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5−12 地下迷宮

 アルスローランが来てくれたお陰で、僕はやっと部隊のトップから降りることが出来た。

 肩の荷が降りて正直ほっとした。

 沢山の兵士の生命を左右する決断は僕には荷が重すぎる。


 アルスローランには色々な報告をした。

 彼がその中で真っ先に興味を持ったのは地下迷宮の猿人の子供だった。

 見に行くと言うので、僕はエミィとソフィと共に軽い気持ちで付いていった。


 エミィが檻の前でソフィと手を握り、幼い子供の方に手をかざすと幼い子供の思念が僕やアルスローランにも伝わって来た。

 ただひたすらに母のもとに帰りたい。とそれだけを願っていた。


 エミィが、身体は動くの?と聞くと、懸命に身体を動かせて見せた。

「ロロ、キキの具合はどう?」

「あまり、食べない。元気がない。」

「これから私がそこに行って治療するわ!」

 ロロからは喜びの感情があふれた。


 エミィは僕のことを気にして猿人の子供の治療をしてくれているんだろうな。

 こんなに近い存在になれば、殺せなくなるのに。


 エミィは僕と檻の中に入り、僕をエネルギー源に光による治療を行う。

 キキの顔に精気が戻った。

「後は食べるだけだよ!」

エミィの優しい言葉が2頭の頭に響いた。


 治療中、エミィは地下迷宮の奥に興味を持った。

 ??何だろう?

「デニス来て!」と僕と手を繋ぎ瞑目した。

「そういうことね!」

 と言うと僕の手は放さず、「アルス!デソフィ!奥へ進むわ!」


 マヌエルが共に行こうとしたが、エミィが遮った。

 アルスローランがその様子を見て「4人で行く、心配するな!」と皆を待たせて4人は奥へと歩きだした。


 猿人の子供を隔離してある入り口付近こそ外光が差し込み明るさがあるが、少し中に入ると光は届かない。

闇が支配する世界である。


 手燭を(かざ)して、奥へ奥へと進んで行く。

 岩に囲まれた通路は意外に広くて2人が並んで通れる。そして徐々に下っているようだ。


 突然、肩掛けカバンの中の豆柴が暴れ出した。

「オレはこれ以上行かんぞ!出してくれ!」

 横を歩くエミィが押さえながら、

「大人しくなさい!闇に向かって投げ飛ばすわよ!」

「オレの居ていい場所じゃない!」

 優しいエミィが登場して、

「大丈夫よ!私がいるから!」

 うぅ~ん・・やっぱり、やだ・・


 通路が急に細くなり、人ひとりが通るのがやっとの場所に来た。

 エミィが僕にここと指差して、「グングニールの槍で突いて!」僕は腰だめに構え一気に突いた。

 壁に大きく穴が開き、人が通れる通路が現れた。


 その通路の壁は滑らかで明らかに人工的でその壁をヒカリゴケが覆い、灯りが要らない程度の明るさがあった。

床も少し湿ってはいるが平坦で歩きやすかった。


「イヤだ!イヤだ!ここに入っちゃいけない!」

 僕の肩掛けカバンが騒いでいる。

「ここからひとりで帰ってもいいわよ!」

 エミィの突き放すような言葉に、

「エミィ!エミィ様!姫様!許して!お願いだよう!」


「ここから、ハーデスの神殿よ。皆私から離れないで!」

 ピチャッ、ピチャッ、進むほど床が濡れてくる。歩く度に水が溜まってその水面に波紋が拡がって行く。

 水の深さはほんの1センチメートルほどなのだが。


 と、突然何もなかったはずの正面に一頭の犬、三つの頭を持った犬が現れた。


「ケルベロスか?」エミィが名を呼んだ。

「冥界の王はお会いになられない!早々に帰るがよい!」


 ケルベロスとじっと見つめるエミィの間で一瞬で永遠の時間が流れた。

「わかった、帰ろう。一つだけ教えて欲しい。」

 ケルベロスの真ん中の頭が、

「何だ?」

「冥界の王は猿人の冥界入りの審査を自ら行っているのか?」


 人間が死んで冥界入りする時、必ず冥界の王が面接すると言われている。

 逆に言えば人間以外は他のものに任せているということだ。

 冥界では猿人が人間と同等かどうかをエミィは聞いた。


 3つの頭はお互いの言葉で伝えあった後、

「先日、やって来た3頭は王が御簾越しに臨席なされた。」


「分かった!帰る!」エミィは振り返ると戻り始めたが、再び振り返って、

「ところで冥界の王よ。我等は猿人を滅ぼす、文句はないな!」


 ケルベロスの背後の空間が歪み混沌としか表現しようのないものから声が聞こえた。

「姫よ!儂はこの世を統べる者たちのみ相手にしておる。それだけよ。」


「忠告をひとつやろう。姫が世界を統べるつもりであるなら左右にいる男妾を大切にすることだ。良いものを侍らせておるの!」

「その折には儂の神殿を光の下に建てよ!そろそろ地上に戻りたいのでな。楽しみにしておるぞ!」といつの間にか姫の手に黒い腕輪が握られていた。


 気が付くと4人は、地下迷宮の入り口の子猿人の檻が見えるところにいた。

 豆柴が飛び出て、ほっとした声で

「あぁ!やっと帰れた。姫様は酷すぎる、あの場所にヨルムンガンドが居たことを知っていて連れていった。」


 恨み言が続いて出てきた。

「ヨルムンガンド?」

 エミィが説明してくれた。

「ヨルムンガンドはフェンリルの弟。蛇の形をしているわ。普段は海の底に居るんだけどね。フェンリルは苦手みたい、仲良くすればいいのにね。」


 豆柴は、「ふん!あんなやつ。」と言うとソフィに抱き上げて貰った。

「エミィ、あれは何だったんですか?」

 僕を妖しい眼で見つめると、

「冥界の王ハーデスの神殿。再び行ってももうあの場所にはないわね。」

「そのハーデスと話したんですよね。」


 あら、

「聞こえたの?さすがね。たぶんソフィにも聞こえてないと思うけど。」

「ハーデスが言っていた『この世を統べる者』とは人類のことですよね。」


「今はね。ハーデスは猿人にも可能性があると感じたみたいね。」

「それと左右の男妾とはアルスローラン指令と僕のことですか?」

「あら、並べられたのが不満?じゃぁ、1番がデニス、2番をアルスにしとくわ。私にはデニスが1番よ!」

「いえ、そうではなく・・」


「??あぁ!そうよね、デニスはソフィと結婚するんだったわね。仕方ないから2番にしとこうかしら?」

「いえ、いえ、困ります・・」

「いいじゃない!両手に花でしょ!」

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