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4ー1 故郷

 フェンリルの引く馬車は跳ぶように走る。

 それも夜に走る。

 フェンリルの姿を見られないように。


 サン・アデレードまで1日の距離になった時、馬車を捨てた。

 フェンリルは豆芝の姿でパリザの胸に抱かれて満足そうにしている。

「ホントに神使いの荒い姫様だ。疲れたよ。」と目を細めながら背中を撫でてもらっている。


 やがて、遠くにサン・アデレードの石造りの城壁が見えてきた。

 エメル=ハル号をボートで離れてからのことが走馬燈のように頭の中を巡った。


「あぁ、戻ってきた!」

 エミィが「あれがダーリンの故郷なのね。」と横にいて腕を僕の腕に絡ませる。

 逃げる訳にもいかず、

「姫様!近すぎます。」顔を真っ赤にして懇願した。


 サン・アデレードは南側に正門を構えている。『南の大門』と呼ばれている。

 元々こちらが正門であったが、大陸を横断する『北街道(大陸街道)』の起点が北の大門に置かれてからは、北が正門のようになっている。

 実際、通行人の数も10倍以上の差がある。


 そんな南の大門でも一応、門番がいて身元確認が行われる。

「何の用でどこへ行く?」門番の兵士から誰何(すいか)されると、

「モントーレ街32番地のパウラ・バイラムの息子デニスです。商売の途中での里帰りです。」

 他のメンバーは?と聞かれ、エミィが横から、

「妻のカグヤと上の妹のサヨ、そっちが下の妹のユキ、そっちの厳つい(いかつい)人は護衛のムシャです。」

「3人も美女を連れて羨ましいな!」

「よく言われます」と笑って通過した。


 正面に幅広く真っ直ぐに北に伸びる道は『平和大路』といい、街の中心部を東西に貫く大路を『日の出大路』と言う。

 この街を整備した先代のテオドルス候は、この街が戦乱に巻き込まれることを考えなかったのだろうか?そうさせない自信があったのか?道は使いやすいように真っ直ぐに造っている。

 敵が港から上陸すれば、日の出大路を真っ直ぐに城までたどり着いてしまう。

 そういうことより街の生活、発展が大事であったのだろう。


 平和大路の西側が庶民の街で日の出大路を西に進むと商人の街があり、職人の街があり労働者の街がある。さらに進むと港がある。

 モントーレ街は労働者街の中にある。


 ちなみに平和大路の東側は騎士の街、貴族の街があって、その先の丘の麓から山頂にかけてサン・アデレード城がある。テオドルス候の居城である。


 やっと、自分の育った街モントーレ街の入口にたどり着いた。家に向かう足どりが自然と早くなり、いつの間にか皆を引き離し始めていた。

「デニス!どこへ行くの?」

 と言われて気がつき、頭を掻きながら皆を待った。


「鏡はないかしら?」

 か、鏡ですか?そんな高価なもの。あ・る・わ・け・な・い。

「お母様に初めてお会いするのに変な顔では行けないわ!」


 真っ直ぐに帰りたい僕にエミィは、まず、古銭商に行くと言う。洞窟の神殿にあった古代の金貨を換金するつもりらしい。

 その後、美容室?って、何時間かかるのだろう?

 エミィの提案に女性陣は頷いている。


 ここまで4時間、次に服屋に行くという。3人分の服を揃えるのかぁ。

 まあ、うるさい、うるさい!それでいてなかなか決まらない・・もう、疲れた・・


「決まったら言って下さい!」

 エミィがこちらを見ると不機嫌になって、「あなたのために着る服を決めてるのよ!一緒に見て!」

 ソフィもパリザも同意らしい、3人とも怖い顔で僕をにらんでいた。


 朝、南の大門を潜ったのに昼過ぎても家にたどり着かないなんて・・

 そして、お腹をすかして、やっとたどり着いた家は、もぬけの空だった。


「えっ!」頭の中が一瞬真っ白になった。「家を間違った?」かと考えた。だって、旅の途中から別の人格になって記憶が混乱しているのかなぁ?


「そうだ。」思い直して、近所にある母の勤め先『サムとハナ』に行ってみよう。

 でも、そこも看板が掛け変わっていて『船と桟橋』になっていた。『船と桟橋』ってもしかしたら・・


「準備中」と出ている看板を無視して、扉を開ける。

 中から「すいません!まだ準備中です!」と妹フリアの声が聞こえた。


 思わず、「ただいま!」大声で答えた。

 こちらを振り向いたフリアが、「お兄ちゃん!」と叫びながら飛び付いてきた。「お兄ちゃん!お兄ちゃん・・お帰りなさい・・」だんだん涙声になっていく。

「フリア。」僕も声が詰まって上手く発声できない。


 奥から、母が手拭いで手を拭きながら「デニス、お帰りなさい。」と落ち着いた声で迎えてくれた。


 母は僕の後ろにいる仲間に気付いて、「皆さん、よくいらしてくださいました。デニスがお世話になりました。」


 僕はフリアを抱き締めたまま、

「母さんただいま。ここにいるのはみんな、大切な仲間なんだ。」


 母さんは皆を見ると一瞬である程度のことを覚ったようだった。

「皆さん、ごめんなさいね。こんな嬉しい日は店を休んで祝いたいのだけど、ここの夕飯を待ってくれている人たちがいるの。休めないから奥でゆっくりしてくれるかしら?」


 エミィが、「私で良ければ手伝わせて下さい。」

 えぇー、姫様、だめです、無理です。

 ソフィも「私もお手伝いします。」

 あなたも・・

 パリザまで「私も」

 そうなりますよね。


 しかも母が、

「ほんとに?助かるわ。」

「じゃぁ、あなたとあなたにはホールをお願いするわ、娘のフリアが教えるから」とソフィとパリザを指名した。


「あなたはデニスと洗い場をお願いね。デニスが洗い物をするから、それを棚に並べて頂戴。」

「あなたは力強そうだから裏で薪割りをお願いできるかしら?」

「承知した。」ムジアの一言であった。


「あらあら、私としたことがちゃんと挨拶もせずに仕事を頼んじゃった。」

「皆さん、デニスを連れて帰って頂きありがとうございます。母のパウラ・バイラムです。こっちが妹のフリアです。」

「フリアです。ありがとう!」涙声を振り絞って挨拶をした。


「デニス、紹介しなさい!」

 あっ、あーと

「この方がカグヤさん、こちらが妹のサヨさん、こちらがユキさんにムシャさん、皆で助け合ってきたんだ、大切な仲間だよ。」

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