4.6年後の世界
――それから6年後。
ルイの予想は的中した。
ミーナはとんでもない美人に成長していた。
魔法の就職先よりも、結婚の申し出のほうが多いくらいだ。
成績優秀、性格も良く、スタイルも抜群。
一見クールビューティーだが、中身は人懐っこいので、老若男女問わずモテモテ。
まさに完璧美少女……ただし、ある一点を除いて。
「先生、おはよう! 今日もイケメンだね!! いつでも手を出して大丈夫だから、安心してね!!!」
「ないから! 安心して眠りなさい!!」
(……よくもまあ6年間、毎日懲りずに……)
そう。
ミーナは6年間、一日たりとも欠かさず俺にアタックし続けたのだ。
しかも、その過激度は年々パワーアップ。
最近では、「私のバージンは先生が奪うの!」 などと廊下で堂々と友達に話す始末。
「……おいミーナ、もうちょっと言葉選べ……!」
――もはや誰も止める者はいない。
学校中がミーナの味方になっている。
生徒たちはもちろん、ラウル先生や校長先生まで「応援してるぞ!」と笑顔で言ってくる。
コンプライアンス?
何それ、この学校には存在しないのか??
逃げ場なし。味方ゼロ。
生徒と教師がそんな関係になるのはどう考えても問題だろう。
だから俺は、気づかないフリをしている。
ミーナが魅力的なのは、見ればわかる。
あいつはもう立派な大人になった。誰が見ても美人で、明るくて、気遣いもできる。
そして何より――6年間、一途に俺だけを追いかけてきた。
そんなの、意識するなってほうが無理だ。
でも。
俺は教師で、ミーナは生徒だ。
それ以上の気持ちを持つのは、“間違い”だ。
――こんなもの、気の迷いだ。
そんなことを思っていた、そのとき。
「よう、お前ら相変わらずだな」
突然聞こえた軽い声に振り返ると、そこにはルイが立っていた。
「ルイさん!」
「ミーナ、今日も美人だな。こりゃ今晩あたりユーリが手を出してくるかもな~」
「本当!? やった!!」
「ないから! そういう如何わしい会話を校内でするのは、先生はよくないと思います!!!」
俺の必死の抗議を横目に、ルイは肩をすくめて小声で呟く。
「……堅物め」
――わざと聞こえるように言ったな。嫌味か?
「そうだ、ミーナにお土産だ。いつか来る日に備えて、これで勉強しておけ」
「おお、ありがとうございます! エロ本ですね!」
――こいつら、さっきの話聞いてないな……。
「あと、校長先生が呼んでたぞ。すぐに来いってさ。お土産は校長室に行った後でゆっくり楽しみな。ただし、校長にはバレるなよ」
「了解! ありがとう、ルイさん!」
ミーナが軽快な足取りで去っていくと、ルイがニヤニヤしながらこちらを見てきた。
「お前、まだ手を出してないの? そんな呑気だと、他の誰かのところに行っちまうぞ」
「だから教師と生徒なんだって、ありえないだろ。それに、ミーナが他の人のところに行くっていうのもありえないと言うか……」
「うわー、色男。すごい自信」
――厭味ったらしい……。
でも実際そうだろ?
これだけアプローチしてきて、他の求婚は全員断っているんだぞ。
そんなミーナが、俺を諦めて他の人のところに行くなんて……いや、さすがにありえない。