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4−5 エメル=ハル号の帰還

 水道造りに忙殺されている臨時技師が、やっとの思いで店に戻ると母から、「エメル=ハル号が帰って来たみたいよ。」と教えられた。


 そうか、いよいよだな。

 まず、姫様のことでフィリップ船長に会わないといけないよな。と考えながら口から出た言葉は、

「テオ兄ぃも帰って来たかな?」

「それがね、船は昨日帰って来たのにまだ来ないのよ。大丈夫かしら?」


 ちょっと港に行って来る、と言って店を出た。

 日の出大路を港へと下って行く、だんだんと足が速くなっていく。

 労働者の街を過ぎ港湾地区になり、倉庫街、荷捌き地区を抜けると視界が開けた。


 でも、どこにもエメル=ハル号の流麗な姿はなかった。

 もう、出港したのか?

 そこで働く沖荷役の人夫頭に聞いてみた。

「エメル=ハル号が入港したと聞いたのですが?」

「昨日入港したんだが、満身創痍だったんだ。第1ドッグに引っ張られて行ったぞ。」

 満身創痍?何があった?

「ありがとう。」と言うと第1ドッグに向けて走り出した。

 第1ドッグは港の北端にある乾ドッグだ。


 走って、歩いて、また走って。

 やっとエメル=ハル号が見えてきた。メインマストが失くなっている。


 近付くと、警備員がいて止められた。

 エメル=ハル号の乗組員なんです!と訴えたが通してもらえなかった。


 トボトボと振り返りながら店に戻った。

 店は夜の営業時間になっていて皆忙しそうに動いていた。

「どうだった?」母の問いに、

「よくわからない。船は大きな損傷があるみたいで修理していた。」

 テオはどうしたのだろう?


 テオの家に行ってみても、やはり留守、帰ってきた様子はない。

 どういうことだろう?


 夜、エミィが部屋を尋ねてきた。

「水くさいわねぇ、なぜ私に相談してくれないの?」

 ベッドの縁に二人並んで座ってエミィの体温を感じていた。

「ねぇ、デニス、フェンリルを城に忍ばせてみようか?何かわかるかも?」

 今は手がかりが何もない、テオも船長もどこにいるのかさえわからない。


「お願いするよ。」

 じゃあ、待ってて、といってエミィは出ていった。

 うぅん、ダーリンからデニスに格下げになったのかな?

 水道造りでしばらく会わないうちに心変わりしたんだろうか?女心はわかんないな?


 翌日も朝から役場に出て、水道造りの準備をしていると、技師のルーカスが、「エメル=ハル号が帰ってきたけどハンナ岬の暴風で難破寸前になってホウホウの体で帰ってきたらしい。乗組員も大分失ったらしい。」

 そうなのか?テオももしかしたら?


 技師長は第1ドッグに呼ばれて、エメル=ハル号の損傷状態の調査に呼ばれていた。

 ルーカス技師が「技師長がいないと仕事にならんな。早めに引き揚げよう。」ということで、この日は昼前に店に帰ってきた。


 昼の営業が終わるとスタッフは賄いを食べてしばらく昼休みだ。

 エミィに呼ばれて部屋に行くとソフィも来ていて、その膝の上に豆芝がチョコンと乗っていた。


 心に直接言葉が入り込んでくる。

「城に行って来たよ、面白かったからあちこち見てきた。」

「この城はあまり魔道には通じていない。神を信じてはいない。」

「たから、入りやすかったよ。」


「エメル=ハル号の船長は城内にいたよ。他にも乗組員がかなりいた。不自由はないけど外との接触は禁止だって言われていた。」

「乗組員の話を陰から聞いていたら、『異形の者』に襲われたらしい。異形の者とは何かな?僕たちみたいな神が襲ったのかなぁ?」

 フェンリルは自分のようなものが人類相手に戦いを始めたと思っている。


「船長は何か言ってました?」

「船長は一人で静かだった。時々呼び出され質問されていた。」

「どんな?」う~ん、たとえば、「どんな姿だった?」とか、「どのくらいの数がいた?」とかだ。

「船長は『森の人』で100はいただろうと言っていた。」


 森の人ってたぶん猿人のことだよな。

 やはりあの時取り逃がした猿人が集団になっていたんだ。

 でも、エメル=ハル号は海の上にいるのにどうやって襲うんだ?


「何だ、森の人とは猿人のことか?」

 フェンリルの少しガッカリした感情が伝わってきた。その後、怒りに似た感情が伝わった。

「ふん、あんな奴ら俺様が潰して来てやろうか?」

「フェンちゃん、大人しくしてなさいね。」

 エミィの優しい声にフェンリルは黙ってしまった。


 船長に会えないだろうか?テオは生きているのか?僕はぐるぐると回る頭の整理をした。

「騎士団に見張られているんですね。」

「特別騎士団って言ってた。」

 う~ん!手がないな。行き詰まってしまった。


「デニス、大丈夫よ。何とかなるわ。」エミィが慰めてくれた。

 ソフィは背中に優しく手を添えてくれた。


 翌日、役場に出ると技師長が既に来ていて仕事の準備を始めていた。

「デニス、水道の勾配は0.5パーセントで大丈夫だと思うか?」

「1パーセントあると監理は楽ですが日の出大路での深さが深すぎて造るのが大変ですし、汲み出しを少しでも楽にしてやりたいです。」

「そうだな、工事費も桁違いだしな。」


「技師長、エメル=ハル号を見に行ったのですか?どうでした?」

「ふん、俺は都市の技術者で船の技術者じゃない。上の方はそんなことも分かっておらん。技術者なら何から何まで分かると思っているらしいな。はっはっは!」

「まあ、俺が見ても船体の損傷は座礁だと思うぞ。ただメインマストは自分たちで斬り倒していたな。」


「明日、船長の尋問に行くんだが書記を誰かに頼まねばならん。興味があるなら一緒に行くか?」

天啓だと思った。

「是非!」

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