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5−3 第2次派遣軍

 テオドルス候はケンドリック公子の報告を聞くと呆れ顔で第2公子アルスローランを呼んだ。

 街の役場にいたところを捕まったアルスローランはイヤイヤをするように逃げようとしたが、赤縁騎士団(特別騎士団第3部隊)のマヌエル隊長は逃がさなかった。

 抵抗の無意味さを知ると大人しく父の元へと出頭した。


 候の執務室に入ったアルスローランは、父の表情に深い皺が刻まれているのを見て、「苦労されている。」と思い、自らの放蕩が原因でないことを願った。


 父は祖父と違い、領地の外で戦ったことがない。

 そもそも戦いというものが、この世には必要ではないかのように、王家の危機にも騎士団を伴っただけで、各勢力の仲裁に入った。


 祖父は真逆の人で常に外征を行い、領地を拡大した。

 父は、祖父が拡げた領地を確実に守り育てた。

 父のことを『哲学者の覇王』という人がいる。


 本来なら父の横には、嫡子パルスローラン兄上がいて然るべきであった。

 兄は父にも劣らぬ為政者になるであろうと期待されていたが、昨年突然倒れた。


 徐々に身体が動かなくなる奇病である。

 アルスローランとしても敬愛する兄である。

 何とか、医師や薬が手に入らないか走り回っていた。


 兄が病に倒れるとアルスローランの周囲に人が集まり始め、政治の話をし始めた。

 アルスローランはそれが鬱陶しくて、バカ息子を演じ城には近付かないようにしていた。

 兄が万が一回復しなければ、幼いが兄の子が継ぐべきだというのがアルスローランの気持ちであった。


 父の深く慈愛に満ちた声を久しぶりに聞いた。

「アルスよ、市井(しせい)にいて庶民の気持ちに触れるのはよいが、たまには施政者としての手腕を見せてはくれまいか?」

 予想してきただけに驚きはなかった。

 ケンドリックの奴、失敗したな。やはり将器ではないんだろうな。


 ケンドリックは母の違う弟だが、兄に代わり嫡子になろうと虎視眈々と狙っていた。

 アルスローランは王家の姫に剣を捧げ、姫の騎士のなったつもりであったので、候の地位に執着はなかった。


 アルスローランは父を見上げると

「かしこまりました。私は何をすればよろしいのでしょう?」

「猿人が、村を襲っておる。」

 猿人が人を襲う?そんなに狂暴ではないはずだが?

「父上、そもそも猿人は人との接触を避けていたはず。何故、急にそのようなことになったのです?分かっていることは全て教えて頂きたい。」


「私の方からお伝えしてよろしゅうございますか?」

 横に控えていた執政タイランが候に代わり状況を伝えた。


 アルスローランはその話を青ざめながら聞いた。

「そのようなことを・・かなり深刻な事態と考えなければ。我が家の人類に対する責務ですね。テオドルス家のものとして兄上の代理として行って参ります。」

 と言うと、まず、工兵部隊が必要です。護衛に陸軍第1師団の半分と赤縁騎士団(特別騎士団第3部隊)を連れていきましょう。

「青縁から連絡があれば、快速船でお知らせ下さい。情報の共有が鍵かも知れません。」

 アルスローランは、前の遠征隊と同等の規模の援軍を組織し、ウルマン大森林へと向かうことにした。


 テオドロス候は、「兵力が少なすぎ逐次投入になる恐れもある。無理をするなよ。」と言葉があった。

 本来なら総兵力の7~8割も投入して一気に猿人を討伐すべきなのであるが、国の北部がキナ臭くなっているため、これが動員できる精一杯の兵力であった。


 そして僕は技師長に呼ばれ、援軍へ『技師長代理』として加わるように命じられた。名指しらしい・・。


 店に帰ると、ウルマン村の人々がいるのに驚いたが、無事な顔を見ると嬉しかった。何よりパリザの抜けるような笑顔は皆を明るくしていた。

 そしてアツギの姿があることがこの上なく嬉しかった。


 砦から1人で大森林を縦断したその体力気力は驚くべきものである。

 村が猿人の襲撃を受けたことに驚きはなかったが、その高度な戦術を聞くと進化のスピードが加速しているように思えた。


 派遣軍に参加することを伝えると夜エミィが訪ねてきた。オハンの盾とグングニールの槍をその手から受け取った。僕の手を握り締め目を瞑ると「デニスは大丈夫よ、私のもとに帰ってこれるから。」と言ってくれた。

「それとフェンリルを連れて行くと少しは役に立つわね。」


 エミィが部屋を出て行くと入れ替わるようにソフィがやってきて、持っていた物を突き出すように差し出しと僕の胸に押し当てて、

「持って行って!」とソフィが大切に身に付けていたペンダントを渡すと、それ以上何も言わずに立ち去った。

 僕はペンダントを握りしめソフィの後ろ姿を見送った。


 次の日、役場にヨタロウさんがやってきた。

「デニスさん、デニスさんに来て頂くように工作したのは私です。」

 そうでしょうね。こんな木っ端役人が名指しなんて外には考えられません。

「あの付近のこと、詳しいと姫様から聞いてます。」

 まあ、少しですけど。

 豆柴を連れて行く許可だけは貰った。


 補修の終わったエメル=ハル号に工兵部隊と乗り込むと船長の待つウルマン村へ向けて出港した。

 船には建設資材を山積みしていた。


 工兵部隊の隊長はコンドンといい、50絡みの渋い男である。

 副官兼参謀はカーリャといい、まだ30前のキツイ感じの女性である。なんでも王立大学の建築工学科を主席で卒業した才媛という話だった。


「カーリャ君、新たに着任した『副部隊長』のデニス君だ。いろいろ教えてやってくれ!」

 僕は『副部隊長』という肩書きに驚いた。僕なんかが・・という思いと裏腹に給料が出るのだろうか?と不謹慎なことを考えていた。


 その一方でカーリャさんを見て、ほっとした。

 おそらくエミィから見てもソフィから見ても浮気相手とは思われないだろう。

 年齢も上だし雰囲気も『孤高の』と言うか『きつい』というか近づきがたい雰囲気を持っている。美人は美人なんだけれどね。

 僕の周りに女性が近付くと、いつも大騒ぎになる。

「デニスです。よろしく!」

 と握手の手を出したが、敬礼で返された。


 今回は、前回にも使った3隻の大型蒸気船とエメル=ハル号。それに小型の蒸気船を1隻連れてきていた。

 船は小さくなれば吃水が浅くなるので、それだけ陸に近づける。

 測量や港の建設にも役立つはずだ。


 船団は狭い泊地に入り切らず、エメル=ハル号は沖で順番待ちしていた。

 僕の肩掛けカバンの中には豆柴が入っている。

 彼は船に乗っている間中、苦しいよう!首輪がキツイよう!と訴えていた。可哀想にも思うが、エミィからそれがフェンリルの手だから気を付けるようにと釘をさされていた。


 豆柴は最後には、「この野郎!だれがあんな不味いもの食べてやったと思ってンだ!3日も腹を下したんだぞ!感謝しやがれ!」

 これは、エミィの料理か・・感謝すべきなんだろうけど、やっぱり言いつけてやろう。

 フェンリルは上陸するまで、あの手この手で首輪から逃れようとした。


 泊地から蒸気船が1隻出港すると入れ替わりでエメル=ハル号は泊地に入り投錨した。


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