4−4 水道を引こう
僕は水汲みの度に水道のことを考えている。
鉄や塩化ビニールの管を繋いで圧力をかけて送れればいいが、そんな技術力は無さそうだしな。
う~ん!水車で水を上に揚げるくらいしかないか?
でも、蒸気機関を使えばもっと簡単にできるかも?
もう一つは、遥か上流で川から水道を分岐させて遥々と水路を敷設してくるのが最も自然かも知れないが、その方法に要するに費用と工事期間とで過去に諦めた経緯があった。
その日から水汲みをムジアが手伝ってくれた。
水汲み場の測量するのに人手が必要であったので助かった。
天秤棒で水を担ぐのはムジアのほうが遥かにうまかった。
店にたどり着いた時、僕が運ぶ水桶は3分の1ほどがこぼれてしまうが、ムジアが運ぶとほとんどこぼれない。
夜、図面を描く。水車は2段にする必要がある。しかし、2段にすると水量を確保するのが難しい。
水車で揚げた水は水路を石造りで造り街中まで水を引き込む。これでうまくいくはず・・
水車の代わりにスクリュー式揚水機というのもある、蒸気機関でこれを動かせば、一気に水を揚げられる。
これを水汲み場に設置して、そこから城内に引き込む。蒸気機関の維持管理費は掛かるが利便性を考え、街の発展を考えると一考の余地があると思われた。
この川を街の人々はたんに『堀川』と呼ぶ。
堀川はベルギン山脈に源を発し、サン・アデレードの街の北側を流れて海に注ぐ清流である。
街の北側部分に達した時、街の外堀として利用するため幅を2倍3倍に拡げ、石積の護岸を造り、堀池にして街の外堀としていた。
街の人の中には、この堀から水を汲む人もいる。ただ堀の水は澱んでいて飲み水には向かない。
僕の計画は水汲み場から揚水した水を堀川に沿って流し、北の大門から引き入れ、平和大路から日の出大路に90度曲げ海に向かって落とす計画だ。
難所は2箇所あって、途中の谷を越えるための水路橋と街の外堀と城壁の間をどう通すか、だな?
水路の図面を作ったが、城壁の付近は測量が認められなかったため、想像図になった。
城壁と外堀の石積の間は約1メートルと判断して図面を描いた。
これを母の名前で、町役場に出した。
その間も水汲みは続く。変わったのは水桶からこぼれる水が少なくなったことくらいか。
皆も仕事に慣れつつあった。
仕事が早くなると余裕が出来てきて、笑顔が溢れるのようになっていた。
町役場から「出頭するように。」との連絡があった。
そうなるよな・・仕方ない。
僕はあきらめて、町役場に向かった。
素性やエメル=ハル号のことを聞かれたら誤魔化しきれるかなぁ?
町役場では、技術部の技師が二人待っていた。
技師長はマテオ、技師はルーカスというらしい。
いきなり、僕の書いた図面に対する質問から始まった、そしてなかなか終わらない。
そして、図面を簡略化したものを持つと着いてこい、という。
役場から商家が集まった一角に行くと、最も大きな貿易商『ベルキン商会』の暖簾を潜った。
奥の部屋は異国の調度品が飾られ、初めて味わうお茶が出された。
緊張する僕を横目に技師長は番頭なる人物と親しそうに話し、僕の図面を眺めながら、あれやこれやと議論した。
その結果、水道の建設資金をベルキン商会が出してくれることになった。
技師長は、直ぐに工事を始めるという。善は急げだ!
まず、水汲み場、水路橋、城壁沿いの水路から始めることになった。
そして、僕は町役場の臨時技師となった。つまり水汲みからやっと解放された。ムジアごめん!
マテオ技師長は水車を動力にスクリュー式楊水機を設置するという。
蒸気機関に信頼が置けないが、スクリュー式揚水機はやって見る価値があるという判断だった。
水路は測量から監理までやらされ、ほとんど徹夜が続いた。
突貫工事で北の大門まで水が流れるようになるまで3か月しかかからなかった。
しかし、技師長は、水汲み場に設置したスクリュー式揚水機が毎日のように故障するため付きっきりだった。
今は北の大門付近に設置した臨時の水汲み場で水を汲めるようになった。
開通式では、テオドルス候の第3公子ケンドリック公子が開通を宣言した。
ケンドリック公子の華やかな姿は領民からの人気は上々であった。
街の人は、ケンドリック公子と共に水汲みが楽になったと喜んだ。
そして、この水道を『ベルキン水道』と名付けた。
これから街中の水路工事が始まる。
ただ、北の大門から平和大路は日の出大路に向かって上り勾配になっている。つまり、ただ水路を造っただけでは水は流れない。
スクリュー式揚水機に掛かりっきりの技師長から、街中の水路は「何か考えろ!」とルーカス技師と二人に無茶振りされていた。
ふらふらになりながら5日振りに店に帰ると、ソフィが一番に「お疲れ様!ご苦労様でした。」と言ってくれた。
ソフィはソハヤの剣の影響はないように観られてちょっと安心した。
エミィはふて腐れた顔で、「私を捨てて外に女を作ったのかと思ったわ?」と二の腕をつねられた。
パリザも一言「お身体は大丈夫ですか?」と労ってくれた。
水道造りも王女の旅も道半ばである。




