「自分たちで追放した上に『大金を払って育ててやったから死に様くらい笑わせろ』とか思って賊を寄越すような父親さ。それだけでわかるだろう」


「そうか……」



 暫く無言が続いた。ずっと髭を触っていたボボが立ち止まり、ザクスに話しかける。


「ザクス……おれはどうすればいい?」


 ボボの縋るような問いに、ザクスは困った笑顔を浮かべた後、少し思案顔を見せると思いついたように手をぽんと叩く。


「父よ、キャッチボールをしないか」


「きゃっちぼーる?」



 首を傾げるボボを無視して、ザクスは足元にあった手のひらに収まるくらいの石を拾ってボボに投げつける。慌ててボボが受け止めると、ザクスがここに投げてこいと手を広げる。


「な、なんだこれは……」


「これがキャッチボールだ、父よ」


「これに何の意味がある?」


「俺の憧れだったんだ。キャッチボールを親子でするのが」



 一言話すたびに一方が石を投げ、もう一方が受け止める。


「そうか、これがか……変わっているな。……おれはな、ザクス。互いに剣を打ちあい、互いの剣について熱く語り合うのが夢だった」


「それも楽しそうだ。そうだ、家に鍛冶場を作らないとな」


「……そうか。ふははは! そうか! お前に作れるかなあ?」


「作れるさ、父の子になったんだ。教えてくれればいい」


「!!! そうか……そうだな」


「父よ」


「ん?」


「……俺はな、普通に話が出来ればよかったんだ。ただただ殴られることも、金だけ与えて育ててる気になってることもなく、ただ、こうやって一緒に何かをして話が出来れば、それでよかった」


「お前……」


「だから、父。時々でいい。俺とこういう時間を過ごしてくれ」


「へ……これが父だって言うんなら」



 思いきり振りかぶったボボの投げた石は力強く受け止めたザクスの手がじーんと痺れる。


「いつだって付き合ってやるよ、息子」


 じっと手を見つめていたザクスの目元が月の光で反射した。いや、ボボの目元も光っていた。


 その光が消えるまで、二人はずっとキャッチボールを続けた。

 ずっと、ずっと。

お読みくださりありがとうございます。

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