9.告白
「う…」
「ユーリ先生!!? みなさん! ユーリ先生の意識が戻りましたよ!!」
ぼんやりと目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。
……ここは、学校の医務室か……?
俺、生きていたのか……?
視界に映るのは、涙ぐむ先生方と2年1組と6年3組の生徒たち、そして——ミーナ。
みんな俺を囲み、安堵と不安が入り混じった表情をしている。
しかし——体が痛い。
まるで全身が鉛のように重く、まったく動かせない。
「ユーリ先生!! 俺……俺のせいでごめんなさい…!!」
泣きそうな声で叫びながら、ナインが駆け寄ってくる。
その後ろにはラウル先生もいた。
……ナイン、無事だったんだな。
本当に……良かった。
「……無事で……良かった……」
掠れる声でそう言うと、ナインはポロポロと涙をこぼす。
「でも……!!」
「……ナイン。ユーリ先生がそう仰っているんだ。お前のせいじゃない」
ラウル先生が、静かにナインの肩を叩く。
「ラウル先生……ありがとうございます……」
少し間を置いて、俺はゆっくりと口を開いた。
「あと……課題……クリアしたいです…… すみません……ミーナと二人きりにさせてくれますか…?」
ラウル先生は一瞬、驚いたように目を見開く。
そして、すぐに苦笑しながら鼻をすすった。
「……わかった。……お前……これが最期の言葉になるなよ……?」
「……はい……」
震える声でそう答えると、ラウル先生はゆっくりとうなずき、みんなを外へ促した。
やがて扉が閉まり、静寂が訪れる。
俺と——ミーナ、二人きり。
「先生……」
ミーナの声は、小さく震えていた。
「ミーナ……」
俺は、喉が焼けつくように痛むのも構わず、精一杯の力を振り絞る。
「今までずっと……俺を好きでいてくれて、ありがとう……」
「やだ……先生、やめてよ……別れの挨拶みたいじゃん……」
ミーナの目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「……そうだよ。」
俺はゆっくりと目を閉じる。
「自分がもうダメなことくらい……自分が一番わかってる。 だから、最後にどうしても伝えたかった……」
呼吸が浅くなる。
それでも——伝えなければ。
「ミーナ……俺はとっくのとうに、世界で一番お前が好きだ。」
ミーナの肩が大きく震えた。
「こんな時に言うのは……ずるいってわかってる。でも、それでも……伝えずにはいられなかったんだ……」
「……先生……」
ミーナは唇を噛み、泣きながら微笑む。
「ずるいよ……こんな時に言われたら、忘れられなくなっちゃうよ……」
頬を涙で濡らしながら、それでもミーナは——
「……でも、私いま……世界で一番幸せだよ……」
——なんて綺麗な笑顔なんだろう。
体が動くなら、この震える小さな体を抱きしめたい。
そう思った瞬間——
「だから先生。」
ミーナが、涙を堪えながら微笑んだ。
「……先生はまだ死んじゃダメだよ。生徒を立派な魔法使いに育てるっていう夢があるんでしょう? ……その夢、叶えなきゃ。」
「ミーナ……?」
ミーナは決意を固めたように、静かに立ち上がる。
そして——
見たことのない、立派な古い杖を取り出した。
——まさか。
あれは……ミーナの本来の杖——!?
心臓が跳ね上がる。
「……ミーナ……やめてくれ……!!」
掠れた声で、必死に止めようとした。
だって、本来の魔法を使ったら——お前は——
「私の夢はもう叶ったの。」
ミーナが微笑む。
「先生と両思いになること。」
その笑顔が、あまりにも綺麗で、あまりにも儚かった。
「だから……今度は先生の夢が叶う番だよ!!」
「私は先生の笑顔が好き。 だから、その笑顔を奪わせない……!」
「——先生、ずっと大好きだよ!!」
杖が振られる。
「ミーナ——!! やめてくれ!! ずっと一緒にいたいんだ!!」
俺の叫びは、虚空へと消えていく。
視界がぼやける。
意識が遠のいていく。
——ミーナ……!!
最後に見たミーナの表情はそれはそれは美しい笑顔だった。