2−2 洞窟の神殿
少し長くなりました。
次の朝、デニスは村の周囲を巡った。
そして、頭を抱えていた。
僕の持つ知識では歯が立たない。
それほど森林は深く、耕地を増やすには相当の労力と時間がかかるだろう。
今最も無いのが時間である。
何とか冬までに村が食べて行けるように考えなくてはいけない。
植物でなければ肉か魚か?
罠を仕掛けて肉を手に入れる・・当然、村人たちも考えているだろう?
そうだ、ボートがあったな!海に出てみるか。
「甲板長、海から見てみたいのですが?」
暫く考えてから、甲板長は、
「だめだな、オレたち二人が居なくなると女神様の面倒は誰がみる?まぁ、ぼちぼちと海岸沿いを歩いてみることだ。」
横で聞いていたソフィが、
「それなら、姉様も加えて4人で行くのはどうですか?」
今まで、ほとんど自分から喋らなかったソフィからの積極的な言葉に
「おぅ!その手があったか。」甲板長はビックリしてソフィの顔を見た。
「早速、クリチュと相談しよう。」
浜からクリチュたちに船を出すのを手伝ってもらった。
彼らの見送りを受けて、入江を出た。
ボートは岬と反対側を甲板長とデニスが漕いで進んでだ。
所々に浜はあるがその背後が切り立った断崖になっていて陸側からは近づけそうにない。その後ろは大森林だ。
陸から海に近付くのはかなり困難だ。
岩塊が重なり瀬となっている。難所につぐ難所である、近付くと浅瀬があって危険な場所の連続であった。
ボートを静かな波間に漂わせながら、甲板長は、
「近づけそうにないなぁ。避けて行こう。」
その岩塊を見つめていたエミィが、
「いえ、道が見えますから行きましょう。」
僕も甲板長もあ然としてエミィの方を見ると
笑って「大丈夫です。言う通りにして下さい!」
狭い水路をエミィの言う通りに進むと岩塊に隠されるように洞窟が現れた。
ボートが余裕で中に入れる大きさがあって、奥が深く入り口からは視えない。
「入りましょう。」
エミィの言葉に促されるようにボートを進めると急に暗い洞窟に入ったことで皆、一瞬何も見えなくなった。
エミィはソフィの手を握りしめ、右手を前にかざすとボウとした光があふれ出て周囲を照らした。
これも魔力?不思議な光の下を進んで行く。
少し進むとボートを接岸出来る場所があった。
ここ、舟を着けるために整備したみたいだなぁ・・
ここからはエミィの明かりを先頭に徒歩で奥へ奥へと進む。
やがて、石を明らかに加工した場所にでた。石造りの門に石張りの舗装で歩道になっているようだ。
恐る恐る目の高さの門を潜り抜け左に折れるとそこには神殿?があった。
2段ある階段を昇るとエミィが屈んで入れる程の扉があった。
ふぅ~ん。そうなのね。エミィは何かを確信したように僕を手招きした。
エミィが左手で僕の右手を握りしめ、右手をその石の扉に触れ、何か呪いの様な言葉を称えると扉が左右に開いた。
室内をエミィの明かりで照らすと一瞥し外に出てきた。
「デニス!来て!」
手を繋いで中に入ると周囲が光源も無いのに明るくなっていた。
「ここで約束の恩寵をあげるわ。抱き締めて頂戴!」
僕は逆らう事は出来ないとの思いで、エミィを抱き締めた。
その瞬間、神殿の扉が閉じた。
と同時に神殿の中が何倍にも拡がり、奥まで30メートル以上、高さも同じ様に高くなっていた。
この空間に二人だけ・・
外ではソフィがパニックになって扉を叩いた。
「姉様!姉様!開けて下さい!大丈夫ですか?」
甲板長も何とか扉を開けようと色々試みるが扉はビクともしなかった。
「待つしか無さそうですね。」
諦めの言葉が出た。
エミィは僕を見つめて眼を外させない。
「そうよ、ここには私とあなたしかいないわ!好きにしていいのよ。」
と言うと僕の胸に顔を埋めた。
僕は何も出来ずにじっと抱き締めていた。
僕の中から力が湧いて来てエミィの力と融合し僕の全身を包むのが分かった。
エミィが僕の胸から顔を離すと
「思った通りね、キスぐらいしてくれても良かったのにちょっと残念。」
「でもこれでデニスは少しだけ強くなったわ!」
そう言われると力が溢れている自分を感じた。
「ここには王家の失われた秘宝があるわ、長い間ここに置かれていたようね。」
エミィは正面の壁に立て掛けられ、槍、剣と盾を指差した。
「あなたなら認めて貰えると思うわ、どれでも良いからとってみて!」
僕は槍を取ってみた。
手に吸い付くような使い心地で重さを全く感じなかった。
「使いやすいです!」
「でしょうね。グングニールの槍があなたを認めたのよ!」
「剣を取ってみて。」
左手に鞘を持ち柄を握ると静かに抜いた。刃毀れ一つない刀身が輝いていた。
「やはりデニスは特別ね!どの神器も扱えるわね!」
どの神器を使うかは僕に委ねられるらしい。
エミィは、祭壇に手を合わせると時が止まったように暫くの間動かなかった。僕が後から抱き締め、「行っちゃダメだ!」と引き留めると「ふぅ~。」と息を吐いた。
「ありがとうデニス!危うく神の庭に引き込まれるところだったわ。」
僕に抱きつくといきなりキスをしてきた。
一瞬慌てたが、そのまま抱き締めた。
「でもお陰で神の庭からこれを持って来れたわ。」
掌の中には勾玉が握られていた。
「天乃勾玉と言うの、私の魔力を引き上げてくれるわ。」
と言うと懐へ納めた。
「ずっと二人で居たいのけれど、そうも行かないわね。」
二人は手を繋いで扉を開けた。
ソフィが、「姉様!」とエミィに飛びついた。
「大丈夫ですか?心配しました。」
涙声でエミィにしがみついていた。
「デニス、本当にデニスか?」
甲板長は僕が一瞬で逞しく成長した様子をみて驚いていた。
エミィの恩寵で、僕は身長も筋肉も成長したようだ。
神殿の横に石造りの倉庫があった。開けると、古代の金貨や道具類が一杯詰まっていた。
「ふ~ん。ここは稀代の盗賊と呼ばれたミモザ一味の拠点かしらね?このホコリの積もり方を見るともう何十年も忘れられていたみたいね。」
「姉様、この武具は王国の五種の神器の内の3つなのですか?」
ソフィは王位継承権のない王女である。
神器は王宮にあるものと思っていた。
その神器をエミィが持って出てきた。
「そうみたいね!もう百年も前に宝物庫から盗まれたものだとおもうわ。ちょうど王朝が傾き始めた時期に当たるわね。」
だからって王朝の傾きと神器の喪失は関係ないと思うけどね。
「だから、今王国の宝物庫に入っているのはレプリカよ。当時、神器が盗まれたなんて世間には言えなかったみたいね。極秘に探したけど見つからなかったみたいなの。」
でも、自ら私の前に現れるとは殊勝な心掛けよ。褒めてあげるわ。デニスの次に大切にしてあげるわね。
さらに奥に向かっていた甲板長が、戻ってきて
「光が見える。何処かにつながっているみたいだ。」
エミィは先頭に立って
「行きましょう!」
デニスは、神器や宝物をどうしたものかとウロウロとした。
「デニス!置いておいて大丈夫よ。後で取りに来ましょう。」
エミィはソフィと手を繋いだまま、手から発する光で前を照らしながら進んだ。
やがて、小さく見えていた明かりが次第に大きくなり、外に通じたとわかった。しかし出た先は崖の途中で急に足下が無くなっていた。
危うく落ちるところだった。
大森林の海側の外れに開いた大穴の中程に出たようだ。穴の途中に出たため上に上がる方法がない。
「森側から入り口を整備する必要があるな。女神の神殿を見つけたと言えば村は沸き立つだろう。」
確かにそうだが、まだ食料確保の方法が見つからない・・
とエミィが僕の手を取った。
「デニス、何を悩んでいるの?」
えっ、と思う間に頭に風景が流れ込んで来た。
そうか、定置網漁、網はシュロの木か・・
「デニス、私の力は大きく成長したわ。未来を視る力もね。特にあなたと一緒に視ると具体な景色が視えるみたいよ。」
「エミィ様、ありがとうございます。」
この道を使って、定置網漁をすれば魚が手に入る。それも一年中だ。これで何とかなるか・・




