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4ー3 船と桟橋亭

 店の朝は早い。

 僕は母に叩き起こされ、水汲みをしている。

 この街は水道を造る必要がある!僕の朝の平穏ために絶対に!


 腰を酷使しながら、水場から水桶を天秤棒で担いでいく。店まで500メートル近くある。重労働だ。

 いつもは荷車で売りに来る水売りから買っていた。

 これだけでも経費節減になる。


 重い水を担ぎながら、水道、水道と念仏のように唱えている。

 水場は小川の川岸を使ったものだ。

 水場から直接水路を引こうにも水場は川岸からかなり下に降りたところにある。

 つまり、街より低い位置にあるため、水路は造れない。水は上に流れてくれない。

 う~ん、何か方法はないものか?


「デニス!なにをテレテレしてるの!」母から叱責が飛んできた。


 仕込みをしながら、順番に朝餉をとっている。

 ソフィが飛んで来て、水桶を受け取ってくれた。

 そのまま、往復して2度目の水汲みに出た。

 無茶苦茶きつい!こんなの母と妹だけで出来る訳ないだろう?


 ムジアは昨日から薪割りをしている。すでに山のように薪が積み上がっている。


 パリザは母について朝餉の準備を手伝っていた。

 二人は実の親子のように笑いながら楽しそうに用意していた。

 豆芝はその横で食べ物をもらって満足そうにしている。


 エミィは、昨日デニスに習った食器の出し入れの練習をしていた。


 店の前をホウキで掃いていたフリアは、通りすがりの男達から、「今晩も行くよ!」と声を掛けられ、「ふん、どうせサヨさん目当てでしょ!」といったやり取りをしていた。


 昼前になって、一段落つくと

「みんな!休憩よ!」と母が呼び掛ける。

 軽い食事をパリザがテーブルに運んだ。

「いただきます!」

 エミィがお腹空いたとばかりに真っ先に手を着けた。

「母さん、毎日こんなキツい準備しているの?」

 もう、参った!と両手を上げた状態だった。


「まさか!半日で1週間分ぐらいやってもらった感じよ。水汲みを除いてね。」

 さらに落ち込んだ自分を励ます言葉を探した。


「母さん!水は街に引き込まないのかなあ?」

「役所もそうしたいみたいね。でも、いい方法がないって言ってた。アイデアを募集するので庶民も考えるようにって公告があったわね。」

「僕が考えるから母さんの名前で出して!」


 昼の営業が始まった。

「母さん!大変!」フリアが店の扉を開けようとしてビックリしてまた閉めてしまった。

「人がいっぱい待ってる!」

 母は笑いながら、

「サヨさん、ユキさん効果かな?」

 といいながら扉を開けた。

「お昼の営業を始めます!順番にどうぞ!」


 どっと人が入ってくる。

「いらっしゃいませ!」

 ホール係の3人は大忙しで走り回っている。

「デニス!料理手伝って!」

 店中が沸き立っていた。

 店の外にはいつの間にかムジアが立って入場整理をしている。


 気がつくとお客さんは男ばかりでなく女性もかなり目につく。すでにここの美人さんが噂になっているようだ。


「お母さん!私もホールに出ます。」

 エミィが見るに見かねて申し出た。

「あなたが出ると大変なことになるわ!」

 エミィが大丈夫ですと目を見せると左右同じ鳶色の瞳になっていたし、姿も少し崩れているように見える。

「姫様、どうしたのその姿?」

「これもデニスからもらった魔力です。」

 そう、と笑いながら便利ねぇ。というと「じゃ、お願いできるかしら。」


 男たちは、明らかにウエイトレス目当て、女たちも男たちが騒ぐ彼女らを見にきていた。


 母は一人で、「チャンス到来ね。ここで味で引き付ける事ができれば千客万来になるわね。願張らなきゃね!」


 横で食べ物をねだっていた豆芝の頭にシェフの帽子を被せると入口に置くと「まぁ、かわいい!」女性客が次から次へと撫でていく。

「まっ、悪い気はしない!」とフェンリルは満足そうに目をつぶった。


 こうして、1週間が過ぎたころ、明らかに身分違いの一団が入ってきた。

 腰に指した剣は皆凝った飾りがついていて、おそらく騎士団の将校クラスであろう。

 3人の将校とその上司といったところか?


「すまぬが、食事を頼む。みな同じでよい。」

 フリアが「では、『本日の定食』をお持ちします。お飲み物はどうしましょう?」

「ビールを頼む。」


 一通り食事を終え、何事もなく終わりそうだと思っていた時、店の中を見渡していた一人がフリアを呼び、何事か言っている。


 フリアが帰ってきて、「店主を呼んでくれ」って言ってる。

 代わりに出ていこうとする僕を軽く手で制すると母がそのテーブルへ向かった。


「女将、料理は旨かった!」

「一つ聞きたいのだか、ここに新しくきたホール係はどこからきた者たちなのだ?」

 やはり、それか。

「副都キオナから来た者たちです。」というと、3人を呼んだ。

「この子がカグヤ、その子がサヨ、最後がユキ3姉妹です。」と身分証明書を見せた。


 確認した騎士は、

「いや、すまなかった。美しい女性だと聞いて顔を見にきて、つい、職業病が出てしまった。許せ!」

 騎士通しで頷き合って、席を立った。


 店の外に出ると、「隊長、あのサヨという女、特別騎士団のララ副長に似ていませんでしたか?」

 隊長と呼ばれた騎士は、サヨを思い出して、

「よく似ていたな、双子かと思ったよ、でもサヨのほうがいい女ぷりだった。」

 隊長は3姉妹の名前がヤーポン風かな、などと考えていた。


 危ねぇ!準備しておいてよかった!

「さあ!他のお客さんがお待ちだよ!」母さんの声で再び時間が動き出したようだった。

 周囲の客たちも今のやり取りを固唾を呑んで見守っていた。そこにもほっとした空気が流れた。


 エミィの魔法で身分証明書を創っておいてよかった。

 奴ら、明らかに疑って来たみたいだな、これからも用心しないと。


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