女神の慈愛
「みんな、こんな詐欺師に騙されてはいけません!!」
唯一平伏していなかった女性、見物人の中にいたシスターが声を上げる。
「失礼なことはおやめなさい」
「神父様もどうしてしまったのですか!
こんなの何かのトリックがある詐欺に決まっています!!」
そう言いながらズカズカと近づいてくるシスターを見た百代は、愛しいものを見つけたという表情をしながら目を細めた。
「シスターミリカ、ようやくお話できる時が来ましたね」
「何で私の名前を……って、詐欺師ならそのくらいは事前に調べているものよね。
他のみんなは騙せても私は騙されないんだから!」
「それも全てはこの教会を守る為……ですよね?
貴女の献身にはいつも助けられてばかりでしたね」
「な、何を知った風な口を……」
ミリカが幾ら口調を荒げて詰め寄ったところで、百代は一切動じていなかった。
それどころか、彼女の瞳は更に慈愛の色を濃くしていく。
「貴女のことならよく知っていますよ。
5歳の頃に両親が亡くなってしまってこちらに預けられた事。
両親に会いたいと、この女神像の裏で泣いていた事もありましたわね。
あの日、貴女の夢の中に少しだけお邪魔したのを覚えているでしょうか?」
「そ、そんな……何でそんなことまで……」
驚いてたじろくミリカのすぐ近くでは、既に立ち上がっていたカイトが神父に尋ねる。
「モモヨさんの言っていることは本当なのですか?」
「ええ、間違いなく。
当時は手がつけられないほどに落ち込んでいたミリカでしたが、ある日夢の中で女神様と会ったと言い出しまして。
それからは女神さまのために立派なシスターになるのだと人が変わったかのように強くなったのを覚えております」
「では、やはり彼女には……」
「ええ、間違いなく女神さまが乗り移っておいでなのでしょう」
二人がそんな会話をしている間も、百代とミリカの話は進んでいく。
「貴女はあの日から私との約束を守って頑張ってくれましたね。
今こそ、あの時の約束を果たしましょう」
そう言って百代は手を開いてミリカを受け入れる構えを取った。
「女神さま……本当に女神さまなのですね。
ずっとお会いできる日を楽しみにしておりました!」
ミリカは瞳に涙を浮かべながら百代の胸に飛び込んでいった。
そのミリカを優しく抱きしめながら頭を撫でる百代。
この感動的な光景を前に、もはや誰ひとりとして百代の神下ろしを疑うものはいなくなっていたのであった。