3.波乱の予感?
「今日は校庭で風を起こす魔法の練習をする。みんな自分の杖は持ったな?」
1年3組の生徒たちは元気よく「はい!」と返事をし、誇らしげにピカピカの杖を掲げた。うん、かわいい。
「じゃあ、どんな風を起こしたいかイメージして。それをそのまま杖に乗せるんだ。こんな感じで!」
俺が手本として軽く木枯らしを吹かせると、子どもたちは「おーっ!」と感嘆の声を上げた。簡単な魔法だけど、こういう反応はやっぱり嬉しい。
「じゃあ、みんなもやってみよう!」
「えい! えい!」
小さな杖を振る姿は微笑ましいが、風はなかなか起こらない。まあ、最初はこんなものだ。少しずつ練習して成長してくれればいい——
ビュオオオオオ——ッ!
突如、校庭にものすごい突風が吹き荒れた。
「うわー!!」「なになに!?」
生徒たちが驚く中、俺も慌てて声を上げる。
「こ、これは……!? いったい誰がこんな風を!?」
「やったー! 先生、風が吹いたよ!」
俺のもとへ駆け寄る少女。
「ミーナ!? まさかお前が!?」
「そうです~! すごいですか?」
ミーナは褒めてほしそうに目を輝かせる。いや、驚いた。今日初めて教えたばかりなのに、もう使えるなんて——これは、将来すごい魔法使いになるかもしれないぞ!
「すごいじゃないか! 初日でここまでできるなんて、上出来だ!!」
「本当ですか!? じゃあ先生、好きになりましたか!!?」
「いや……それとこれは話が別だ……」
ミーナとのいつものやり取りに苦笑していると、背後から拍手が聞こえた。
「本当にすごいですね。才能のある生徒さんだ」
スーツ姿のスラッとした男性と、隣に立つ仏頂面の青年。この方は…
「り、理事長……! お疲れさまです!なぜ校庭へ?」
スーツの男性はこの学校の理事長だ。
大企業の社長であり、人格者としても名高い人物。そんな彼がなぜ校庭に?
「息子に校内を案内させていました。いずれは私の後を継いでもらうつもりなので」
なるほど、隣の青年は息子さんか。15、6歳くらいに見える。
「挨拶しなさい」
理事長が促すが、息子は俺をじろりと睨み、面倒くさそうに言った。
「なんで俺からおっさんに挨拶しなきゃいけねーんだよ……」
……ムカ。
嫌な奴だな! それに俺はまだ22歳でお兄さんだ!! おっさんじゃない!!!
…とはいえ、大人の対応を見せねばならない。
「いえいえ、確かに私から挨拶するべきでしたね。1年3組担任のユーリと申します。そしてこちらが生徒のミーナです」
「……」
ミーナを紹介すると、彼女はびっくりするほど理事長の息子を睨みつけていた。
おいミーナ、そんな顔するな……!
息子の機嫌がさらに悪く——いや、違う。こいつ、ミーナを見てニヤニヤしてる……?
「お前、ミーナっていうのか。まあまあ可愛いじゃねーか。お前がどうしてもって言うなら、俺の彼女にしてやらんこともないぜ?」
は?
「はあ!? 何言ってんの!? 私は——モゴモゴ」
まずい!こいつ「私は先生一筋なんだから!」とか言うつもりだ!!
察した俺は、慌ててミーナの口をふさいだ。
「すみません! ミーナは少し興奮しておりまして……!」
理事長が息子の頭を押さえつけ、無理やり頭を下げさせる。
「申し訳ないのはこちらです。大変な無礼を……。おい、もう行くぞ」
理事長は息子を連れ、足早に去っていった。
ふう……やれやれだ……。
それにしても、あの人格者の理事長の息子が、まさかのドラ息子とは。
「ミーナ、大丈夫だったか?」
手を外すと、ミーナはキラキラした目で俺を見つめていた。
「あれ? 不機嫌じゃないのか?」
「先生の手に……キスしちゃった……!!」
「……ああ、うん。まあ、そうなるか……」
とりあえず元気そうでよかった……。
「それにしても、あのクソガキムカつく! 突風で吹き飛ばしてもいいですか?」
「気持ちは分かるが、やめてくれ……私の立場と居場所がなくなる……」
そうこうしているうちに、授業終了の鐘が響く。
みんなで校舎へ戻る途中、ふと考えた。
……あの息子、ミーナのことをかなり気に入っていたみたいだ。
何事も起こらず、無事にミーナが卒業してくれるといいのだが……。