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宝珠と身バレ 6

6話

「で?話って何かしら」

「お、おう。そうだな」


俺はミサさんから手を離すと、大鎌の射程の外までとりあえず退避した。

軽く咳払いをする。


「こほん。とりあえず聞きたいことや話したいことは沢山あるんだが……」

「手短に。私、午後も仕事あるから」

「では本題から——ミサさん。俺たちのギルドに入ってくれ——おわっ!?」


斬撃が頭上スレスレを通って行った。

というか、少し頭を下げていなければ確実に首を持っていく高さだった。

恐る恐る顔を上げると、そこにはかつてないほど笑顔のミサさんが……俺、何か変なこと言った?


「ねぇ、買取嬢の倍率って知ってる?」

「……いえ。存じ上げません」

「そう。なら教えてあげる。八十倍よ」

「は、はち!?」


たしか、ギルドの受付嬢の倍率が二十倍。

王国騎士団が十五倍。

王国魔法士団ですら三十倍だったはず……。


「買取嬢はね。他の公務員と違って求人数が以上に少ないの。理由はご存知で?」

「いえ、分かりません」

「ふっ……」


え。今俺、鼻で笑われたよね。

命の危険があるから理由は聞けないけど。


「買取嬢はね、とても安全で安泰な仕事なの。受付嬢と違って迷惑なお客のストレスに悩まされることも少ないし、冒険者や騎士団、魔法士団みたいに命をかける必要もない。おまけに終身雇用、週休五日、福利厚生もばっちし。こんなおいしい職業を手放すなんて絶対に無い!というか、あり得ないんですけど!!」

「わ、分かった!分かったから圧が強いっ!」


俺は地面を転がりながら撤退。

獲物を見つけた獅子の如く目を光らせている買取嬢にふたつ目の疑問を投げかける。


「じゃあ、どうして俺たちや他の仲間たちを助けているんだ?ミサさんが買取嬢として働くことと、冒険者を守ることは全く関係ない!」

「冒険者を守る?何を勘違いしているのかしら」

「え?」


ミサさんはポケットから黒色の球をひとつ取り出した。

かなりの魔力が込められているのが、少し離れた俺にもよく見える。


「これは黒龍の宝珠。あなた達が遭遇した黒龍から奪い取ったものよ。あなたは、これにどれだけの価値があるか知っているの?」

「金貨千枚といったところか?まさか、小銭稼ぎのついでに俺たちを?」


そこまで言うと、『死神』様は首を横に大きく振った。


「ふたつ、訂正するわ。まず、黒龍の宝珠の買取金額は金貨一万枚」

「一万!?」

そして、ふたつ目の訂正だけど……前提として、ギルドは金貨一万枚も所持していると思う?」

「いや、ないな。せいぜい三千が限界だろう」


ん……?ということは、ギルドは黒龍の宝珠を借金して買い取らなくてはならないのか。

ギルドがそこまでの大金を持っていないと言うことは、他の武器屋はさらに持っていない。

つまり、ギルドは誰も買わないゴミを借金して買わなくてはならない……結果、借金を返せずにギルドは破産する。


「私は職場と相場を守るためなら何だってするの。邪魔するものはみ〜んな殺すわ。だって私のためだもの」

「ひっ!?」


金貨一万枚の宝珠を握りつぶすと、ミサさんは俺に背を向けて歩き始めた。

その姿はまるで『死神』のようだった。



「ん……俺、寝てたのか?」


暗い路地裏で俺——レイガー・レンフェルは目を覚ました。

酒を飲んだ影響で昨晩の記憶がない。

眠い目を擦り、ゆっくりと立ち上がる。

ズボンのポケットに手を入れ——何か入っていることに気がつく。

取り出してみると、それは小さな黒い匣だった。


「これ……昨日の酒場で貰ったやつか」


あの人は何だったのだろうか。

記憶が曖昧で、何を話していたかあまり覚えていない。

『力を授けてやる』と言われたような……いや、これは夢の中の話だったっけ?

俺はゆっくりと立ち上がる。

何かに導かれるままに歩き出す。

暗い路地裏を。静かにひっそりと。

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