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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第七章:金貨500枚分の契約
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再会*2

 古代遺跡の停止は、無事に終わった。

 ランヴァルドには当然のように古代魔法装置を動かすための魔力が無いので、ネールがほとんどやってくれた。

 そしてランヴァルドはやはり、その場でぶっ倒れて眠ることになった。気絶とも言う。

 そんなランヴァルドを見て、ネールは大慌てであったが、『大丈夫だからちょっと寝かせて……』という言葉を最後に、ランヴァルドはそのまま床に転がってしまったのである。




 ……ということで。

「ああ、マグナスの旦那。目が覚めたか?よかった」

「いやー、肝が冷えたぜ!この子が呼びに来たから何かと思ったら、マグナスの旦那がぶっ倒れてるもんだからよ!」

「ああ、うん……助かった」

 ランヴァルドが目を覚ました時、夜中だった。そして、きっちりと毛布に包まれ、寝袋に入れられ、近くで火が焚かれ……温かな状態になっていた。ついでに、当たり前のようにネールがランヴァルドの寝床に入ってぬくぬくしている。道理でぬくいわけである。

 この状況は一体何か、と思ったが、近くに居たエリクとハンスに聞いたところ、どうも、ランヴァルドがぶっ倒れた直後、ネールが助けを呼びに行き、そして、丁度そこに居たハンスを連れて遺跡へ戻ったようだ。

 ハンスはランヴァルドを運び出し、それを兄のエリクや他の兵士達が助けながら諸々の支度をして……ランヴァルドは今、こうして遺跡の外の野営地でぬくぬくさせられている、ということらしかった。

「悪かったな。俺のせいで、祝宴に乗り遅れて」

「いや、これでよかったんだ。折角なら狩った魔物の処理をしてから帰った方がいいだろ?それに何より、あんたが遺跡の中で倒れてる最中に酒盛りしてたかもしれないと思うと、ぞっとするよ」

 エリクは相変わらず、人のいい様子で笑う。ついでに、ハンスからも『まだ本調子じゃないだろ。しっかり朝まで休めよ』とありがたい申し出を受け、ランヴァルドは再び眠ることになった。未だ思わしくない体調であったので、とてもありがたい。

 ……そして、ランヴァルドが再び眠るとなったら、半分目を覚ましていたネールも再び、ランヴァルドの隣に潜り込み始めた。ランヴァルドは、『ああ、今夜は少し冷えるからありがたいな』とぼんやり思いながら、ありがたく眠ることにしたのである。




 さて。そうして翌朝。朝、と言うには少々遅い時刻にランヴァルドは目を覚ました。

 しっかり眠った分、体調は悪くない。エリクとハンスをはじめとした兵士達にもその旨を報告すれば、彼らは我が事のように喜んでくれた。

 そんな彼らに、今夜も酒盛りを諦めさせるのは申し訳ない。早速、ランヴァルドはネールと共に、再び遺跡の中へと入っていく。遺跡は既に沈黙しているので、後はこれを解体するだけだ。


 遺跡の中も慣れたものだ。ランヴァルドはさっさと遺跡を進み、最深部でさっさと装置の解体を始め、部品をいくつか、抜き取った。

 これらの部品は王城に提出することになる。イサク達が適切に管理してくれるので安心である。……下手な者の手に渡ったら、闇市で適当に売り捌かれて、再び古代人に買い戻されかねないので。

「ここで働いていると気が狂う、ってのも恐ろしい話だけどな……」

 さて、解体作業を終えたランヴァルドは、ふと、例の日記の内容を思い出す。

 ヨアキムから買った日記。そして、王城で読んだ新たな資料。……この古代遺跡および古代魔法装置には、やはり、何かがあるのだろう。

「寒さを感じなくなる、んだったか……」

 ランヴァルドはふと思い出して、近くにあった適当な金属管に触れる。ひやり、と冷たい感触に、『ああ、まだ大丈夫か』と安堵した。

「ネール。お前、寒くないか?」

 ついでにネールにも聞いてみると、ネールは首を傾げつつ、くるくる、とその場で回り……それから、ランヴァルドに、きゅ、とくっついた。

 ……くっついて少しして、何やら納得したかのように頷いた。ランヴァルドにくっついて寒くなくなった、ということなら、まあ、元々は寒さを感じていたのだろうから、ネールも大丈夫ということだろう。

 ランヴァルドは、『俺達も気を付けないとな』とぼんやり思いつつ、ネールと共に遺跡を出る。一度、ドラクスローガ城に戻って報告をしなければならないだろう。




 さて。

 エリクやハンス達には、『先に行っていてくれ。俺達は後から馬を飛ばして追いかける』と言っておいて、ランヴァルドとネールはちゃっかり、遺跡経由でまたドラクスローガ城の地下へと移動した。借りてきた馬も一緒に移動したため、馬の返却も容易である。

 ……勿論、また会議をしていたトールビョルン老達の中に出ていく羽目になり、大層気まずい思いをしたが。

「ランヴァルド・マグナス・イスブライターレ、只今戻りました。大量の魔物は無事に討伐完了。この地の平和は守られましたよ」

 だが、そこはランヴァルドである。面の皮の厚さなら誰にも引けを取らない。不審な登場も二度目となれば、全く気にした素振りを見せずに堂々と玉座の後ろから登場してやることもまた、可能なのである。

「お、おお……!賢者ランヴァルドに、英雄ネレイア。よくぞやってくれたな!」

「兵士達はこの後戻ってきます。我々は一足先に戻ってきてしまいましたが……ああ、馬はお返しします。ありがとうございました。こいつが居なかったら、流石のネレイアも間に合わなかった可能性が高い」

「そ、それはよかった……うむ」

 ランヴァルドは実に堂々と振る舞うので、この場の誰もが『ところで、何故玉座の後ろの壁から出てきたんですか?』と聞けずにそのまま疑問は置き去りにされる。

 更に。

「まあ、兵士達が多く持ち帰るとは思いますが……ひとまずの、土産です。お納めください」

 ランヴァルドが、適当に油紙に包んで持ってきた『それ』をトールビョルン老の前に置き、包みを開けば……『それ』を見た一同からどよめきの声が上がる。

「なんと……ドラゴンの牙か!」

「はい。首は兵士達が持ち帰るかと」

 今回も、ネールはやってくれた。遺跡の外を飛ぶドラゴンを狩り、今回も見事に『竜殺し』の名を知らしめてくれたのである。そしてやはり、このドラクスローガでは『ドラゴン殺し』のウケが良い。

「ドラゴンか!」

「ドラゴンを狩っただと!?またか!」

「いやはや、流石は『竜殺し』の英雄だ!二度ならず、三度もドラゴンを狩ってくるとは!」

 玉座の間に居た重鎮達も、これには大いに興奮し……そしてそのまま、やんやの喝采がネールへと向けられる。ネールは堂々とそれらを受け止め、満面の笑みで胸を張った。

「ああ……英雄ネレイアよ、本当によくぞ、やってくれた。貴殿はドラクスローガの守り神。その勇猛な戦いぶりを、存分に称えようではないか!」

 トールビョルン老はそんなネールの様子を嬉しそうに見つめ……そして。

「さあ、宴の準備を!兵士達が戻り次第、宴を始めるのだ!」

 ……老いても北部の男だ。彼はそう荒々しく笑って、宣言するのだった。




 その日の夜、エリク達が帰還した。

 エリク達、兵士の一団はランヴァルドとネールが先に到着しているのを見て目を丸くしていたが、まあ、その驚きも適当に誤魔化して、酒を飲ませて、有耶無耶にした。

 というのも、既に宴が始まっていたからである。ネールが持ち帰ったドラゴンの牙の噂は既に広まり、ロドホルンの町中がお祭り騒ぎの様相であった。

 そこへ帰ってきた兵士達も、当然、『勇敢に魔物達と戦った者達』として歓待を受け、彼らが持ち帰ったドラゴンの首(仕留めたのはネールだが……)にまた歓声が上がり……そして兵士達もすぐ、酒と食事とで大騒ぎすることになったのである。

 北部人の連中は扱いやすくて助かる。とりあえず酒を飲ませておけばよい。ついでに、一緒に戦い、一緒に笑い合えればより良いが。ランヴァルドは『だから俺よりオルヴァーみたいな愛想の良い奴の方が北部では上手くやっていけるんだよな……』と、今も頑張っているであろう弟のことを思い出した。


「よお、マグナスの旦那。やってるか」

 そんなランヴァルドの元へやってきたのは、ハンスである。酒瓶を両手に、既に随分と陽気な様子だ。実に北部人らしい。

「ああ。ま、体はまだ本調子じゃないし、王城へ戻らなきゃいけないからな。そこそこで切り上げるつもりだが」

「そうなのかよ。忙しいんだな、あんた」

 ハンスは、ランヴァルドに勧めるつもりだったのだろう酒瓶を所在なげに適当な卓の上に置くと、自分の分を瓶から直接飲み始めた。

「そういや、兄貴の方共々、兵士になったんだな?」

「ああ。ひとまず、夏までってことで雇ってもらってるんだ」

 まあ、折角なので、ハンスの近況を聞いてみる。……エリク共々、兄弟揃って兵士になっていたのだから驚いた。

 だがまあ、領主としての視点で考えるならば、『まあそうなるか』とも思える。

 ……元々、このドラクスローガにおいて、冷夏の影響で食うに困った貧しい農民や狩人の類が多く出ていたのがたった数か月前のこと。そこからすぐに彼らの経済状況が立て直せるわけでもない。ならばその間、彼らを雇い入れて、食うに困らぬ暮らしをさせてやるのは治安維持のためにも必要なことだ。

 何せ……特にこのハンスに関しては、食うに困った結果、山賊崩れになり果てていた男である。そんな連中をただ野放しにしておくよりは、兵士として雇い入れてしまった方が余程マシというものだろう。

「トールビョルン様はいいお方だ。俺達みたいなのも兵士として雇って下さって……おかげで、うちの村の連中は随分助かってるんだ」

 ハンスは、領主が何を考えているのかまるで知らないのだろうが、まあ、それはそれで良いのだろう。トールビョルン老について語るハンスの表情は明るい。

 ドラクスローガは、まあ、ランヴァルドにとっても縁のある場所だ。そこの領民が健やかに過ごせているのならば、それに越したことはない。

「特に、兄貴は射手としてな、トールビョルン様から直々にお褒めの言葉を……ああ!兄貴!こっちだ!こっち!」

 エリクを見つけたらしいハンスが酒瓶を掲げて笑顔で叫べば、人の波の間からエリクがのっそりやってきて、にこにことランヴァルドの隣に座った。こちらも既に出来上がっているらしい。

「マグナスの旦那に最近のことを話してたんだ。兄貴が直々に領主様からお褒めの言葉を頂いたってな!」

「そうか。へへへ……まあ、なんだ……その、マグナスの旦那。そういう訳で、俺達は楽しくやってるよ」

 エリクは少し照れた様子で話をまとめ、『この話はここまで!』とばかり、切り上げてしまった。ハンスはそんなエリクを笑いながら小突いているが、まあ、兄弟仲の良いことだ。


「……そういや、俺の方もな、弟と再会したよ」

 そんな兄弟の様子を見ていたら、ランヴァルドもふと、報告したくなったのでそう、報告する。確かエリクには、弟が居るという話をしていたので。

「おお!長年会ってなかったっていう!?」

「覚えてたのか。まあ、うん。その弟だ」

「勿論さ!で、どうだったんだ……?」

 どこか緊張した様子でエリクがランヴァルドの様子を窺い、ハンスもつられて固唾を飲んでいる前で、ランヴァルドは苦笑する。

「……案外、懐かれてたみたいでな。ま、上手くやっていけそうだ」

「そうかぁ……!いや、そうだよなあ!マグナスの旦那ほどの男なら、当然、弟さんにとっても自慢の兄貴なんだろうし!」

「よかったじゃねえか!ま、兄弟ってのは取り換えの利かねえもんだし……よかったなあ」

 なんとなく、で報告してみた割に、思いの外、喜ばれた。ふと隣を見てみれば、ネールも『よかったよかった』とばかり、頷いている。

「で、その弟さんとは一緒に暮らしてんのかい?」

「いや。あいつは北部に残ってるよ。……で、俺は王城と、各地の古代遺跡とを飛び回る生活だしな……」

 エリクもハンスも、未だにランヴァルドが何をしている者なのか知らないらしい。少なくとも、ランヴァルドが貴族だとは思っていないだろう。ランヴァルドの胸の勲章の意味も、彼らは知らないのだろうから。

 だが、まあ、それはそれでいいのだ。ランヴァルドは如何なる肩書きであろうともランヴァルドであるので。

「へえー……王城と。古代遺跡と。いや、よく分かんねえけど、すごいなあ、あんた」

「ま、それほどでも」

 案の定、よく分かっていない様子のエリクとハンスの『ほえー』という感嘆の声を聞きつつ、ランヴァルドは嫌味にならない程度にさらりと謙遜しておいた。

 ……だが。


「古代遺跡、ってえと、アレだろ?あんたがぶっ倒れてたところの」

「ああ、うん。まあ、そうだ」

 ランヴァルドが『そういう認識になってるのか……』と何とも言えない気分になっていると、エリクとハンスはふんふんと頷きつつ、言った。

「ってことは、西の方のも、見に行くのかい?」

「あー、確かあったよなあ。鹿狩りに行った時に、山の向こうに出て、そこになんかああいうかんじのやつが」

 ……何気ない2人の会話を聞いて、ランヴァルドは固まる。

 そんな遺跡があるとは、王城でも聞いていない。

 となると……領主ですら把握していない類のものだろう。はたまた、急な代替わりのせいで、そのあたりの情報が消えたか。


 ……少なくとも。

 このままではドラクスローガが危ない。それは、確かである。

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― 新着の感想 ―
玉座の裏からのっそりと出てきたものの所在なさげな馬さんの様子を想像してニッコリ
これはかなり危ない展開ですね…… ここから巻き返し可能とは到底思えない…… 寝床に潜り込んできたネールの体温を素直にありがたがるようになってしまっているだなんて!!!
古代遺跡が玉座の後ろに繋がってるタイプだと、話は全て聞かせてもらった!とか出来そうですね。
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