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1−4 テオ

 この二人は一体何なんだ?

 戸惑いと疑惑が胸の中を渦巻いていた。

 でも・・二人の部屋の警備につくのは楽しみだし、何となく嬉しい。

 船のみんなは知らないが、二人共凄い美人だ。

 たまに話しかけられると、緊張で言葉が上擦ってしまう。


 姉の方はブロンズヘアでヘテロクロミア。神秘的で絶世の美人。

 妹は黒髪に黒い瞳の優しい顔の美人。

 夜、二人の顔を思い浮かべると眠れなくなる。


 今日もウキウキしながら二人の警備についた。

 いつもなにがしかの問題を姉の方が起こすが、今日のはとんでもない難題だ。

 船員が集まっている甲板に出たいと言う。

 みんなは女性が乗っているなんて夢にも思っていない。バレればどんな事になるか?

 船長は豪腕だが、その船長でも抑えられるだろうか?自分は彼女らを守れるだろうか?


 何とかフードを被せ姿形が分からないようにして甲板に出た。

 そして途端にトラブった。

 姉のほうがクラクラッと倒れかかった。暑さにやられたようだ。暑いからフードを脱ぎたいという・・どうする、テオ!

 慌てて倉庫に走った。とりあえず椅子・・それから・・周りを見回すと・・あっ傘がある。


 船長室の前に椅子を置き、姉の方を座らせた。傘を開いて太陽を防ぐと同時に周囲から見えないようにして、

「フードを取っていいですよ。」声をかけた。

 微笑みが自分に向けられていると気付くと途端に心臓が脈打つのが聞こえ始めた。

 この後何の話をしたのか・・覚えていない。


 二人が部屋に帰ってからも暫くその場でボンヤリとしていた。

「テオ兄ィ、何してるんだ。傘なんか拡げて。」

 急に現実に引き戻されムッとして、

「何でもねぇ!」と声を荒げた。


 その後、デニスに二人の警備を任せると船室に降りてハンモックに潜り込んだ。

 あの女神様に微笑みかけられると何もかも捨ててしまっていいとさえ思う。

 ずっと一緒にいることが出来るなら何でもするのに・・


 その日は朝からメインマストに取り付けられている見張り台に登っていた。

 見張中もあの二人、特に姉のことが気になって仕方なかった。

 デニスのやつ、仲良くやってるんじゃないだろうな?

 ありもしないことを考えながら、ぼぅと空を見ていた。


 突然、伝声管から、「テオ!後ろに何か見えんか!」との声にはっと我に返ると(とも)の方向を見た。

 しまった・・見過ごしてた・・

 伝声管に向かって、

「後方に蒸気船一隻、蒸気を上げてます。」

 蒸気船は普段は帆走し、大事なところだけ蒸気で走るものだ。


 伝声管から、

「どのくらいの距離か?」

「2海里ほどです!」

「そのまま、監視せよ!」

 こんなに近くまで気づかないとは・・あの蒸気の上がりかたは全力航行してる。すぐに追い付かれる・・


 下の甲板で動きが起こった。

 上陸用のボートが準備されている。

 ・・負ける準備・・まさかな・・

 ボートは右舷から降ろすようだ、何をするんだろう・・


 伝声管から「蒸気船の旗が見えたら教えろ!見間違うな!」

 かなり緊迫した様子。

 ちっ、もっと早く気づけば・・

 目には自信がある。その目を凝らして蒸気船を見つめる。

「あっ!」思わず声がでた。


「双頭の虎の旗です!」「その下にコブラの旗を掲げています!」伝声管に向かって叫んだ!

 下からも息を飲む音が聞こえてきそうだ。

 知ってはいるが初めて見た。双頭の虎はランザニア王国近衛軍の旗だ。

 王国近衛軍は、遠征するほどの規模は無いから実質はベルカント国の軍船であろう。


 今、ランザニア王国の国情は複雑だ。

 国王はサティア3世と呼ばれる女王で、エブレン候の兄を王配とし、エブレン候を後楯として王国の運営を行っていた。

 後盾のエブレン候の急逝を受けエブレン国が後継選びで混乱すると、それに乗じてベルカント候が王朝の主導権を握ろうとしていた。


 甲板の動きが急になった。

 ボートへ一人、二人・・四人が乗り込んだ。その内二人はフードを被っている。

 あっ、あの二人を逃がすのか?無事に逃げられるといいな。


 船が右に若干傾いだ。面舵を切ったな、しかし、陸に近付くと危ないのに。

 ここは、海の難所と呼ばれるハンナ岬に近く、多くの船が難破している。唯一といっていい航路を外れるのは危険と言うより無謀じゃないのか?


 大きな岩礁を過ぎた時、ボートが降ろされ岩礁の間に消えた。

 魔法みたいだな・・二人ともどうか無事で・・

 と思った瞬間、今度は左にかなり傾いだ。

 面舵、取舵を巧みに操ってエメル=ハル号はハンナ岬を越えた。


 越えたところに双頭の虎の蒸気船か待ち受けていた。

 テオの見張り台から見るとエメル=ハル号より2周りは小さく、テオから見下ろす高さのマストしかない。


 このまま、ここに居れば見つからないか?

 蒸気船はエメル=ハル号に並ぶと接舷し始めた。

 こちら側からも手伝って何とか接舷したが、船(舷側)の高さが違いすぎて、なかなか乗り込めないようだった。

 その姿は上から見ていて滑稽で楽しかった。

 誰も聞いてないだろうと大笑いしていると伝声管から「静かにしろ!」思わず舌をだした。


 半日が過ぎ、中天にあった太陽が赤い夕陽となると蒸気船は離れていった。

 ボートには、フードの二人に甲板長とデニスが乗っていったようだ。

「船長、大丈夫なんですか?」

「甲板長が付いとるから大丈夫だろう?」

 おいおい、だろうって・・

「どうやって回収するんですか?」

「無理だな、この船は見張られているからな。」と言うと

「さぁ!帆を張れ!夜間航行するぞ!」


 デニスすまん!見捨ててしまって。

 帰ってお袋さんに何て話をしたらいいんだろう?

 テオは幼いころ、デニスの母親のお陰で道を踏み外さずに済んだ。デニスの母親は恩人でデニスはその子、そして一緒に育った義兄弟みたいなもんだ。


 テオの母親は幼い頃に病気で亡くなった。父親は軍隊の部隊長をしていて国境警備に付いている。

 母親が亡くなってからほとんど家に帰らなくなって、テオは仕送りを受けながら一人で暮らしてきた。


 必然的に悪い仲間に入り、仕送りも巻き上げられボロボロになっていたのを助けてくれたのが、デニスの母親だった。

 デニスの母親のお陰で立ち直り、学校にも行った。

 恩人で本当以上の母親なんだ。


 母親が働く宿屋の老主人夫婦が、宿屋を譲って引退したいと言い出した。

 母親の蓄えでは足りずテオとデニスは船に乗って資金を稼ごうとした。

 それに加えテオには、商人になりたいと言う夢を持っていた。

 デニスが戻らないなんて・・何て言えばいいんだ。

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