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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第六章:氷を喰らい生きる者
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砕き、照らす*2

「この世界ではない世界……?」

「ええ。どうも、古代人達はそのように認識していたようです。ここではない世界があって、そこには無限に等しい魔力があるのだとか」

 ランヴァルドはぽかんとしているが、説明している学者達も、少々困った様子である。

「それは……何とも、壮大な話ですね」

「ええ。本当に別の世界があり、そこが多くの魔力で満たされているのだとしたら……それはとてつもないことです」

 もう1つの世界。

 にわかには信じがたいが……同時に、『無限に等しい魔力がどこかに存在している』ということについては、信じざるを得ない。

 ランヴァルドは今までにいくつもの古代遺跡を巡り、そこから噴き出す大量の魔力を目の当たりにしてきた。あれを実現させるためには、それこそ、無限に等しい魔力がどこからか生み出されている必要がある。

 ……それこそ、『もう1つの世界』とやらから魔力が誘引されているのならば、納得がいく話なのだ。




「あの、すみません。古代文明がこの世界から消えた際の、古代人が2派に割れて争った、という点についてもう少しお伺いしたいのですが」

 さて、もう少し聞いてみないことには、ランヴァルドとしても諸々の判断が付かない。『折角、古代遺跡の専門家の本物が居ることだしな!』と思い、聞いてみたのだが……。

「何故、魔法を使うことを止めよう、と考える者達が、居たのでしょうか」

「そうですね。そこは非常に、気になるところです。結局、何故彼らが魔法を使うことを止めようとしたのか……それは分かりませんでした。新たに資料が見つかれば、分かる可能性もありますが」

「そうですか……」

 ……やはり、分からないことは多いようである。

 だが、古代文明が滅びた原因ですら、今までは曖昧であったのだ。それがここ半年あまりで古代遺跡があまりに見つかっているため、急速に研究が加速した、というだけで……元が元であったのだから、これ以上を望むのは贅沢ではある。

「あー……その、当時から、魔力は古代遺跡を通して『もう1つの世界』から誘引していたようですが……その場合は、『もう1つの世界』との関わり方を巡って、古代人が2つに割れたのかもしれませんね」

「成程……確かにその説は筋が通りますね」

 結局、ランヴァルドが意見を出して、学者達はそれを書き記す。……それを見てランヴァルドは、『俺は古代遺跡の専門家じゃない……はずなんだが……』と、複雑な気持ちになるのだった。




「……マグナス殿。今、古代人とされる者が、古代遺跡を動かしているのでしたね」

 そんな折、ふと、イサクがそう尋ねてくる。

「ええ。彼女はそうするつもりのようでした。そして恐らくは……ファルクエークの古代遺跡が稼働したことについても、彼女の仕業かと」

 イサクの問いに答えながら、ランヴァルドはふと、考え……そして嫌な予感を覚え、青ざめる。

「うーむ……古代人の彼女の目的は、この世界をより多くの魔力で満ちたものにするため、ということのようですが……それはもしかしたら、2つの世界を1つにすることに繋がるのかもしれません」


 イサクの言葉に、場内が静まり返る。

「……魔力に当たり前に満たされた世界があったとして、そこに住まう者は、当然、魔力を多く持つのでしょうね」

 イサクは、『魔物や英雄ネレイアがそうであるように』とは、言わなかった。だが、この場に居る者達は皆、そう思っただろう。

「存在するというもう1つの世界とこちらの世界が繋がった時……我々は死にかねませんね。少なくとも、俺は死にそうだ」

「私も死ぬでしょうなあ。うーむ……」

 ……ランヴァルドは当然のこととして、イサクですら、大量の魔物や大量のネール……に等しい武力を前にすれば、呆気なく死ぬことになるのだろう。

 例の古代人1人に対してだって、ランヴァルド達は抵抗する手段を碌に持たない。あれが、『この世界に残らなかった古代人達全員』の数に増えたなら……それは、この世界の滅びを意味するのではないだろうか。

「……古代人の生き残りが彼女しかいないことを祈るしかありませんなあ」

「まあ、はい……」

 項垂れるイサクの横で、ランヴァルドは曖昧に頷きつつ……ふと、思った。

 何故、古代人の彼女はもう1つの世界から出てきたのだろうか、と。

 ……たった、1人で。




「……まあ、分からないことは多いですが、今後、もう少し分かってくるかもしれません。希望は捨てずにいきましょう。恐らくは、古代遺跡が見つかっていけばもう少しは情報が出てくることでしょうし……」

 イサクがそう言えば、学者達も重鎮達も、皆、頷いた。

「そして、古代人や古代遺跡についての情報開示ですが……ここは1つ、伏せておくのがよいのではないかと」

 更に続いたイサクの提案に対して、皆が少しばかり考える。

「私もそう思います。古代遺跡の稼働を停止させるべくお触れを出すことにも利点がありますが……それ以上に、古代遺跡の機能が知られれば、魔力を目的に古代遺跡を動かそうとする者が出てくるはずです。そしてそれが数多出てきた時には、我々が動いてももう間に合わない可能性が高い」

 考える者達の中でランヴァルドが真っ先に声を上げれば、イサクの隣でそっと、アンネリエが挙手した。

「マグナスさんに同意見です。……ジレネロストは、そうして滅びましたから」

 ……かつてジレネロストが利益のために古代遺跡を開発しようとしていた、その場に居たアンネリエからの言葉であるからこそ、重い。場の重鎮達は唸る。

「……そう、ですな。歴史は繰り返す。伏せておいた方がよいかと」

「しかし、国中の古代遺跡を探して解体するのであれば、人手が必要なのでは?」

「ならば明かす範囲を定めればよいかと。領主は己の領地の利益のみを考えかねませんから、王城の関係者のみに絞るのはいかがでしょう」

「いや、ならば領主まではよしとした方がいいのでは?今後のことを考えれば、ここで裏切るような者を炙り出せる絶好の機会と言えますよ?」

 ……そうして議論が活発になっていくのを眺めつつ、ランヴァルドは、ふと、隣のネールを見た。

 ネールは難しい話が目の前で飛び交っているのを見て、首を傾げつつ真剣に頷いたり、首を傾げたりしていた。が……その内、うつら、うつら、と少々眠そうにし始めた。

 なので、ランヴァルドはその頭をもそもそ撫でてやった。撫でられたネールは、びっくりして目を覚まし、ランヴァルドのことを見上げて、それから、ふや、と笑った。

 ランヴァルドはそれに笑い返してやって、また議論の行く末を見守る。ネールもまた、ランヴァルドの隣で元気いっぱい、議論を見守るのだった。




 ……そうして。

「面を上げよ」

 ランヴァルドは、数名の重鎮やイサクと共に、国王の御前へやってきた。

「イサク。結論は出たか」

「はい。……結論としましては、やはり、古代遺跡の意味や古代人の接触については、万人に伏せておくべきかと」

 イサクがそう話せば、国王は『そうであろうな』と頷いた。

「同時に、『国を挙げての古代遺跡の調査を行う』という旨を各領地に通達しましょう。そして国から派遣する古代遺跡の専門家に対して協力するように、と」

「成程な。真意は隠して、目的を果たそうということか」

「ええ。これが最良の妥協案かと」

 全ての人間が善人であるはずはない。情報を悪用する者は必ず現れるだろう。だからこそ、こちらも全ての内情を明かすわけにはいかない。それでいて、目的は果たさねばならない。

 ……となると、やはり妥協点は『偽りの目的を明かして、協力を命じる』ということになるだろう。

 この国を統率する国王からの命であるからこそ可能なことであり、そして、この国を統率する以上、やらねばならないことである。

 国王の心情を思えば、如何に悩ましいだろうかと思われる。何せ、世界が滅びかねないこの未曽有の事態に対応しなければならないのだから。

「まあ、確かに最良であろうな。……王城には今、古代遺跡について詳しく知る者達が揃っておる」

 国王は頷くと、この場に居る者達……多くの学者達や、ランヴァルド、そしてネールを1人1人、見つめた。

「そういう訳だ。お主らには悪いが、働いてもらうことになる。……よいな?」

「はい」

 ランヴァルドは畏まって一礼した。ネールもそれに倣って一礼する。学者達もそれに続き、皆が首を垂れると、それを眺めた国王は少しばかり微笑んだ。

 だが。

「心強いことだ。……特に、ランヴァルド・マグナス・ファルクエーク。そして、ネレイア・リンドよ」

「はっ」

 国王に個別に呼ばれ、ランヴァルドは身を固くする。……何か粗相をしただろうか、と。ちらりと横を見れば、ネールはきょとんとしながら、ランヴァルド同様にちょっぴり縮こまってみせている。

 ……そんなネールの様子を見てか、国王は、ふ、と笑った。

「此度は、ファルクエークの危機を、よくぞ救った。『ジレネロストの再来』となりかねなかったファルクエークが今も残っておるのは、お主らの働きによるところであろう」

 そして、手放しに褒め称えられるものだから、ランヴァルドは面食らう。ネールは『ほめられた!』とばかり、にこにこしているが、ランヴァルドはにこにこできるほど肝が太くない。

「あ……いえ、滅相も無いことでございます」

「そう謙遜するな。ジレネロストに引き続いての活躍だぞ?お主らの功績は最早、この国の中でも随一の者になりつつある」

 ランヴァルドは、隣で『その通りです!』とばかりに堂々とにこにこするネールの肝の太さを少々羨ましく思いつつ、恐縮しきりになるしかない。

「そんなお主らへの叙勲だ。この冷え切った国の氷を打ち砕き、黄金の光を纏いて国の希望となる者達への叙勲故に、華やかに執り行いたいものだな。なあ、イサク」

「ええ、ええ!その通りですとも!」

 イサクがにこにこといつもの調子であるのを見て、ランヴァルドは『ああ、この人は本当に王族の血筋のお方なんだよなあ……』と思う。ランヴァルドは只々、気が気でないのだが……。

「まあ、ゆるりと休め」

「ありがとうございます」

 国王の微笑みが柔らかなものであるのを見て、まあ、悪いようにはされないだろう、とも、思う。


「叙勲は今宵執り行おう」

「そうですね!こういったことは早い方がよいものです!」

 ……たとえ、多少急であったとしても。

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― 新着の感想 ―
大量のネール!それは……世界が平和になる!!
魔力推進派の古代人は、反対派に滅ぼされたのか。それとも異世界に渡ったのか。はたまた魔力生命体となって今もこの世界にいるのか。古代人さんに詳しく聞ければ良いのですがねぇ。
まあ危機が迫っているときには英雄が必要なので。 ネールだけじゃなくランヴァルドもこの国の新しい光として持ち上げときたい感じがあるのかな? そして、そのぶんこき使う予定とw それでは次回の更新も楽しみに…
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