2−9 罰は恩寵
夕刻、クリチュが夕飯を持って来た。いつもは妻が担当していたが、今日は特別なのだろう。
「罰が決まりました。ブリ兄弟は1ヘクタールの森林を切り開き農地にすることとなりました。問題はクドラトです。どうしても反省しません。このままでは追放になるでしょう。」
「それと村長は父バルタが任されることになりました。私が代行ということで。」
「そうですか。それで良かったのでしょうね。」
「姫様方のことは皆恨んではおりません。どころか、魚の捕り方を教えて頂き、飢えずに済んだと手を合わせる者も多くいます。あまりお気になさる必要はございません。」
「ありがとう。クリチュさん。少し気が晴れました。」エミィにして神妙に答えた。やはり少なからず気にはなっている。
「ところで、クドラトは甲板長殺しは自分ではないと言ってましたが、では誰が?」
クリチュは苦しそうな顔をして、
「デニスどのと現場を確かめた事がありました。あの時訪れた家を憶えていますか?」
「あぁ、老夫婦が住んでいました。」
「今朝、その二人が自ら死んでいるのが見つかりました。遺書には“娘の恨み”とだけ書かれていたそうです。」
それは?
「老夫婦の娘は甲板長の片想いした挙句に思い詰めて死んでしまいました。死因と甲板長は関係ないと思いますが、老夫婦にはそうで無かったのでしょう。気付いてやれず申し訳ないことをしました。」
クリチュの言葉は老夫婦にも甲板長にも向かっているようだった。
「でも、矢は強弓で引かれたのではありませんか?」
その通りなのですが、
「あの老人は元々弓の名手です。家からはボーガンが見つかりました。二人で引いたのでしょう。」
甲板長の面影を思い浮かべ、確かに渋いいい男かも知れないと思うと同時に何が自分を破滅に導くか分からないな・・
想いに耽っていると
「まぁ、いいわ。ところでデニス、いい話って何?」
僕が袋を開け黒い石を取り出した。
「石炭です。」
手に取ったエミィは、手が黒く汚れたのを僕の袖で拭き、
「石炭って蒸気船のエサのこと?」
エミィに石炭の説明をするのは難しいかな?
「石炭ですか?」クリチュが食い付いた。
「えぇ、かなり有望な鉱脈だと思いますし、掘るのも難しくないと思います。」
しかし、単純には喜べません、
「お気づきでしょうが、これが外に聞こえると商人、山師から不逞の輩まで入り込んできましょう。どう捌くのか、考えなくてはなりません。」心配を口にする。
「ですね。テオドルス候に一番に報告する必要があります。恩人ですし、ここの領主でもあります。」
候に任せるのが一番簡単だ。だか、候の人となりが判然としない点は不安ではある。
「石炭はどこで見つけたのですか?」
「『地獄の門』です。あの大穴の崖面に露出しています。」
「あの大穴の中から掘るのは難しいのではないですか?」
「クリチュさんはあの大穴の深さはどのくらいだと思いますか?」
覗き込んだときのことを思い出したクリチュはブルッと体を震わして
「奈落まで続いているのでは?」
僕はニコッと笑いながら、
「ほんの30メートルぐらいですよ。綱を降ろして確かめました。」
その程度なのか・・
「では、埋めることもできる?」
採掘が始まれば不要な土が山ほど出る。
「できますね。と言うより採掘が始まれば自然と埋まってしまいますよ。」
クリチュは再び考え込んでしまった。
「デニスさん、考えたのだかこの石炭の担当をクドラトにやらして見ようと思う。賭けだとは思うのだが。」
クリチュはクドラトの祖父は覚えていないが父親のことは尊敬していた。
「やつの祖父がいなければ今がなかったのも事実です。やつの才能をこのまま殺してしまうのは惜しい気がします。」
「いいんじゃ無いですか!あのような人はやる気になればいい仕事をしますよ。」
過去にも似たような人間を見てきたが、人は評価されれば頑張るものだ。
昼になると村人が集まってきた。
エミィやソフィの出自は皆に知られてしまったにも関わらず、多くの人が集まってくれた。
エミィを横から見ていた僕はエミィが緊張しているのを感じた。いつものエミィではないエミィがそこに立っていた。
緊張しているのはエミィだけでなくソフィも同様でとなりにいた僕の手を思わず握っていた。
僕も顔を赤くしながら握り返した。
クリチュが、少し青白い顔をしたエミィの横で話し始めた。
「まず、エミィ様の出自を皆聞いたと思う。ワシはエミィ様は仇ではなく恩人だと思っている!エミィ様は魚の捕り方を教えてくれただけでなく、割れた村を元に戻そうともしてくださった!どうだ!村の衆!」
クリチュの呼び掛けに、
「そうだ!そうだ!」
「仇とは別人だ!」
クリチュは続ける。
「エミィ様たちがこの村の宝になるかも知れないものを教えてくれた。」
石炭を目の前にかざして、
「これだ!石炭だ!」
石炭を皆に見せるように右から左へと動かし、
「この石炭は外で高く売れる。どう使うかは我々の考え次第だ!」
おぉ!これで腹一杯食べられる!
外と繋がって大丈夫なのか?
十人十色の感想が踊っていた。
「連れてこい!」控えていた男たちに言うと、後ろ手に縛られたクドラトが連れてこられた。
「この石炭の責任者にクドラトを任命する!」
連れてこられたクドラトが、
「オレに任せると独り占めするぞ!」
憎まれ口を叩く
「ハッハッハ!やってみるといい!」
クリチュは一言でそんなクドラトを黙らせた。
ふん!面白くない!クドラトのひねくれた想いが渦巻く中に
「まあ、石炭か、やってみてもいいか。」
前向きな気持ちが芽生えていた。
「これから現場を見に行きましょう!」僕の提案でクリチュと3人で歩き始めた。
石炭の層は大穴の反対側を中心に見えている。
「向こうに見える黒い帯状の層が石炭です。」との説明に
「これは、まず桟道を造って現場まで行くしかないか?それから試掘するとするさ。」
クドラトは早くも動き始めていた。




