表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

Section03 催眠遊戯

「あ、あれ……?」

雨里(あめり)ちゃん、どうかした? 大丈夫?」

「……いえ、何とも有りません」

 褐色の童女が、一瞬ふらついた。

 目を擦り、ぱちくり瞬きしている。

 きゃきゃきゃ♪

 ()()()()()()みたいだね。

雨里(あめり)ちゃん、お願い。この腕に巻かれた鎖と足枷を外してくれる?」

「ふぇっ……シージャ((先輩))が、二人?」

 うんうん♪

 恐らく、オレが分身して視えているだろう。

 声は二重、三重と響いているに違いない。

 急激な眠気に苦しんでいるはずだけども。

 頭を振って、体調の違和感と闘っている、健気な娘だ。

「いけません。千百合(ちゆり)様のご命令に反します」

「むへへ、強がっていられる猶予も今の内だよ♪」

「どういう、意味です、か?」

 飲酒して、酔っているかのように。

 あるいは、媚薬を盛られたみたいに。

 可愛らしい顔が、桃色の微熱に火照り。

 橙色の垂れ目、その角膜が幽かな赤紫色を帯びる。

「君の視界、少しずつ牡丹色に染まっているでしょ? クラクラしてボーッとしちゃってさ。壁でも布団でも良いから、体を(うず)めたくて(たま)らないんじゃない?」

「……雨里(あめり)、に。何か、したんですか?」

「君自身の招いた結果だよ。()()()()()は綺麗に取れたとしても、肌に接触した()()()までは洗い流せない。すぐ体内へ侵入して、皮膚から消えちゃうもん。初体験だろうから、その体に何が起きたか説明してあげるね」

 わざと小さな声量で話した。

 近寄ってくれると期待して。

 彼女は、その通りに動いた。

 ぴくぴく揺らす虎耳を、オレの綻んだ口元へ。

 後は簡単、囁き声を添えるだけ。

「眠くなァ~れ♪」

「!? ――――」

 どさっ。

 彼女がオレに凭れ掛かった。

 か細い寝息を当てられる。

 意識は、ぐっすり夢の中。

「さぁて、雨里(あめり)ちゃん。君の主人は誰かな~?」

 むっくり。

 項垂れた顔で起き上がる。

 虚ろな瞳は光を宿さない。

チユリ、アヤー((千百合、ママ))……どうして、ここに? シージャ((先輩))は?」

乙葵(いつき)ちゃんなら、お庭を散歩中なの。良い天気だから、お外で遊ばなきゃ勿体ないの」

 霞んでいるだろう視界に、映る人影を誤認してもらう。

 顔立ちが、母ちゃんと瓜二つで良かった。

 変声期の到来までは、声真似も容易い。

 えへへ☆ 上手く騙せそうなの♪

「命令と、違い、ます。……()()()を境に、外の世界へ、出さない。そう、お決めになった、はずです」

「それより雨里(あめり)ちゃん、遊びの続きやろうなの」

「つづ、き?」

「囚人と看守ごっこ♪ 最初は千百合(ちゆり)が捕えられて尋問を受けたでしょ? 今度は役割を切り替えて遊ぶの」

「……なるほど、そうでしたね。ワカヤビタン((了解しました))

 しめしめ☆

 鎖と足枷からの解放。

 凝り固まった肩を(ほぐ)して、猫みたいに背伸びする。

 後ろ足も交互に伸ばして、(ほぐ)れていく快感に浸った。

 自由って最高だね♡

チユリアヤー((千百合ママ))。そろそろ」

「ん? ……あ、ごめんなの。今、縛り付けて上げるの♪」

 ジャリリン。スチャラタン。チャンジャラリン。

 ガチャン、ガチョン。

 これで良し☆

 今度は雨里(あめり)が囚人役だ。

 後ろ手に両腕を上げたまま縛られ、女の子座りさせられて。

 滑稽で可愛くて、ムラムラするなー。

 むへへ、母ちゃんって馬鹿だよね。

 自分より警戒心ない子を見張り役にしちゃってさ。

 オレにとって外の世界を知る為の情報源でしかないんだもん。

 催眠も効きやすいみたいだし、このまま洗脳して手下にしちゃいたい♪

 夢魔(むま)の血には、ご用心だよ♡

「ではでは、雨里(あめり)ちゃん。先ずは、この世界について教えてなの」

ワカヤビタン((かしこまりました))。一つ、お尋ねしても宜しいですか?」

 こくり、と笑顔で頷いてあげる。

チユリアヤー((千百合ママ))は前世の記憶を、お持ちでしょうか?」

「お! その質問するって事は、雨里(あめり)ちゃんも生まれ変わった人なの?」

「世界の理を知る内の一人です」

 縦にも横にも首を振らず、童女は答えた。

「どれほどの割合か、掌握でき兼ねますが、大体の者が『地球』と呼ばれる星から転生されたそうです」

「ちきゅう?」

「はい。球体に近い地表の上で、人々が暮らしていたとされる、旧世界の一端です」

 単純な由来だね。

 でも、前世の記憶には無かった情報だ。

 いや、単に覚えていないだけかも?

「この世界は何て名前なの?」

『龍球』( りゅうきゅう )と、お呼びします」

「りゅう、きゅう……?」

「龍を、ご存知ですか? 転生者の言葉で表すなら、伝説上の生き物です」

「蜥蜴とか、蛇に似た、空を飛ぶ巨大な生き物?」

「龍門なる滝を登り切った、鯉の成長した御姿。そう譬えた方が視像に近いです」

「ふむふむ? それで『きゅう』と合わせて、どんな由来なの?」

「球体化した龍の姿、という意味になります」

「……ふぇ!? じゃあオレ達、生き物の上に乗って生活しているんだ!?」

 話の流れから、推察した言葉を、つい口走る。

 牛の尻尾が床を叩き始めた。

「地面は? 海は? この世界に存在する!?」

「はい、ほぼ地球と変わりないかと」

「えっ、え? 全然、理解できない! だって生き物の上に立っているんでしょ? 大地って呼べる場所なくない? 人で言うところの皮膚――あ、鯉だから魚鱗か! 煩ァアい!」

 床を飛び跳ねる牛の尻尾が、オレの頬を叩いてきた。

 質問している場合じゃない、早く外に出て確かめなきゃ!

 そう訴えてくる痒みに(こら)えられず、筆先を掴もうにも掴めない。

「龍の鱗って人々が暮らしていける程度には固いの? 構造上、体ぎっしり詰め込まれているはずだけども、海なんて発生できるの? がぶ! んんんんんッ!?」

 尻尾に齧り付いてやったけど()ぎゃい!

 取れ立ての魚よろしく、ピチピチ動いて喧しい。

 額に生えた漆黒の牛角へ、ぐるぐる巻きに固定する。

 でも今度は、腰羽が燥いだぞ。

 オレの体に寄生虫でも居るのか?

 もう良い、雨里(あめり)の答えに集中する!

「龍の肉体は死んでおります。地面も、海も、死骸の一部が変化した物です」

「……へ?」

 間抜けな声を漏らした。

 蝙蝠の翼が、落ち着きを取り戻す。

「この世界における龍とは、唯一無二の存在。生物の始祖にして、我らが大いなる母様(ははさま)です。彼の者を『六大原主(ろくだいげんしゅ)』が一柱『ワンガーウカミ((星神様))』と称えます」

 雨里(あめり)は語り始めた。

 世界の成り立ちについて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ