歩き巫女、いきなりの大ピンチ
「あらあら、困りましたわ」
道の真ん中で心底困ったという表情を浮かべながら、顎に手を添える女性。
「ひゃっはー、こんな上玉がいるなんて俺たちはついてるぜ!!」
「こいつの着ている服は上等だから高く売れそうだな」
「この女も高く売れそうだぜ」
その周りを囲むのは下卑て汚らしい男達であった。
この光景を見た人間は100人が100人、女性が野盗に襲われていると思うであろう……実際に間違いはないのだが。
「え?いやいや、まだそうと決まったわけではないですからダメですよ。
親切に道案内してくださるつもりなのかとしれませんし」
女性は一人のはずなのだが、誰かと会話をするようにぶつぶつと何かを呟いている。
そんな女性の容姿であるが、白衣の下には緋色の袴を履いており、足元には白いのに汚れ一つない足袋と草履を履いていた。
どこからどう見ても現代の巫女なのだが、その長い髪は光に当たってキラキラと光る金色をしており、腰には巫女装束に不似合いな刀が差してあった。
「こいつ、自分の置かれた状況が分かってねぇのか?」
「案外、恐怖で頭がおかしくなっちまったのかもな」
「あの〜皆さんにお尋ねしたいのですが……私をどうするつもりでしょうか?」
「決まってんだろ!
ここにいる全員の相手をしてもらってから、奴隷証人に売っぱらっちまうのさ」
「その綺麗なおべべと腰に下げた立派な長物も必要ないだろうから売っぱらってやるよ」
「あらあら、それは困りましたわね……えっ、いや、でも……」
全く困っていなさそうなのんびりとしたトーンで呟く女性。
そんな彼女に対して盗賊達がジリジリと詰め寄って絶体絶命という時であった。
「そこのご婦人、大丈夫か!」
「うわあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
馬を駆けさせた男性が野盗達に突っ込んで、その包囲網を蹴散らしてしまった。
「あらあら、皆さん大丈夫ですか?」
「あ、おい!
こいつの命が惜しかったら大人しくしろ!!」
「あら〜捕まってしまいましたわ」
周りの野盗達が蹴散らされるのを見て、心配して駆け寄った女性。
だが、そんな女性の親切心を踏み躙るように、駆け寄られた野盗は彼女の首に腕を回して後ろから拘束する。
「く、卑怯なやつめ!!」
駆けつけた男は馬から飛び降りる。
「へへ、こいつに危害を加えられたくなければ武器を捨てるんだな」
「く……仕方ない。
だが、彼女は解放しろよ」
男は腰に下げていた剣や、懐にしまっていた短剣を足元に落としていき、無抵抗の意味を示すように両手を上げた。
「へっへ〜俺たちは何の約束もしてないぜ!!」
男が無抵抗になったのを見て、周りの野盗達が男に群がって暴行を加え始めた。
「そんな事してはいけませんよ。
おやめになって」
「へへ、姉ちゃんはここで俺と楽しいことをするんだよ」
暴行を止めようと前に出ようとした女性を力づくで引き寄せた野盗。
彼はそのまま袴の隙間から手を差し込もうとした……瞬間であった。
「下劣な輩め!!」
突如として女性の雰囲気が変わり、触れようとしつつ男の手を取ってそのまま暴行を加えていた野盗達に向かって投げ飛ばした。
「好奇!!」
暴行を加えられていた男はそんな隙を見逃さなかった。
彼は動揺して総崩れになっていた野盗達を素手であっという間にたたき伏せてしまう。
後には頬に手を添えて困惑する女性と助けに来た男性。
そして気絶した野盗の群れが残るのみであった。