5−9 境目の丘
その夜、デニスの天幕には、赤縁の隊長マヌエルとテオが訪ねて来ていて明日からの作戦を立てていた。
後3、4日で大森林を抜けるだろう。
そろそろ、猿人の攻撃があっても不思議ではないが、どう対処するかの確認をしていた。
二人が天幕を出ると僕は寝床の準備に取り掛かったところに豆柴からの心話が届いた。「間もなく、この厄介者をお返しする。」
天幕の入口を潜ってエミィとソフィが豆柴を伴って現れた。
二人の姿を見た瞬間「エミィ!ソフィ!」と呼び駆け寄って二人同時に抱き締めていた。
腕の中でエミィが、「私が先じゃないのね。」と言い、ソフィが「姉様!」と返す。僕は二人を離すと顔を見つめながら「会いたかった。よく来てくれた。」と再び抱き締めた。
「ホントにそう思ってくれているのかしら?私達が居ない間に新しい女を作ったんじゃないでしょうね。」
横からソフィが助け船を出してくれて、
「姉様、久し振りにあって嬉しいって言ってあげたら?」
「嬉しいわよ!でもこの男は女を見ると手当たり次第でしょ。私というものがありながら、あなたにも手を出すし!」
何だ!どういう話になってんだ!
ソフィも黙ってしまった、いきなり修羅場じゃないよな?
「まて、待ってくれ!どういう話になってんだ!」
エミィは僕を睨み、
「ソフィに手を出したでしょ!これが証拠!」と僕の胸にあるペンダントを握って「この浮気者!!」
このペンダントは・・ソフィ助けて!とソフィを見ると顔を赤らめて僕を見つめている。
えっ、僕は追い込まれている?
「まぁ、ソフィだから許すけど他の女に手を出したら絶対に許さないからね!」
エミィは僕の顔を見つめ、得心したように笑うと、
「デニス!エルミン=キラズで女が身に付けている物を男に渡すと言うのは求婚なのよ。それを男が身につけるのは受諾したと言うことなの。この唐変木!そんなことも知らないの?ソフィがどんな気持ちでネックレスを渡したか、思いやってよね!このアホ!」
唐変木にアホって・・
それに、そうなのか?
知らなかった・・じゃすまないよなとソフィを見ると俯いていた。思わず抱き締めそうになる。
「デニスは鈍くてホントにしょうがない奴ね、こんな奴ソフィに呉れてやるわ!」と後ろを向くとニコッと舌を出した。
そんな折りも折りに天幕の外から、「隊長!よろしいでしょうか?」とカーリャの声がした。
まずい、まずい、絶対まずい!
カーリャが入ってくると、二人を見て
「失礼しました!」と出ていった。
こっちも誤解?しているよな。
僕はカーリャを引き留める気力もなく、頭を抱えてしまった。
エミィが、勝ち誇ったように、
「今の年増に夜伽をさせていたの?まぁ、健康な男子だから仕方ないか?」
と言うと、「まさかとは思うが年増が好みなの?子はつくってない?」
最悪!
さっきからソフィが横に来て足を踏んづけて、何も言ってくれない。
折角会えたのに・・
長い夜になりそう・・
朝、二人を紹介するのに苦労した。
何せ、いきなり少女が二人だけで現れたのだ皆の怪訝な様子もわかる。
テオ兄ぃは、あの時の二人か?と大喜びだった。
それも作業が始まるまでだった。
エミィが持ってきたソハヤの剣を振るうと一気に前が切り開かれ、これまでに倍した速度で進み始めた。
しかも、ソハヤの剣で払った場所は工兵が手を入れる必要がない程、道として完成された状態であった。
それを見た兵たちの士気が一気に上がった。
僕はグングニールの槍にお疲れさまでした。というと槍を締まった。
どんどん進むデニス支隊に追い付くべく、アルスローランは軍を進発させた。
「姫様、待っていて下さい!」
先頭に立つ程、気負い立っていた。
眠ったふりの豆柴が、「待ち伏せかな?」と言う。
僕は部隊を止め、周囲に注意するように言うと、豆柴の次の言葉を待った。
「奴ら、警戒してる!」
「騒がしくなってきた。やつらのテリトリーに踏み込んだみたいだ!」
僕は決断を迫られた。
踏み込むか?下がるか?
踏み込むと前回以上の戦闘が予測される。
下がって討伐軍を待つのも手だが、敵がそれを許してくれるか?
僕は前に出る決断をした。
「フェンリル!森の終わりまでどのくらいだ!」
「ソハヤなら半日じゃないか?」
よし!
「エミィ!全力で切り開いてくれ!」
フン!我を何だと思っている!
ソハヤの剣に力が充実し始め、エミィが振るうと遠くに太陽の光が見えた。
「抜けたか?」
進軍を開始し、やがて太陽の光が降り注ぐ境目の丘に出た。
北は
ベルギン山脈に連なる丘陵地である。
丘はベルギン山脈に向かって登っている。
この辺りはまだ傾斜は緩やかだが、北に登るに連れ傾斜も急になる。
高い樹木はほとんどなく、草地と岩で成り立っている。
丘の尾根で少し周囲より高い場所を確保し、陣地の築造に入った。正面を中心に切り出した樹木と岩を組み合わせて掩体を造った。
昼間ではあるがフェンリルが姿を表し、北に向けて飛び去った。
皆はフェンリルをアルスローラン指令の使い魔と思っている。
フェンリルからの報告には、ここから北5キロメートルのところに猿人のコロニーが岩と洞窟に守られて存在している。
猿人の子供の多くがここにいるようで本拠地と言ってよいだろう。
戦う上では、猿人のコロニーの方が高い位置を占めていて、僕らは不利だ。
足場の悪い上り坂を登りながら攻撃するのはちょっと難しい。
結局、ここで猿人を引き付けつつ討伐軍の到着を待つことにした。
夜は篝火を煌々と焚き、まるで昼間のように照らしていた。
遠くから石礫が飛んできた。
最初は一つ、続いて五つ、そして10,20と飛んできた。陣地の中でじっと攻撃が止むのを待った。
掩体に寄りかかり投石に耐える間、両手にエミィとソフィの手を握りしめて耐えていた。
「そういえばこの世界には鉄砲や大砲がないな?火薬がまだないんだ。」と意外に冷静に考えていた。
エミィが「鉄砲ってどんなものなの?」と聞いてくる。手を繋いでいると心が共有されるんだった。
その夜の攻撃はそれで終わったが、僕らは用心のため眠れなかった。
これが猿人の作戦で2、3日も続けられてその後、総攻撃されたら持たないかも知れない。




