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5.胸騒ぎ


その日の夜からミーナは静かになった。


毎晩のように俺の部屋に来るのは相変わらずだが、今日は様子が違った。

いつもなら布団の中で待っているのに、ベッドの上でゴロゴロしながら本を読んでいる。


…そんなにエロ本がイイノデスカ。

大人しいと逆に調子が狂うな。


「おい、お前、体調悪いのか?」

「え?ピンピンしてますよ?」

「…そんなにエロ本が面白いのか?」

「それもよかったんですけど、ルイさんが他にもたくさんくれたんです」


そう言って、ミーナは読んでいる本を俺に見せてきた。


「どれどれ……って、これ、古代魔法の本じゃないか。興味あるのか?」

「え? いや、興味っていうか、普通に読んで……」

「読めるのか!? これ全文古代文字だぞ。先生でも読める人は少ないし、俺だって半分も理解できない。全部読めるのは校長先生くらいじゃないか? それに、この本に書かれてる魔法を使える人だって、この国にいるかどうかのレベルなんだぞ……」


ミーナの手が、ぴくっと動いた。


「……やだな~先生、冗談だよ! じょーだん!! 真面目なんだから~」


「でもそんなところも好きー!」といつものように言っているが、無理に明るく笑っているように見える。

さっきの間は、なんだ?


「……そっか。そうだよな……驚いた……」

「そうですよ~! じゃ、今日は帰るね」


バタン。


扉が閉まり、部屋が急に静かになった。

あいつが自分から帰ることなんて初めてだ。

胸騒ぎがする。


**********


「おばばが書いたあの本、読める人ほとんどいないんだって。古代文字なんか使わなければよかったのに」

「バカには読めないようにしているんじゃ。あんな本を何で読もうと思ったんだい?」

「……このままでいられるヒントが書いてあると思ったから」


ミーナは週末、久しぶりに育ての老婆の元へ帰っていた。彼女の声はかすかに震えている。


「そんなものはないよ。お前はもう運命を受け入れるしかないんじゃ」


おばばは静かに言い放つ。

その目は、すべてを知っている者の目だった。


「……今さら後悔しているのか?」

「違うよ……ただ、時間を延ばしたかっただけ」


ミーナは拳をぎゅっと握る。

おばばはしばらく彼女を見つめた後、ため息をついた。


「ミーナ、お前は何を選んでも、最後には後悔するんじゃよ」

「……もう行くね」


ミーナは踵を返し、足早に去っていく。

おばばはその背中を見送りながら、小さくつぶやいた。


「……もうすぐ、潮時じゃな」


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