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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第七章:金貨500枚分の契約
197/212

あたたかな日に*2

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 ネールは張り切っていた。

 存分に張り切って、ランヴァルドの指示通りに遺跡の中……入ってすぐの部屋を1つ、作り替えていた。


 作り替えることになったお部屋は、ジレネロストの研究員の人が倉庫として使っていたらしい。だが、そこにあったガラクタ類を片付けて、ちゃんとお掃除して……そしてネールが頑張れば、きちんとしたお部屋に作り替えることができるのだ!

 作り替えるとはいっても、元々そこにあったものを引っ張り出すだけだ。引っ張り出そうと思えば引っ張り出されてくれるものが沢山あるので……ネールは今も、椅子を2脚、『にょにょにょ……』と床から生やしているところである。

「古代遺跡を改装して応接間として利用……まあ、体裁は十分だろ。物はいい訳だし、言い訳も立つし、後は少し調度を運び込んで飾れば……あ、ネール。椅子はそんなに高くしなくていいぞ」

 ランヴァルドはぶつぶつ言いながらもあれこれ指示をくれる。『じゃあそっちに窓開けられるか』『棚みたいなのは出せるか?ああ、そこに出るのか。うーん、なら椅子とテーブルはそっちに寄せて……』と指示されるようにあれこれ弄っていると、段々、遺跡の一角がちゃんとしたお部屋になっていく。

「うん。大分よくなったな。奥に小さな炉と食器棚くらいは用意しておこう。茶くらいは出せた方がいいから……あとは絨毯だな。そっちには毛皮を敷くとして……こっちは何色の絨毯がいい?壁も床も白い石材だからな、何色でも合う。お前の好きな色にしよう」

 ……楽しい。とっても、楽しい。

 今、ネールとランヴァルドが住んでいるお家の家具を選んだ時もそうだった。カーテンを選んだり、ベッドを選んだり……楽しかった!それが今、またある!

 ネールは大いに張り切っている。大いに張り切って……このお部屋を飾りつけるために頑張るのだ!




 その日の内に、ジレネロストの家具屋さんに向かった。

 そう。ジレネロストにはもう、家具屋さんがあるのである!ランヴァルド曰く、『家を建てても、中に何も無かったら住めないからな。家具屋も自前で用意しておくに限る』と笑っていた。……その方が、『儲かる』のだそうだ。ネールはまた一つ賢くなった。

 ランヴァルドは家具屋さんで、『こういう寸法で、こういうものを……』と色々注文していた。ついでに、家具屋さんを連れて遺跡に戻って、『こういう意匠に揃えてもらって……』とやはり何か注文していた。

 そして、絨毯や壁に飾る布については、家具屋さんではなく、ハイゼルで調達することになりそうである。『注文して作るんでもない限り、今のジレネロストに高級品な絨毯なんざ、毛皮しか無いからな』とのことである。尚、毛皮は本当にたくさんある。ネールが頑張って狩ってきたので。ネールは胸を張った。




 それから、ネールはランヴァルドと一緒にハイゼルへ向かった。

 ハイゼルへは遺跡を通っていく。……遺跡の中にお部屋があると、そこから他の遺跡まで移動するのが手軽でとても便利だ。

 それからハイゼルの氷晶の洞窟に出て……そこで少しばかり、水晶を貰っていくことにした。多分、これを遺跡のランプに飾るととても綺麗なので!

 ネールのこの考えについて、ランヴァルドは『……まあ、バレなきゃいいだろ。よし、やれ!』と許可をくれた。ということでネールのポケットは上等な水晶でいっぱいになった!

 そうして水晶を拾いながら洞窟を出て、そこからハイゼオーサまでは歩いていく。歩いていったら夕方になってしまったが、お店が閉まる直前になんとか滑り込んで、ランヴァルドとネールは絨毯屋さんで絨毯を選ぶことになった。

 ……色とりどりの布が沢山あって、模様もたくさんで、ネールは目を輝かせる。ああ、こんなに沢山の中から一番好きな絨毯を選ぶ、というのはとても大変だ!

 ランヴァルドがお店の人に金貨を1枚渡したら、お店の人はにこにこ笑顔になって、『どうぞ、ごゆっくり!』と言ってくれた。ついでに、お店の奥にしまってあった上等な絨毯を更に持ってきてくれもして、ネールは益々、目移りする!

 それでもネールは、『これかこれ……こっちも捨てがたい……』と、色々考えながら絨毯を絞り込んでいく。

「やっぱりお前、藍色が好きなんだな」

 ……選んだ絨毯のほとんどは、藍色だ。だってネールは藍色が好きなのでしょうがない。

 藍色に金や白や紅色なんかで織り模様が入っているやつが華やかでいいかな、と思ったのだが、花模様のも悪くない。水面のように不規則な模様が描かれているやつも、風変わりで中々いい。

 ネールは悩んだ。悩んで、悩みつつ……『そっちの絨毯に合わせるなら、カーテンはこれだな』『そっちなら、こういう薄布のカーテンを合わせても面白い』などとランヴァルドが助言してくれるので、ネールは只々、頑張って迷い、迷って……。

「……ん?これにするのか?」

 ランヴァルドに、こっくりと頷いてみせる。

 ……ネールはようやく、絨毯を選んだのだ。

 ネールが選んだ絨毯は、ただシンプルに、藍色の毛足の短い絨毯の端をぐるりと一周、金刺繍が囲んでいるものだ。

 こういうのが、『応接間』っぽくていいかな、と思ったのだ。あんまり豪奢じゃなくて、実用的なかんじがして、ランヴァルドに似合うかんじもする。

「そうか。じゃあカーテンはこっちかこっち……よし、こっちだな。ならこれにしよう」

 そしてカーテンは、少し重いかんじのするレースの布と、藍色の厚い布とを組み合わせたものだ。ネールが作った窓にこれがくっついたら、きっととても良い。ネールはにっこりした。




 ……ということで、無事に絨毯とカーテンを買えたネールは、ランヴァルドと一緒に『林檎の庭』へ向かう。

「いらっしゃいませ!林檎の庭へようこ……あら!ネールちゃん!元気!?」

 宿のドアを開ければ、すぐにヘルガが出てきて、ネールを抱きしめてくれた!むきゅ、と抱きしめられて、ちょっぴり苦しい。でも、嫌じゃない。ネールはこれが、案外好きなのである。

「ランヴァルドも元気そうね」

「まあな」

 ……ランヴァルドは涼しい顔をしているが、ネールは知っている。ランヴァルドはついこの間、風邪引きになったばかりである!元気ではない!

「最近はちゃんと食べてるんでしょうね」

「ああ。ネールが居るんでな。そこのところは問題ない」

 が、ちゃんとご飯を食べているのは本当である。何せ、ネールがちゃんと見ている。間違いない。

 ……ランヴァルドは、ネールと一緒にご飯を食べてくれる。朝、お隣で目が覚めて、ランヴァルドを眺めていたらランヴァルドの目も開いて、それから、『飯にするか』と、ランヴァルドがもっそり起き上がるのだ。

 だから大丈夫。ランヴァルドはちゃんと、ご飯は食べている!

 ……と、ネールが胸を張っていると、ヘルガがくすくす笑いながら、またネールを抱きしめてくれた。むきゅ。

「よし!偉いわよ、ネールちゃん!」

 どうやら、ネールは偉いそうだ。……ちょっと嬉しい。

 なのでネールもヘルガに抱き着き返しておいた。きゅう。するとヘルガは喜んで、また、きゅうきゅう抱きしめてくれたのでまたちょっと、苦しい!




 それから『林檎の庭』の美味しいご飯を食べて、食後には美味しいお茶とビスケットを貰って、とっても幸せになって……その日の夜も、ネールはランヴァルドのベッドにもそもそ潜り込んだ。

 こうしているとあったかくて、幸せなのだ。それに、ランヴァルドがあったかい方が、ネールは嬉しいのである。

 ……前回、ドラクスローガの遺跡を止めた後。ランヴァルドと一緒に寝る時、ちょっと、冷たかった。

 ランヴァルドは遺跡の冷気で冷え切ってしまっていたのだろうから……だから、ネールはそういうランヴァルドを、ちょっとでも多く温めたいと思う。

 どうも……その、ランヴァルドは、『ネールが居ないと眠れないかも』とのことなので!

 ランヴァルドがファルクエークでうっかり口を滑らせたアレを、ネールは生涯忘れないだろう。ランヴァルドは案外寂しがりで、寒がりなのである!多分!

 ということで、今夜もランヴァルドにきゅうきゅうくっつきながら、ぬくぬく温まる。

 ふわふわぬくぬく、いい気持ち。……ネールは、『幸せっていうのはこういうことである』と深く納得しつつ、いい気持ちでぐっすり眠るのであった。




 ……その日、ネールはちょっぴり不思議な夢を見た。

 そこは、吹雪が舞う不思議な場所だった。空はほわりと淡い藍色で、薄明るくて、でも、何も無い。

 強い風がネールに襲い掛かってきて、ネールは慌てて、金色の光を纏ってやり過ごす。こうしていると、ぬくぬく温かい。

 ……そのままネールは、歩いた。雪の降り積もった不思議な場所を、1人、歩いた。

 ネールの足跡が、小さくぽつぽつと雪の上に残っていく。ネールは足元を眺めながら、一歩一歩、転ばないように進んでいき……。

 ……途切れ途切れ、あの子の声が聞こえる。

 耳を済ませれば、もっとはっきりと、声が聞こえた。

 そう。声だ。魔法の言葉で話しかけてくるアレじゃなくて……本当に、声が聞こえる。

『さびしい』と。

『みんな行ってしまった』とも。

 夢の中、吹雪の中で……あの子は泣いているように見えた。


「ネール?おい、ネール。大丈夫か?」

 はっ、としてネールは目を覚ます。

 目を開けて見れば、体を起こしたランヴァルドがネールを見て、焦ったような顔をしている。

「……眉間に皺が寄ってたぞ。嫌な夢でも見ていたのか?」

 ランヴァルドがネールの眉間を、むに、とつつく。つつかれてようやく、ネールはそこに力が入っていたことに気づいた。

「ん?大丈夫か?ならいいが……」

 ネールはゆるゆる首を横に振って、それから、ランヴァルドの膝の上にのっそりと横たわる。寝心地がいいわけではない。ランヴァルドの脚はごつごつしていて硬い!

「……甘えたい気分か?まあ、そういうこともあるな」

 でも、こうしているとランヴァルドの手がネールの背中を撫でてくれるのである。ネールはそのまましばらく、毛並みを整えられる子猫のように、ランヴァルドに撫でられるのだった!




 ……それからネールはお家に帰って、ランヴァルドと一緒に遺跡の飾りつけをする。

 届いたばかりのカーテンを取り付けて、絨毯を敷いて……細々とした調度も、ハイゼルで買ってきたから置いていく。

 ネールのお気に入りは、縁に草花の模様が刻んである銀色のお盆だ。お店の片隅で埃をかぶっていたのをネールが見つけてきたのだ。

 ランヴァルド曰く、ネールのナイフと似た素材でできているから、軽くて丈夫で、錆びないらしい。『いい目利きだ』と褒めてもらえたので、ネールはとても嬉しかった!

 それから、小さな壺。これは遺跡から『にょにょ……』と出した小さい棚の上に置く。真っ白な地に藍色の模様が入っているかわいい壺で、ランヴァルドは『花でも生けるか……』と言っていた。

 ……ランヴァルドがお花を活けている様子を想像して、ネールはちょっと笑顔になった!

 その他にも少しずつ、遺跡にものが増えていって……遺跡のお部屋が無事に、ランヴァルドのための執務室と応接室になった!

 これでランヴァルドが納屋でお仕事をしなくてもよくなる。ネールは満足して頷いた。ランヴァルドは『満足気だな、ネール』と笑っていたが、ランヴァルドは多分、自分のことは考えていないのである。

 なのでネールがランヴァルドのことを考えなければならない!大変である!もうちょっとランヴァルドにも、ランヴァルドのことを考えてほしいものだが!


「で、ネール。祭りの相談だ。いいか?」

 ……だが、ランヴァルドのことを思っていたネールは、ランヴァルドの言葉に意識を引き戻される。

 そうだ。お祭り。お祭りをやるのだった。……ネールは、俄然楽しみになってきた!

「時期は、まあ、ファルクエークでの実験が終わってからになるだろうから……夏の終わりか、秋のはじめか。うん。まあ、収穫祭も兼ねて秋の方がいいか、という気はしているんだが、いいか」

 ネールはこくこく頷いた。いつでもいい。ランヴァルドが約束してくれる『いつか』は必ず来るのだから、夏でも秋でも大丈夫なのだ。

「そうか。なら少し時間を取ってゆっくり準備していくとしよう。日取りだけ決めて窓口だけ作っとけば、出店許可の要請が来るだろうから、まずはその様子を見て……」

 ランヴァルドが楽しそうに計画を話してくれるのを、ネールはにこにこしながら聞いている。

 ……ネールは、お祭りの計画を立てるのも楽しいけれど、でも、楽しそうにしているランヴァルドを見るのがもっと楽しい。

 ネールはしばらく、ランヴァルドと一緒に『お花がたくさんあるといいと思う』『飾りは藍色がいい』なんて案を出しながら、楽しい時間を過ごした。

 ……あったかくて、のどかな時間。

 ネールは、こういう日がずっと続くといいなあ、と思った。


 +


 ……そうして、ジレネロストも夏の盛りとなった。

 ジレネロストでも麦の収穫の季節となって、皆が忙しく働いている。

 最近では、緊急の呼び出しが大分緩やかになった。……恐らく例の古代人は、まだこちらが発見していない古代遺跡を探すのに苦労しているのだろう。

 おかげでランヴァルドはジレネロストでの仕事に注力することができており、まあ、何かと楽しく過ごしているのだが……。

「お。オルヴァーから手紙か」

 ネールが運んできた数通の手紙を見てみれば、そこにはオルヴァーからの手紙が混ざっていた。ランヴァルドは真っ先にそれを開封することにする。

「……準備は順調らしいぞ、ネール。そろそろお前の出番だな」

 そしてそこには、ファルクエークでの実験の準備が整いつつあること、そして、大詰めの調整を行いたいので、一度来訪してはもらえないか、という旨が書かれていた。

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― 新着の感想 ―
新婚さんキンコンカン
ネールちゃんがランヴァルド推しなおかげで、祭りも思ったより「イスタブラーレ祭」然としそうだ!!!
「ふわふわぬくぬく、いい気持ち」の語呂が良くてなんかいいですね。
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