3−8 闘い
「話をする気はないみたいね!」
そう言うと、「フェンリル!」と叫んだ。
樹上で待機していたフェンリルは3頭の真ん中の猿人に襲いかかった。
一瞬で首を食いちぎると右にいた猿人に振り向き牙を立てて咆哮した。
その猿人は尻餅をついたが何とか逃れようと足掻いた。
その様子に左にいた猿人が「キキー!」と奇声を発する。
周囲にいた猿人たちが得物を持ってフェンリルの周りに集まり始めた。
「まずいわ!デニス!投げて!」
えぇー!またですか!と思いながら、グングニールの槍を左の猿人に向けて投げつけた。
狙いは過たず、いや、グングニールの意思の力で猿人の心臓を指し貫いた。グングニールも慣れてきたのかな?
エミィがソハヤの剣を抜こうとすると横からソフィが剣を奪って走り出した。
「ソフィ!やめろ!」
前のことを思って必死に止めようとした。
仕方なく僕もエミィの手を引いて続いた。
3頭の猿人が立っていた場所にたどり着くと、すでにソフィはその先、猿人が先刻集まっていた広場の奥にたどり着き、そこに張られた幔幕を切り落としていた。
エミィは烏合の衆と化した猿人の集団に対して天の勾玉を頭上に掲げると一言「灯れ!」と唱える。
それに答えて勾玉は、直視できない明るさで輝き始めた。
猿人たちは恐れて散り散りになった。
幔幕の奥には何者かがいた気配が残っていた。
幕で囲われた部屋には、書類や薬剤が乱雑に放り出されていた。あわてて逃げたのであろう。
ソフィは眼の色を変えて周囲に張られた幔幕も切り落とし、逃げた者を捜していた。
僕は無言で抱き締めるとソハヤの剣を取り上げさらに強く抱き締めた。
エミィがフェンリルに命じて追跡させようとしたが、尻に刺さった矢をどうにかしてくれ!と騒ぎ回ってどうにもならなかった。
傷の手当てをしてもらい、豆芝の姿に戻ったフェンリルに、
「フェンちゃん。甘やかし過ぎたかしら?ダーリンみたいにキチッとしつけなきゃね!」
豆芝はあわてて逃走先を捜すがパリザがいない、しようがなく僕の陰に隠れることにしたらしい。
そうか・・僕もしつけられていたのか・・何となく納得。
「ソフィ、無茶しちゃダメよ!デニス。何か大切なものは残っていそう?」
研究室なのか司令室なのかわからないが、書類はランザニアの公用語で書かれていて、ここにいたのが人間であろうという証拠になりそうだった。
『観察日誌3』と書かれたものが部屋の隅に落ちていて、内容次第で重要な証拠になりそうだった。
それと、薬剤のビンを確保して、後は火にかけて、後始末は終わった。
「姫様、ララはここにいたのでしょうか?」
姫様と呼ぶと不機嫌になるエミィと呼び捨てにして欲しいらしいのだが・・
「それはないわね、確かにこちらに向かっているけどまだ途中よ。」
「痛い!痛い!」と尻込みするフェンリルの尻を叩き、背に乗って砦へと帰った。
フェンリルは豆芝になるとパリザの膝に飛び乗った。
「では姫様、猿人は人間が操っていたと?」
「だから呼び捨てにして!ダーリン。でもその通りよ!」
「でも、誰が何のために、どうやってかはわからないけど。あのソフィモドキに聞けば分かるかもね。」
逃がさない方が良かったか・・
続けて恐ろしいことを言った。
「これが、猿人の進化に繋がる可能性があるわね。身近に統率された猿人の力を見た個体の中には目覚める者がいてもおかしくないわ!彼等は武器を手にしたわ、どうするかしら?」
「人類と共存が出来ない限り・・」
皆、考え込んでしまった。
「村が、村が危ないのでは?」
パリザが突然叫んだ!
「パリザ、その通りね。どうしようかしらね?」
パリザはすがり付くように懇願した、
「みなで村に戻ればなんとかなりませんか?」
エミィはパリザを抱き寄せるとやさしく、
「時間的に無理ね!先にエメル=ハル号が着いてるんじゃないかと思うわ?」
皆に希望を分け与えるように、
「エメル=ハル号に期待しましょう。」
そして、もう一度パリザに訊いた。
「帰りたい?」
わからないんです。
「なら、このままサン・アデレードまで行きましょう。サン・アデレードにいればエメル=ハル号がやがて帰って来るから、それから考えてもいいんじゃない?」
でも・・
「安心なさい。エメル=ハル号は強いから、大丈夫よ!」
「デニス、ちょっと心配があるの。」
二人きりになった瞬間エミィが口を開いた。
「指導的な猿人は4頭と聞いていたわ。今回倒したのは3頭だった。」
なるほど、
「残りの1頭はどこに行ったか?ですね。大森林で最初に会った猿人の中にいたのでは?」
「だといいんだけど・・」
エミィにしては歯切れが悪い。
「もし、無事でその1頭が猿人を率いると・・恐ろしいわね」
新たな人類の誕生か・・
生き残りの闘いが始まる。
「さあ、みんなでサン・アデレード目指すわよ!ダーリンのお母様にご挨拶に行かなくっちゃ!」
いや、いや、かんべんしてください・・




