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5−16 ジェノサイド

 「デニス!来るのが遅い!大事な貞操を奪われてしまったわ、あなたにあげるはずだったのに!責任を取ってよ!」

 なぜか、駆け付けた僕が悪者になっている。それに責任って・・


「姉様!ごめんなさい!横に居ながら気が付かなくて。」

 ソフィが助け船を出してくれるが、

「しょうがないわ、私だって動けなくなってしまったのだから。しっかし、気持ち悪かったわ。」


 部屋の端に移動して大人しく座り込んでいるケルベロスに向かって、

「冥界の王とも呼ばれるものが気が付かなかったの?」

 ケルベロスは中の頭を持ち上げて語った。

「すまぬな。わしも万能ではないのでな、それにまだ、魔王なるもののことがよく分かっておらん。最近突然に現れたのじゃ。おそらく魔族ではあろうと思うておるが・・今宵からはケルベロスにも強い防御をかけておく、許せ!美女王よ!」


 と言われて満更でもない顔をしたエミィは、

「やっぱり。デニスが悪い!今日から私と一緒に寝なさい!分かった?」

 え、えぇ、待ってください!

「姉様!」

 白々しい顔をしてソフィを見ると、

「そうだったわね!でも妹のものは私のものよ、そうね、3人で寝ましょ!よかったわね、両手に花よ!」

 エミィはとまらない。一度は僕とソフィを祝福してくれたのに・・

 僕がエミィを抱き締めてあげるのは構わない、けど、ソフィの気持ちも考えてあげて欲しい。


 僕がエミィにボロカスのように言われている時、地下の秘密の研究室では、ララが食いちぎられた右腕の止血をしていた。

「ケルベロスめ!もう少しで魔王様への最上の献上物を手に入れられるところであったのに、もう一度チャンスが来ようか?」

 ララは魔王の元へ早く帰りたかった。

 あの、優しい、充たされた場所へ戻りたかった。

 魔王様はララの全てを受け入れて肯定してくれた。


 ララが生まれてすぐにキール家は父の汚職で潰れた。

 領地を失い、家臣を失った。

 キールの家名だけで乳母の家で世間に隠れて育った。

 ある時、薬草を採りに森に入った時出会ったのが魔王様であった。


 何度も会ううちララの特異能力を見いだし、磨いてくれた。

 やがて、魔王様の館に招待され眷属となった。

 その時に頂いた『ハロナ』の名を大切にしてきた。

 キール家の名でテオドルス侯の騎士となり、ヤリガに近づきここまで来た。

 でも、実は早く魔王様の元に帰りたかった。一日も早く。


 魔王様はララに「姫様の奪取」を命じた。完遂すれば、また、優しい声で褒めてくれるだろう。

「よくやった!ララ・ハロナ・キールよ。」と。

 ララは研究室の奥、自分しか知らない部屋の仮眠ベッドで浅い眠りに落ちた。


 アルスローランもヤリガも夜半の事件を知らない。

 司令官室で猿人がやって来るのを今か今かと待っていた。

 僕は、アルスローランには報告しておくべきだろうと耳打ちをした。


 顔を真っ青にしたアルスローランは、その場をヤリガに任せると司令官室を走り出てエミィの下へ駆け付けた。

 僕は仕方なくアルスローランの代わりに司令官室の椅子に腰を降ろした。


「デニスどの、アルスローラン公子の執事と伺った。特別騎士団第4部隊長のヤリガと言います。よろしく。」

 僕は慌てて、「こちらこそ、よろしくお願いします。」ヨタロウ!何を吹き込んだ?


 後はお互いに何も言わずに気まずい時間が流れていく。

 ドアをノックもせずにいきなり開けて騎士が飛び込んできた。

「隊長!猿どもが現れました。」

 ヤリガが立ち上がり、

「よし!予定どおり実行せよ!」

 自ら帯刀し、司令官室を出て行く、

 振り向き様に「司令に予定通り開始します、とお伝えください。」

 エミィの部屋にいるはずのアルスローランの元へと向かった。

 部屋からは笑い声が聞こえる。

 何か良いことがあったのだろうか?


 部屋に入ると、エミィが手招きして横に僕を座らせた。

 僕の腕を取って、「妬ける?」とアルスローランに聞いた。

「妬けます!デニスどのの腕をこの剣で切り落としてしまいたい!」

 オイ!ヨタロウ!何言ってるんだ?

「デニス!どうする?」

「男をオモチャにしないでください!」

 エミィは僕を眼を見開いて見て、

「デニス、どうしたの?かっこいいわよ!」

「それどころではありません!猿人が到着しました!」

 アルスローランは立ち上がると部屋を飛び出した。

 僕も追って出た。


 練兵場の観覧席に入った。

 練兵場を見下ろすこの部屋から見えたのは、張り巡らせたロープに足を取られて身動きできない猿人たちに雨のように浴びせられる矢である。


 猿人たちのほとんどは母猿と小猿で戦猿と呼ばれる闘う猿は20~30頭ほどではないか?

 その戦猿たちが他の猿人を守るように盾になっている。

 中でも片手で剣を振り回す一際大きな猿人が目立った。

 『天狗』と呼ばれたその猿人は雄叫びをあげ、張り巡らされたロープを切り開き、塀を登った。

 そこにいた弓兵たちは驚き、恐れて逃げ惑った。


 2人、3人と弓兵を倒して行くが、身体に突き立つ矢も増えて行く、剣が徐々に重く感じられ始めた。ふと下に降ろした時、眉間に矢が突き立った。『天狗』は剣を杖に立ったまま息絶えた。

 動かなくなってからも身体に突き立つ矢は増え続けた。


 練兵場で立っているものは居なくなった。

 攻撃中止!と命令が出ると青縁たちが出て来て、倒れている猿人たちに槍で剣で止めを刺し始めた。


 ある者は、悲しい眼で訴えていた。

 ある母子の場合、母は子供をかばって死んでいて小猿は無傷であったが、子供は後ろから槍で貫かれた。

 また、ある者は突いた槍を掴み離さず絶命した。


 青縁の騎士も吐き戻すもの、その場で動けなくなるもの、中には笑い泣きしながら槍を突き続ける者など様々であった。

 アルスローランとエミィは観覧席から目を離さず表情を変えずに全てを見ていた。


 ・・ジェノサイド・・

 自分の決断、自分の責任、自分が背負って行くもの!

 アルスローランもエミィもそう感じていた。

 僕はエミィに触ることさえ許されないように感じ、後ろから2人を見ていることしか出来なかった。

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