2−6 祭の後
葬儀の夜も更けてバルタの村の者達もそれぞれの小屋に戻って行った。皆は思い思いの感傷に浸っていた。
バルタは自分の小屋にエミィとソフィそれにパリザを引き取っていた。
夜食を採ろうとしていた、その時外に人の気配がした。
いきなり扉を開け、ブリともう一人が現れた。
ブリは少し・・いやかなり酔っているのか赤ら顔であった。
もう一人はクドラトというらしい。見るからに地味で特徴のない姿形でブリから一歩下がって立っていた。
ブリを見るとパリザは震えながら僕の陰に隠れた。
エミィはそれを横目で見ていたが何も言わなかった。
「失礼する。」失礼などとは1ミリも思っていない言葉であった。
そして、いきなり、
「女神様はお守りする者がいなくなって不安であろう?これからは儂を頼ると良い。」
この世で自分以外に守れるものはいないとでも思っているようであった。
「そこにいるのはパリザか!戻ってきても良いぞ!寛大な儂は受け入れてやろう!ハッハッハッハ!」
僕は側に置いていたソハヤに手を掛けた。
「クドラト!早く連れて帰れ!」
クリチュが叫ぶように命じるとクドラトはブリに何か話しかけ、無理やりに外に連れ出そうとした。
ブリはエミィを振り返ると卑屈な笑いを向けながら、やっと小屋を出ていった。
エミィは無表情で見送ると僕の方を向いて柔らかな笑いを送ってきた。
なに、なに・・僕に何を期待しているの・・
次の朝早く、後葬祭の準備に祭壇に行ってみると、まだ燻っている祭壇から焼骨の一部を持ち帰ろうとする人々で溢れていた。
誰もそれを止めようともしない。
僕もそれを横目で見ながら今日の祭壇の用意をした。
今日の祭壇は小さなもので小学校の机ぐらいだ。
時間が経つに連れ人々が集まって来た。
その中をエミィがソフィと共に黒い衣装を身にまとって現れた。
昨日の衣装といい何処で揃えたのだろう・・
厳かな雰囲気を纒いつつ祭壇の前に立つとエミィは、焼骨を一掴み空に撒くと、
「イサークの魂は既に天に昇った。残された者たちはイサークの祝福を受け取るがよい!」
ソフィが捧げ持った宝剣ソハヤを受け取ると天に向かって突き上げた。
周囲が明るく暖かくなると人々の上に紫色の透明のカーテンがヒラヒラと舞い降りてきた。
紫色のカーテンに包まれた人々は得も言われぬような幸せな気分を味わった。
式典の終わりには、エミィがソハヤを燃え尽きた葬祭壇で振るうとつむじ風が起き、焼骨を吹き飛ばしてしまった。
「イサーク甲板長は、皆と共にあるのです。皆さまの心と共に。」と式を締めた。
この葬儀を境に二つの村の間で物々交換が始まった。
ケトマンの村からは穀物や野菜、バルタの村から取れたての魚や干物がそれぞれの村を行き来した。
バルタの村も何とか食べて行ける見通しがついてきた。
再び統一に向けての良い兆候であると思われた。
バルタの村では遅々とはしていたが森を切り拓いていた。
目下の目標は女神様の神殿を建設することである。
「エミィ様、この宝剣ソハヤで森を切り拓くということは出来ないのですか?」
ふと思った疑問を口にした僕にソフィがキリッと向かい合い、怒りをぶつけた。
「王国の宝剣を何だと思っているのですか?そんな事できる訳ないじゃないですか!」
「ソフィ!いいのよ。デニスは村のことを考えて言っているのだから。」
「はい・・」僕を睨みながら納得できなさそうに返事をした。
「ところでデニス。これで村はまた元に戻るかしら?私の見立てでは未だ一波乱ありそうだけど?」
僕はエミィと目が合って、慌ててちょっと下を向きながら、
「残念ですが・・おそらく・・。」
ソフィが食いつくように、
「甲板長の最期の言葉がありましたのに無理ということはないでしょう!」
僕は声を低くして
「甲板長が殺された理由が問題なんです。」
「どういうことですか?」
「まず、犯人ですが、主犯はおそらくあのクドラトという男でしょう。」
聴いていた皆が、えっ!という顔をした。
ブリではないのか?とざわついた。
「最初はこの村の村長にブリを据え自分が影から動かす。」ということを考えていたのではないでしょうか?
「ところが、女神様や我々が現れ一方に肩入れしました。あっ、そのつもりは無かったのですがクドラトから見ればと言うことです。」
「その結果、この村を従えるという目的を果たすのが難しくなった・・さらにブリどのは女神様へ横恋慕を始めました。」
過去の旅でこのようなことは何度かあった・・
「クドラトは両方を手に入れる方法を考えつき、実行をブリどのにさせようとしている。と思います。」
クドラトという人は自己肯定感や自尊心がとても高く自分以外は馬鹿にみえてる・・ではないか?
「彼の考えた策は、まず甲板長を殺しクリチュさんを犯人に仕立てます。」
それが難しいんですけど・・
「そのことをもってこっちの村を服従させます。しかも姫様達の護衛は甲板長のみですから姫様達はこの村から自力で出て行けなくなりましょう。その後、姫様達を「お守り致します」と取り入ります。」
ここで終わらせれば立派な参謀と言われるかも知れないが・・
「ここで終わりではないでしょう。次にはブリどのを焚き付けケトマンどのを追い落とすのです。最後はブリどののやり口を皆に訴えてブリどのも排除します。」
このくらいは考えているだろう。
「では、まだ安心できないのですか?」
ソフィが驚き、
「考え過ぎではないですか?」
バルタが言った。
そしてクリチュが、
「その内エメル=ハル号が姫様方を迎えに来るのではないですか?」
「そのために犯人をクリチュさんにする意味が大きくなります。エメル=ハル号の力も利用できるようにです。クドラトにとって姫様達はどうでもいいのです。ブリどのを操る餌に過ぎません。」
ソフィが言葉尻を捉えて、
「姉様を餌にするだと、無礼者!」
「ソフィ!黙って!」エミィが奇しく真剣な声で叱責した。
クリチュが真剣に考え込みながら、
「しかし、エミィ様のお陰で甲板長の最期の言葉が聞くことが出来、犯人捜しが出来なくなりました。これで、その策略は頓挫したのではありませんか?」
「そこで終わってしまったら千載一遇の機会を逃してしまいます。この機会を逃さないための策略を巡らすはずです。狙われるのはおそらくケトマンさんでしょう。」
バルタがビックリして「儂ではなくケトマンか!」
エミィが「防ぐ事は出来ますか?」
「難しいです。おそらく次にケトマンさんがバルタさんを訪ねて来る時、こちらの村にいる時か帰り道で実行されるのではないでしょうか?」
「そこまで分かっていて何とかならないの?」ソフィが我慢の限界というように聞いた。
う~ん、出来るかどうか・・
「やってみますか?」




