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宝珠と身バレ 2

東のダンジョン——25層——


この階層の難易度は大体Bランク。

というか、ダンジョン自体難易度はさほど高くはない。

ではなぜ、未だ誰一人として覇者〈クリア〉が出てこないのか。

その理由は主にふたつ。

ひとつ、階層が他のダンジョンと比べて途方もないくらいに長いこと。

そしてもうひとつ——異常個体がよく出る。

通常の個体よりも遥かに強い異常個体〈イレギュラー〉はその希少さから情報が少なく、通常個体〈ノーマル〉ならCランクでも倒せる魔物がBランクパーティを壊滅させてしまうことがある。

ちなみに、ブラックリザードはリザードマンの異常個体〈イレギュラー〉。

黒龍は赤龍の異常個体〈イレギュラー〉である。

故に黒龍の宝珠の値は赤龍の宝珠の何倍もの値段がついてしまうというわけだ。

もっとも、それ以前の問題として黒龍はそれなりに強いという問題もあるのだが……。


『———ッ!!!』

「みんな、伏せろっ!!」


死を振りまく黒炎が放たれ、盾を構えているのに肌がジリジリと焼かれた。

仲間たちは……結界を張って無事な様子。ただし、状況は何も変わっていない。

いつものようにダンジョンに足を踏み入れた俺たち——Aランクパーティ『七星』は、帰り道に絶望と遭遇した。

背丈はこのだだっ広いダンジョンの天井に届くほど。大の大人三人分の太さを持つ手足。爪だけで俺の愛剣を凌駕する大きさだ。

炎が弱まったのを確認し、俺はすぐに仲間に指示を出す。


「氷魔法を!」

「り、了解!」

「串刺しにしてやる!」


仲間の魔法使い二人が放った無数の氷刃が漆黒の龍の首に命中。

キラキラと氷片が舞い、周囲の温度を少しづつ下げていく。


「手応えは!?」

「残念なことに」

「倒せっこないよ!!」

『————ォォォッッ!!!』


漆黒の龍の咆哮が空気を揺らした。

ビリビリと肺が痺れて呼吸も上手くできない。

こちらは満身創痍。相手は無傷で余裕の表情。

なんとか逃げる一手を打たないと……。

悩む俺の肩を女騎士——エリシアが叩いた。


「私が時間を稼ぐ。その間に二人を連れて逃げてほしい」

「お前正気か!?」

「他に方法があるなら今教えてくれ。私は不器用なんだ。考えていることを察する高度な芸は持ち合わせていない」

「〜〜〜っ!」


どうすればこの状況を切り抜けられる?

誰も犠牲にならずに地上へ帰還できる?

せめてダンジョンを抜ければ、Sランクの人たちが協力して倒してくれるはずだ。

だがどうやって——悩む俺の真上から声が響いた。


「お前が全ての元凶か」

「だ、誰だっ!?」


ダンジョンの天井が突き破られ、そこから黒いフード付きローブを着た何者かが現れた。

唖然としている俺達を無視し、ソイツはまっすぐ黒龍を見据え、背中に装備していた大鎌を構えた。


「やはり異常個体《異常個体(イレギュラー)か。現場に来てみて正解だったな」

「ま、待て!そいつの炎は危険すぎる!」


俺の静止を無視し、ソイツは黒龍に向けてまっすぐ走り出した。

放たれた黒炎弾を次々と切り裂き、あっという間に側面に回り込む。

薙ぎ払われた尻尾に飛び乗ると、そのまま首裏まで全力疾走。そのまま大鎌を振り下ろし、魔法ですら傷がつかなかった肉体から血を吹き出させる。


『———ォォォッッ!!!!』

「黙れ。貴様が喚くと眷属の魔物が集まる。私の業務が増えるだろう?」

「! 危ない!!」


ソイツが首から振り落とされた。

龍の高さから見ても即死、もしくは大怪我は免れないだろう。

だが、ソイツはどこからか鎖鎌を取り出し、龍の首にそれを二重三重に巻きつけ、あろうことか龍の口に自ら引き寄せていく。


「黒炎が来るぞ!」


龍の喉笛が真っ赤に染まり、大きく息を吸った。

しかしソイツは、臆することなく片手で持っていた大鎌を龍の顎に突き刺し、鱗ごと貫通させてしまった。

痛みに悶え、龍は口を無理やり閉じてしまう。


「手間をかけさせるな。静かにしろと言っているだろう」

『〜〜〜!!!!』


ソイツは華麗に地上へ着地すると同時に、龍の炎は口の中で暴発。

黒龍は声も出せずに絶命した。

唖然と見ていた俺にエリシアが問いた。


「なぁ、あれが噂の死神じゃないか?」

「死神?」


アリシアは強く頷いた。


「異常個体〈イレギュラー〉や魔物が大量発生した際に現れるソロの冒険者だ。素材やドロップ品ごと魔物を殺戮する姿から、命だけを狙って狩る存在——死神と呼ばれるようになった」

「そんな存在がこの街に……」


黒いフード付きコートで身を隠したソイツは、炎に紛れて姿を消してしまった。

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