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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第四章:薄っぺらい約束
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調査*8

 その日も古代遺跡の中で野営することになった。

 昨日同様、丁度いい行き止まりを見つけて、そこを少々整備して、野営場所とするのだ。

 少々早い時間だったが、休憩も兼ねてさっさと食事を摂り、負傷した兵士達にはさっさと寝てもらうことにした。

 先程の巨大なドラゴン以外に魔物の気配は無いようなので、まあ、多少無防備に眠っていてもなんとかなるだろう、と踏んだ。

 ……こうして少々早めに野営の準備をしたのは、ネールが眠たがったからである。

 当然だろう。何せネールは、傷を負った……はず、なのだ。

 ドラゴンの尾に打ち据えられて、血の線を描いて床に転がって……その後何故だか、やたらと元気にドラゴンを屠ってしまったが。だが、あの怪我と戦闘で消耗した魔力の分、ネールが眠たいのは当然のことなのである。

 ランヴァルドとしても、なんとなく不安なのでさっさとネールを休ませてしまいたかった。ランヴァルド自身、兵士や自分、そして何よりネールに対して治癒の魔法を使い続けたために体調が悪いが、それ以上にネールが心配なのである。


「ネール。もし途中で具合が悪くなったり、何か困ったことがあったりしたら、周りの兵士の人に知らせるんだぞ」

 ランヴァルドはネールを寝床に押し込んで、そう伝えた。ネールは眠たげな顔のまま、こくん、と頷いて、そしてそのまま、すやすやと眠り始めた。……なんともまったりのんびりとした寝顔である。先程死にかけ、そしてあの巨大なドラゴンを殺した者とは思えないような、気の抜けた寝顔である。

 ランヴァルドは『どうしたもんかな』とため息を吐きつつ、しばらくネールの寝顔を見ていた。

 ……だが、ランヴァルドにはまだまだやるべきことがある。少し休んだら立ち上がり、再び、先程ドラゴンを屠った部屋へと向かう。

 ランヴァルドは、あの古代魔法の装置を調べなければならない。ここについても国王陛下に報告が必要であろうと思われるし、何より……そのためにあの装置を調べるのは、ランヴァルドが適任なのだ。

 何せ、ランヴァルドは今や、この国有数の『古代遺跡の有識者』となりつつあるので……。




「……まさか、古代魔法学者の真似事をする羽目になるとはな」

 ランヴァルドは深々とため息を吐きながら、古代魔法の装置を調べていく。

 ……ここ最近のランヴァルドは、下手するとそこらの学者などより余程、古代魔法に触れ、古代魔法を操作している。ついでに命を脅かされもしている!

 おかげで今も体調は悪い。治癒の魔法の使い過ぎだ。それに加えて、魔力の風に晒されたことと、極度の緊張を伴ったことも体調不良の原因になっているだろう。

 だが、なんとなく眠れそうにもない気分であった。気が急く、というか、なんというか。……ランヴァルドは案外、肝が小さいのである。ランヴァルド自身、自覚していることではあるが。

「えーと、大体、昨日の方と一緒だな。魔力濾過装置、があるわけで……。こっちの方が規模が大き……いや、これは別の機能がくっついてて、むしろそっちが主なのか」

 仕方が無いのでランヴァルドは探索に力を入れることにして、諸々の不安や焦燥を忘れることにした。

 かつてジレネロストの研究者達がこの遺跡について調べたのであろう資料はすぐに見つかったので、それと照らし合わせつつ、実際の装置を見ていく。

 すると……。

「あー……これはまた随分ときな臭い……」

 ……もう片方の遺跡は王城に報告されていたのに、こちらの遺跡は報告に無かった。その理由が分かった気がする。

「つまり、ここから魔力が湧き出てくる、ってことだろ?」

 どうやらこの遺跡、際限なく魔力を生み出しているらしい。




 どう考えても、とんでもない代物である。『魔力が際限なく溢れてくる』など!

 これを国に報告していなかったのは、当時のジレネロスト領主の完全なる落ち度であろう。……その実態も、研究員が秘匿したのか、はたまた、領主が知っていて国には黙っていることにしたのか、今となっては分からないことだが。

「あー、成程な。こっちを点けると向こうも動くのかもしれないな。資料には無いが、これは覚えがあるぞ……つい昨日味わった奴だ。畜生め」

 ついでに、こちらは当時の研究員も領主も分からなかったことかもしれないが……こちらの遺跡と、もう片方の遺跡とは繋がっている様子である。

 こちらで湧き出した魔力が、向こうの遺跡に流れていって、あちらでも『濾過』されて出てくる、といったところだろうか。……となると、こちらの遺跡の目的はあくまでも『湧き出る魔力の管理』であり、向こうの遺跡の目的が『流れてきた魔力の制御および運用』だったと考えられる。

 ……その割に、こちらの遺跡で主な研究を行っていたらしいので、まあ……『事故が起きそうだよな、おい』とランヴァルドはまたため息を吐く。


「で、魔力の出力を上げられることが分かった、ってのが研究日誌の最後のページなのがなあ……大体事故の全貌が見えてきたぞ」

 更に、当時のジレネロストの事故の全貌が徐々に見えてくる。

 ……どうやら、こちらの古代遺跡から湧き出ている魔力の量を調整できるらしい、ということに当時の研究員が気づいたらしいのだ。

 だがそれが『最後のページ』にある、ということは……それに気づいた翌日に、ジレネロストは滅びた、ということになる。

「ということは、ジレネロストの事故は、こっちと向こうが連動しているのを知らなかった奴が、こっちを操作して向こうから魔力を垂れ流しにしちまった、ってことか?それで向こうで何か事故があって、ジレネロスト全体が?……或いは、こっちで事故があって、向こうにも影響したか……?」

 ……大方、向こうの遺跡に魔力が流れていることを考慮せずに魔力量を増やしたのだろう。その結果、下流である向こうの遺跡で何か、事故が起きた。

 その結果、こちらにもそれが波及して……ジレネロスト全体が魔物の巣窟になってしまった、と。そういうことのようである。




 ランヴァルドはここまでの情報を読み解き終えて、その場に座り込む。

 ドラゴンの血を片付けていた元気な兵士達が何人か気づいて、『マグナス殿!大丈夫ですか!?』と声を掛けてくれたが、それに片手を挙げて『大丈夫だ』と応えてやりつつ考える。

 ……ひとまず、ジレネロストの事故については、分かった。

 そして、向こう側の遺跡の装置は止めてきたので、まあ、ジレネロスト全体の魔力は徐々に薄れていくことだろう、と思われる。

 流石に、ここの遺跡にしても、際限なく魔力を湧き出させ続けることができるとは思えないので……もし仮に、『無限に魔力が湧き出てくる』というようなことがあったとしても、まあ、もう少し調べて諸々の機構を止めてしまえば、完全に魔力を止めることができそうなので、問題はあるまい。

 だが……流石に、それはランヴァルドではなく、専門の者に任せたい。主に、『俺1人でこんな遺跡の責任は負いたくない』という保身のために……。


 保身ついでに、ランヴァルドはもう少し考える。

「気になることだらけだ。全く、どうしてこうなったんだか」

 何せ、気になることだらけだ。

 魔力が際限なく溢れ出るかのような古代遺跡。かつてこの遺跡を操作していたのであろう古代人。魔法を当たり前に使っていたという彼らについても、古代遺跡そのものについても、未だ分からないことは多い。

 そして……。

「古代人、か。で、ネールは……どうなんだろうな」

 やはり、気になるのはネールだ。




 ドラクスローガで、『その娘は古代人なのか?』と問われたことは記憶に新しい。

 ……まあ、答えは『ありえない』ということになるはずなのだ。何せ、当たり前に皆が魔法を使っていたという古代文明が滅びてから今の間までには、長い長い年月が隔たっているのだから。古代人が生き残っている、などということは考えにくい。ましてや、ネールが古代人だ、などとは余計に。

 だが……ランヴァルドは、比較的魔力の多い貴族の生まれであるのに、『欠陥品』である。魔力があまりに少ない。

 ならばその逆もまた、あり得るのではないだろうか、とは思うのだ。即ち、ごく普通の人間から突然にして魔力が多い生き物が生まれた、ということが。

「……その『たまたま』をネールが引いた、ってこと、なんだろうけどな……」

 ……なんとなく、釈然としない。もっと『必然』があって然るべきだというような、そんな気がして仕方がない。

 何かを見落としている気がする。だが……それを見出さない方がいいような気も、しているのだ。

「……駄目だ。寝よう」

 結局、ランヴァルドは考えを打ち切って眠ることにした。これ以上考えても埒が明かない。そして何より、精神衛生に悪い気がする。




 ……ランヴァルドが寝床へ戻ると、もそもそ、と起き上がるネールが出迎えた。

「ああ、悪い。起こしたか」

 小さな声で尋ねてみると、ネールは、ふるふる、と首を横に振りつつ、ほっとしたような顔で、いそいそと寝床の端に寄った。……そして、ランヴァルドが入ってくるのを待っている!

「あのな、ネール。何度も言うようだが……ああもう……」

 ……ランヴァルドは頭を抱えたい気分になりつつも、仕方なく、ネールがにこにこと待っている寝床に潜り込んだ。

 子供1人分の体温で温もる寝床は、この寒い夜には何とも心地いい。いっそ心地悪い方がありがたかったような気がしなくもない。

 だが仕方がない。ネールはランヴァルドの胸にすり寄って幸せそうな顔をしているし、何より、ランヴァルドもいい加減、疲れて眠いので……。




 ランヴァルドが目を覚ますと、ネールがじっとランヴァルドを見つめていた。

 ……心臓に悪い。嗚呼。

「……ネール。寝ている人の顔をまじまじと見つめるもんじゃない」

 同じ寝床で寝ている以上、最早こんな忠告も空しいだけなのだが、それでも一応は、とランヴァルドが言えば、ネールはもじもじしながら金貨を差し出してくる。いつぞやのようだな、と思いつつ、ランヴァルドは金貨を受け取って懐にしまい込んで、それからようやく、寝床から這い出るのだった。


 流石にそろそろ王城へ報告に戻った方がいいだろう、ということで、ランヴァルド達は王城へ戻ることにした。

 が……巨大ドラゴンをこのままにしておくわけにはいかないので、ひとまず、ネールが落とした首と、両翼。これらだけ持って戻る。胴体を解体するのはあまりにも骨である事だし、運び出すのはより一層大変だ。『王城からもう少し人員を借りてくる羽目になるかもな』と思いつつ、ランヴァルドは遺跡を出て……。

「ん、空気が少し変わったな」

 遺跡を出た先、森の中。

 そこで空気を吸い込んだランヴァルドは、少しばかり笑みをこぼす。

「……働いた甲斐はあったか」

 吸い込んだ空気は、幾分魔力が薄くなったようであった。

 どうやら、自分達の働きはそれなりに大きな成果を結んだようである。

 つまるところ……。

「ネール。ジレネロスト復活も、そう遠くないかもしれないぞ」

 目的であった『ジレネロストの奪還』が、ようやく現実味を帯びてきた。


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― 新着の感想 ―
ランヴァルド、本当に多芸だよなぁ…… 商人、吟遊詩人、学者、そして貴族、何でもできる 戦闘力が低いのは欠点だけど、その分は色々駆け引きや囮なんかで活躍してるし 元の家は本当に惜しいことをしてるな
ようやくとは言うけど、他の人らからしたら有り得ないくらいの超速解決だよ……
古代遺跡の有識者なんてなろうと思っても中々なれませんよね!ランヴァルドさんは幸運だなー(棒読み
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