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宝珠と身バレ 4

「シン〜。本当に『死神』は女性だったの?」

「俺も信じらんねぇよ。ボスも年取ったし、感覚と頭がおかしくなってんじゃないか?」

「文句を言う暇があれば手を動かせ。あと、シンにボスの文句を言っても何も変わらないぞ」


最果ての街、南東部に位置するそれなりに大きな邸宅——ギルド『七星』のホームの中で、俺たちはひたすらに写真と向き合っていた。

吸い込まれるくらいに青い髪を持つ魔女帽子を被った少女——サルシャ・サーザント。

やや目つきと口は悪いが、美しい翡翠色の髪と瞳を持つ魔法使い——アラン・アルカス。

腰まで届く長い白髪と高貴な顔立ち、真紅の瞳を持つ騎士ナイト——エリシア・エルガリア。

最後に俺——シン・シルヴィウスの四人は、先日の黒龍襲撃を報告してから、ひたすら書類と睨めっこをしていた。

サルシャが机にぶっ倒れ、積み上がった書類が音を立てて床に散らばる。


「うぅ〜。もう……無…理……」

「お、おい馬鹿魔法使い!ここで倒れたらお前の仕事が俺のたちの仕事になっちまう!!」

「……私は馬鹿じゃないもん。馬鹿なのは私に書類を読ませたボスだよ」


ボス——前『七星』のリーダーを務めていたその男は、俺たちからの報告を受けると翌日にはこの大量の紙束を用意していた。

あの人の能力(スキル)は魔力の残滓から持ち主の情報を引っ張り出す『索敵B』。

大多数の人が持つ『索敵C』とは比較にならないほど詳細な情報を手に入れる……らしい。

しかし、そんなボスでさえもこの街のギルド付近で魔力を強く感じる、が限界らしい。

だからこうやって、ギルドの来店記録をいちいち確認しているのだが……。


「数が多すぎる……」

「私も同感だ。サルシャの言う通り、これだけの量を四人で解析するのは無理があるぞ」

「……茶でも淹れてくるわ。馬鹿魔法使い、さっさと休憩タイムに入るために手伝え」

「ふぇ〜い」


アランとサルシャの魔法使いコンビがフラフラと部屋を出ていく——直後、騎士エリシアが俺の胸に拳を当ててきた。


「……なんの真似だ?」

「本当はもう気がついているのだろう?」

「……」


俺が返答に困っていると、エリシアは持っていた書類をビリビリに引き裂き、ゴミ箱へ投げ入れた。

女騎士が天井を見上げながら呟く。


「昔の話だ。修行の旅をしている私に、パーティメンバーにならないかと口説いてきた男がいたんだ。私はその男に聞いた。『お前は何ができる?』と」

「その男は……なんて言ったんだ?」


分かっている答えをあえて聞いてみる。

悪戯っぽそうにエリシアは笑うと、下手くそだがそれが誰か一発で分かる真似をした。


「『俺は目と鼻がいいから、相手の攻撃を暗闇でも盾で止める。匂いを嗅げば、少し離れていてもそいつの居場所が分かる』とな」

「そんなカッコいいことを言う奴がこの世界にいるんだな。で?お前は返事をどうしたんだ」

「無論受けたさ。それに、今も昔も私が受け入れたギルドはひとつしかないよ」


嘘偽りのないまっすぐな、美しい紅の瞳がこちらを見据えてくる。

あぁ。やっぱり、こいつに隠し事は生涯出来なさそうだな。

扉の向こうが何やら騒がしい。よく喧嘩する二人だが、同じ魔法使い同士仲の良い部分もあるのだ。

俺はそっとエリシアに耳打ちをする。


「(心辺りのある人物が一人いる。しかし、あくまで俺の推測に過ぎない。だから、『死神』本人かどうか確証が取れるまで、俺一人に任せてくれないか?)」

「(それは別に構わないが……あの二人はどうする?急にお前一人で外に出れば怪しむぞ?)」

「(何か理由があればいいんだが……)」


廊下をドスドスと走る音が聞こえ、追いかけるようにもうひとつも来た。

何事もなかったかのように距離を取り、書類の山を片付ける俺たち。

勢いよく扉が開かれ、何も知らない青髪の魔法使いが部屋に飛び込んできた。


「大変!お茶が切れちゃってるの!!」

「ば、馬鹿!!急に走り出すなっつーの。こんなところで体力使わせるなよ……」


俺とエリシアは顔を見合わせると、小さく頷いた。

俺は両手を胸の前で合わせると、何も知らない二人に提案をする。


「よし。一旦仕事は休憩で、気分転換に買い出しに出かけよう。二人は茶葉と美味い菓子を。エリシアは今晩の食材を頼めるか?」

「りょ〜か〜い〜」

「構わないよ」

「ん?シンも買い出しじゃないのか?」


アランの問いかけに俺は強く頷いた。


「俺は……少し文句を言う相手がいるからな。そいつに会ってくる」


二人は納得したように頷いてくれた。

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