3−4 ソル神の神殿
ソハヤの剣が一閃された。
その杉の大木は、根本を斜めに切断されるとゆっくりとゆっくりと対岸に向かって倒れていった。
ドスンと大きな音をたてて身震いすると両岸を繋ぐ橋になった。
ムジアが捜してきたツルを張って渡れるようになると、アツギとムジアがまず渡った。
エミィは目を閉じ、森の声を聞いている。
僕とパリザはやることがなく、周囲の警戒をしていた。
「デニスさん!何かに見られているような気がするんです!」勘の鋭い少女である。
「確かに!猿人に囲まれた時とは違う感覚だな。」
エミィが目を見開き、「デニス!」と手招きした。
「森を少し戻ったところに祠があるわ!」今からそこに行くと言う。
「無茶です!姫様。アツギたちもまだ帰って来ませんし、何者かに監視されているみたいなんです!」
「大丈夫よ!相手は私に来て欲しいみたい。監視じゃなくて使いが来ているのよ。」
「ソフィ!パリザ!ここをお願い!」
エミィは僕の手を取り、「いくわよ!」
森に戻ると来た道を外れて奥へと進んだ。
「キキー!」
途中から30センチメートルほどの猿が樹上から降りてきて案内するかのように前を進みだした。
歩くにほどに猿の数が増え、やがて周囲は猿だらけになった。
その度に何故か次第に歩き安くなって行った。
そして、それは唐突に現れた。
目の前に苔むした2本の石柱。その間に石畳の道。
石柱の上に炎が灯る。
「着いたみたいね。」
エミィは当然のように落ち着いて石畳の道を歩いて行く。エミィが進むとその横に立つ石柱の上に炎が灯って行く。
僕は落ち着かず、キョロキョロしながら歩いていた。
「デニス!私のパートナーなんだから堂々として!」
怒られてしまった・・
正面に石造りの神殿?が見えてきた。
いつの間にか周囲は光があふれ、昼間の明るさになっていた。
猿たちがいつの間にかいなくなっている。
神殿も古い感じはしなくて建ったばかりのようだ。
神殿の前に手を繋いだままの二人が立つと扉が音もなく左右にゆっくりと開いた。
エミィが歩き出したので、あわててついて行く。
神殿の中は、何もない石造りの広間だった。
後ろで扉が今度は音をたてながら閉まった。
「閉じ込められた!」
後ろを見て慌てるデニスに
「落ち着きなさい!大丈夫だから。」
正面の壁を見つめながら冷静な言葉だった。
窓ひとつないのに室内は明るかった。
「誰かしら!私を呼び出したのは?」
どこからか聞こえてくる声、頭の中に直接響いてきている。
「ランザニアの次の女王よ!エメルディララ・エイランティス・ランザニアよ!」
正面に巨大な狼が出現した。最高神ソルの使徒フェンリル。
横たえた身体から頭を上げこちらを睨み見ると
「そなた、変わった者を連れておるな。」
エミィが、睨み返すと
「あなたには関係ないわ!」
瞬間フェンリルが笑ったように見えた。
「それより、あなたから神の尊厳が漂って来ないのだけれど!あなた、どうしたの?」
「我は最高神ソルの使徒にして狼神フェンリルじゃ!」
「ソル神に追放された!じゃないの?」
「うるさい!」
「図星のようね。それでその堕天使が何の用?」
「・・実はな・・」
「わが主、ソル神が言われたのよ。ランザニアの姫に助けてもらえ!」と。
「助ける?」
「我は事情があってテュール神の右手を喰ろうてしまった。その右手が喉に詰まってしまって取れんのだ。」
「物を食べても喉を通らなくなった。特に食べなくても死にはしないが、喉に異物があるのは気持ち悪いし、時々暴れるのだ。」
「何よりソル神はテュール神とは仲良き間柄。その神の手を喰らうとは何事か!とソル神は我をここに閉じ込めてしもうた。」
「我も反省しておる。何とか御慈悲をと毎日祈っておったら、そなたに助けてもらえとお告げがあった!」
「迷惑な話よね、でもソル神の頼みとあっては断る訳にもいかないわね。口を開けて見せてみなさい!」
フェンリルが口を開けると喉の奥にこちらに向けて手のひらを拡げるテュール神の右手が見えた。
「これは、これは。さて、どうしたものでしょう?」
フェンリルに問いかける。
「ソル神はなぜわらわに助けてもらえ。と言われた?」
「グングニールの槍で取ってもらえ。」と。
なるほど、
「デニス!槍をフェンリルの喉に突き刺してやって!」
えっ!無理!フェンリルが大口を開けてこちらをにらんでいる。
僕は腰が引けてしまった。
「グングニールの槍がいやだと言っているわね!」
悲しみの感情が流れ込んできた。
「そう言わずに頼む!」
仕方がない、こんなところにいつまでもいたくないわ・・
「デニス!たまには私が後ろから抱き締めてあげる。」
えっ!何をするんですか?
と思う間に後ろからハグされ、
「目をつぶって槍を構えて!」
グングニールの槍はエミィの力を受けて光輝いている。
「いい?突いて。って言ったら思い切り突くのよ!」
エミィは槍を握った僕の手を握り、方向を修正すると、
「突いて!」
槍を思い切り突き出した。
槍は狙い過たずにフェンリルの喉に吸い込まれた。
「いいわ!引いて!」
テュール神の右手は槍に導かれるように、口から飛び出したのだが、そのまま形を変えて首輪となってフェンリルの首に巻き付いた。
「痛い!苦しい!」フェンリルがわめく。
「あら、首輪のサイズが会ってないみたいね。フェンリル、あなたが身体のサイズを合わせたら?」
小さく小型犬サイズになったフェンリルに、
「かわいいわよ。ずっとこのままでいたらどう?」
「勘弁してくれ!」
「フェンリル!私に言っていないことがあるんじゃないの?」
ぶすっと豆芝サイズになり、エミィを見上げると諦めたように喋った。
「実はソル神がおっしゃるには、あなたについて行って『ためになること』をしたらまた使徒に戻してやろう。」と。
「ふ~ん。じゃぁ、いまからフェンちゃんと呼ぼうかしら?デニスのことを蔑ろにしたら首のサイズを小さくするからね!」
「私のことはエミィ様、デニスはデニス様と呼ぶのよ!いいフェンちゃん!」
「分かったら返事!」
「ワン!」




