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4−8 アルスローラン

 殿下は僕に座るよう促すと手ずから水を注いでくれた。

「昨日、お店に行きました。素敵な方が対応してくれたのですが、僕の知っている女騎士によく似た顔立ちでした。」ソフィだ。ララさんに似ているものな。

「ちょっとだけお話ししましたが知り合いより遥かに魅力的な方でした。」

 たったそれだけでソフィの何が分かるんだ?

 でも、ソフィが誉められるのは何故か嬉しい!


「実は姫様には幼い頃一度お会いしたことがあります。」

 えっ、素性がばれている?

「当時、姫様はエルミン・キラズの宮廷で跳び跳ねておいででした。その時にみたヘテロクロミアの目は忘れることができません。」

 会ったことがあるのか。

「姫様は私を見て『援けよ!』とおっしゃった。その時私は姫様に剣を捧げました。私は姫様の騎士なのです。」


「店の奥にいた女性が振り向いた瞬間、一瞬で身体中に電気が走りました。」

 エミィも気づいたんじゃないか?

「姫が宮廷から脱出したことは聞いていました。手の者に捜させはしていたんですが、まさかこの街にいらっしゃるとは思いませんでした。眠れないほど心配していたんです。」

「デニス!ホントにありがとう!」

 僕の手を取り拝むように言った。


 何なんだろうこの人は?

 悪い人ではなさそうだけどな。


「この殿下は変わり者でな、城にいる時は大概、赤縁(特別騎士団第3部隊)のところで訓練しているし、他はこの役場でゴロゴロしたり荷役場で荷役を眺めていたりする。」

 技師長は公子に好意を持っているようだ。

「城では引きこもりの公子と呼ばれているよ。」

 どこが!

 城の政治の場に出ないから、引きこもり?


「で、ヨタロウさんは何をしたいのですか?」

「姫様の手助けです。」

 会わせて大丈夫だろうか?僕でこの人を防げるだろうか?盾に足るだろうか?

「姫様はこの世界のために必要な人です。姫様と共に世界を変えたいのです。」

 世界を変えるってどう変えるの?


 いろいろな世界を見てきた僕には、一番難しい事のように思える。

 純粋なのか、わからないだけなのか?

 それとも僕が『あきらめ』を覚えてしまっただけなのか?


「カグヤさんが姫様だとして、どうして本人に確認しなかったのですか?堂々と会いに行ったらいいじゃないですか?」

 エミィがまともに相手してくれるかな?

「自分でもよくわからないんですが、その時ではないと感じた。ではいけないかな?」

 じゃ、いつがその時なんだ。

 エミィに変なことしたら承知しないからな!


 そこで相談なんだが、

「デニスくんの友人ということで店に連れて行ってくれないかな?」

 へっ、なんで僕なの?

 エミィは気付いているよ。自分で行ったら?

「じゃ、今晩ということで、よろしく。」

 承知してないって!

「デニス、私からもお願いする!」

 技師長・・

 まあ、どうみても悪人には見えないし、僕が連れて行かなくてもいずれ行くだろうし。しょうがないか。


 その前にヨタロウさんの情報を技師長から仕入れておこう。

「技師長とヨタロウさんはどういう関係なんですか?」

 二人はお互いを見合せて、

「最初は赤縁の部隊長の紹介で役場に手伝いに来たただの青年だったんだ。自分も素性なんて知らなかったさ。」

 ヨタロウさんが、

「丁度、港の拡張工事の時で忙しかったですね。」

「猫の手も借りたい時だったからね。」


「その後も出たり入ったりしていた。そのうちに赤縁さんが来て話してくれたのさ。この街には何人かこうしたヨタロウさんのシンパがいる。人柄は折り紙付きだよ。」

 ヨタロウも笑いながら「友達が何人かいるだけですよ。」

「それがやがて大きな力になるかもしれません。」

 周りを見ながら苦笑いした。

「怖いこと言うなよ。」


 夜、ヨタロウさんと連れだって店の扉を潜った。

「いらっしゃ・・なんだお兄ちゃんか。」

 声を掛けただけ損したみたいなフリアの口振りだ。


「店で食べるの?奥に行くの?その前に手伝って!」

 奥に行くと言うと勝手にどうぞ、

 最近、冷たすぎないか?


 奥の部屋にヨタロウを案内し、エミィを呼びに店に行った。

 エミィは、

「デニス、私だけ?」と言いながら腕を組んで僕の肩に寄りかかったまま、ヨタロウの居る部屋の扉を開けた。


「エメルディララ・エイランティス・ランザニア王太女殿下、ご無沙汰致したこと誠に申し訳なくお詫び申し上げます。」

 ヨタロウは床に片膝を付き頭を下げた。

 エミィは、僕の肩から頭を上げると、

「その方、アルスローラン・テオドルスか!今頃何しに参った?」

 再び深く頭を下げると、

「殿下のエルミン・キラズ脱出に際し、お側に居らなかったこと、万死に値します。」

「しかし、しかし、これからは必ずやお役に立ちます。お許しください。」

 エミィは僕から離れて、アルスローランを意外に優しく見つめながら

「まあ、よい。その方先日店に来た時、何故顔を出さなかった?」

「あの場で、私が殿下にご挨拶すれば、大騒ぎになります。それで、デニスどのに頼みましてございます。」


「アルス、あまり長くは外せぬ。また話をいたそう。」と笑顔で仕事に戻って行った。


「殿下の無事に乾杯しよう!」

 無理やり僕に乾杯を強要した。

「デニスどの、私も店を手伝いたい。」

「では、水汲みからですよ。」

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