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4−7 右往左往

 その日からまた店に帰れなくなった。

 北の大門付近にまず、水汲み場を造ることになり、準備に忙殺されていた。

 水道工事は、順調とは程遠い進捗だ。

 他の転生話では、僕がスキルで大活躍するのが定番なんだけど・・全く上手く行かない・・


 やっと店に帰るとその日は給料日だった。

 みんなそれぞれの事情でお金の価値、ありがたさを知らない。

 母が苦笑いしながら「貯金しておこうね。」と積み立てしてるようだ。

 それでも、店で出す料理の値段や仕入れの肉の値段なんか、いちいち教えているようで徐々に馴染んできていた。


 お昼の休みに給料と別にみんなで銀貨1枚を貰って街にでて買い物を楽しむ。

 今日は、お団子を食べて、ユキの服を選んで来たらしい。

 帰って来るなり、「お母さん!見て!」と大喜びで服を披露していた。

 そのタイミングで店に顔を出した僕は冷たい視線に晒された。


「だれかと思ったら誰だっけ?」

 エミィの辛辣な言葉が飛ぶ、ソフィは余所を向いて僕を見てもくれない。

 パリザは母の陰に隠れてしまった。


 背中を「パチン!」とフリアに叩かれ、

「お兄ちゃん、こんな美女たちを放っておいて水道と結婚したのね?」

 そんなに帰ってなかった?

「デニス!あんたいい加減にしないとみんなを街の男に奪われちまうよ!女はいつまでも待ってないよ!」

 え、えぇぇ、


「ご、ごめんなさい!これからはちゃんと帰って来ます。」

「当たり前だよ!このバカ息子は!昨日だってカグヤちゃんがお前のために夜食を作ってくれてたんだよ。その前の日はサヨちゃんが作って遅くまで待ってたんだよ。」


 エミィ様やソフィさんまでが・・

「みんな、ごめんなさい。」

 横からフェンリルが心話で、

「エミィの料理食べなくて良かったな、食べさせられた身にもなってくれ!」

 瞬間、豆芝に向かって皿が飛んだ。


「みんな、ほんとにごめんなさい。

 ちょっと話があるんだけどいいかな?」

 皆が周囲に集まるのを確認すると、状況を話した。


 ウルマン村が猿人に襲われ、かなり死者が出たらしいこと。

 テオ兄ぃは村にいるらしいこと。

 軍が援軍を派遣するらしいこと。

 そして、これも大事なことだけど、

「カグヤさんサヨさんのことはテオドルス候には伝わっていない。」


 ここまで一気に話しひと息つくと、フリアが、

「テオ兄さんは危険なところにいるの?大丈夫なの?」

「わからないんだ。船長の話では皆で洞窟にいるみたいなんで、簡単には殺られないと思う。」


 母にしがみついて母の服を力一杯握りしめていたパリザが、

「村の人は大丈夫でしょうか?」

 言葉ではうまく返せないんだけど。

「残念だけど向こうの村は全滅に近かったらしい。」

 ちょっと言葉が良くない・・

 パリザはその言葉に泣き崩れた。

 母が優しく抱き締めていた。


 エミィが皆をみた後、僕を睨むと、

「デニス、今の私たちには何も出来ることがないのよ?派遣軍に付いて行って戦うこともできないし。」 

「パリザのために出来ることは祈ることだけしかないのよ、言葉には気をつけてね。」

 言われて気が付いた。僕らはただの平民なんだと。エミィと居ると何でもできる気になってしまう。パリザごめん!ただ、ただ皆の無事を祈る。


 母がパリザを抱き締めたまま、こっちをチラリと向いて、空いた手を振った。

 僕は母の優しさに甘えて店を出た。

 ふぅ、失敗だったな、貰った情報に興奮してパリザの気持ちまで思い至らなかった。ダメな奴だ。


 エミィの言葉に理がある。

 僕はほんとに何にも出来ないんだな・・パリザの顔を見るのが辛い・・

 逃げるように役場に戻った。


 役場では、技師長が見慣れない?いや先日、船長の尋問の時に見た若者か。

 若者といっても僕よりはいくつか年上だろう。と親しげに笑いながら話をしていた。


 技師長は僕を見つけると手招きして、

「デニス・バイラム」

 なかなかの技術者でアイデアマンだ、と紹介してくれた。

「ヨタロウです。」

 と手を差し出し握手をした。


 えっ!と手を引っ込めた。一言で言うと覚悟の必要な握手であった。

 何かを持って行かれたような・・感じだった。

 いろんな奴がいるなぁ。


 それにしてもヨタロウとは、ふざけるにも程がある。

「ヤーポンの方ですか?」

 ほう、「名前でヤーポンと?」

「何となくですが?」

「あなたの周りの方の真似をしただけですよ。」臆面もなく笑っている。

 何を知っているんだ。一瞬で警戒の緊張がマックスまで高まった、


 言葉もなくにらんでいると、

「そんなに怖い顔をしないでください。」

 あっ、そうそう、

「フィリップ船長は船に戻りました、補修工事の指揮を執るそうです。」


緊張を解かない僕の顔を見ても平然として

「昨日、お店に行ってきました。あなたが居るかと思って行ったんですよ。カグヤさんは相変わらず素敵ですね。あのヘテロクロミアは唯一無二ですよね。まあ、その流れでヤーポン風に名乗って見ました。」

 エミィ様がヘテロクロミアだと何故わかった・・何者だ!

 自分の顔がさらに険しくなるのを抑えることが出来なかった。

「そんなに怖い顔しないでください。多分ですが、敵ではないと思いますよ。」


 横から技師長が、

「殿下、悪ふざけが過ぎますよ。デニスでなくても怖くなります。」

 と言うと僕に向き直り、

「この方はテオドルス候の次男でアルスローラン様だよ。」


 あっと、僕が最敬礼しようとすると「挨拶や敬礼は余計だよ。そういうのが嫌いでこんなところをうろうろされている方だからね。普通に喋って大丈夫。」

「殿下はこれからしばらくはヨタロウさんだからね。」

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