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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第六章:氷を喰らい生きる者
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輝かしい功績*2

「まあな……魔物が出現する速さを考えれば、分かることだったか……」

「これほどまでに魔力が濃いとは……」

 ランヴァルドとオルヴァーが頭を抱える横で、ネールはやはり『厄介……』と神妙な顔をしている。

「……兄上。これは一体、何なのですか?何故、これほどまでに魔力が?」

「さあなあ……実際、詳しいことは分かっていない。ただ、一部の古代遺跡には、魔力を大量に発生させ続ける装置が備わっているらしい。ここもその類だ、っていうことだな」

 ランヴァルドはため息を吐きつつ、ついでに『せめて魔力と一緒に冷気も出てくるのはどうにかならないもんか』と嘆く。

 ……魔力だけ、或いは吹雪だけなら、まあ、まだマシなのだが。だが残念ながら、この遺跡は無慈悲にもこの有様である。これをあの古代人がやっているのだとすれば、随分と悪辣なことだ。無論、本人にそのような悪意はないのだろうし、それ故に厄介なのだが……。


「……埒が明かないな。よし、行くか」

 だが結局は、覚悟を決めるしかない。ランヴァルドは深々とため息を吐いて、ネールに『よし、行くぞ』と声を掛ける。ネールは心配そうにランヴァルドを見上げながらも、こく、と頷いた。

「あ、兄上?」

「オルヴァーはここに居てくれ。お前に何かあったら困る」

 オルヴァーに声を掛ければ、オルヴァーは明らかに戸惑った様子であった。

「い、いや、俺も……」

「お前が居なくなったらファルクエークはどうなる?」

 ついて来ようとしかけたオルヴァーを押し留めて、ランヴァルドは苦笑する。

 ……そっくり同じ台詞を、あの日に至るまで、幾度となく自分に投げかけ続けていたランヴァルドが、これをオルヴァーに言うとは。何とも身勝手なものだ。

「ま、後は……俺の死体が出ても、ネールじゃ運べないからな。頼んだ」

 だがこうするしかない。ランヴァルドは笑ってみせると……もう一度、扉に手を掛けた。




 一秒にも満たず、体温が奪われる。

 荒れ狂う魔力に意識が持っていかれそうになる。

 そんな中を一歩進んだランヴァルドは……ふわ、と、妙に温くて柔らかなものに包まれたような、そんな感覚を味わった。

「……よし、でかしたぞ、ネール」

 見れば、ネールは自分をランヴァルドごと、ふんわりとした黄金色の光で包んでいる。そしてそのおかげで、少々マシになった。

 黄金色の光は、ネールの魔力なのだろう。遺跡の魔力がそれにぶつかって、ある程度消えてくれているらしい。『これならもう少しはもつか』とランヴァルドは考え……そして、遺跡の中央、古代魔法の装置とその制御盤へ近づいていく。

 幸い、制御盤は他の遺跡で見たものと大差無い。これならなんとか読み解けるだろう。

 ランヴァルドは、『すっかり慣れちまったな……』と内心で深々とため息を吐きつつ、自分の腰に、きゅ、とくっついてくるネールのぬくもりを感じつつ、古代魔法へ挑むのだ。


 ……しばらく、読解に掛かった。というのも、ランヴァルドの集中はどうにも、弱まりがちであったので。

 ネールに守られていても、寒さは容赦なくランヴァルドの体力を奪う。魔力は容赦なくランヴァルドの精神を削っていく。

 刃めいた鋭い氷が吹き付けては、ランヴァルドに鋭い切り傷を作っていった。せめてネールは切り裂かせまい、とネールを外套の内側に入れれば、ますますくっついてくるネールのおかげで多少、温かいような心地がした。

 ……北部の冬の、殊更酷い天気の日もかくや、といった様相である。それなりに防寒具を着込んで、覚悟も決めてこの部屋へ入った。

 だというのに、それでも、相当に辛い。

 ネールがその感覚で魔法をなんとなく読み解き、『こっち』『あっち』と指示をくれるのを道しるべにしながら、結局のところはランヴァルドが魔法を読み解いていくしかない。

 こうまでして魔法を読み解こうとせずとも、ネールが『とりあえず、止める』と念ずれば、それだけで遺跡の機能は停止できるだろう。

 だが、それでは駄目なのだ。ランヴァルドは遺跡が想定した動かし方をしたいのではない。この遺跡がもう二度と動かないように、解体しなければならないのである。

 それ故に、この装置が動いている間に魔法を読み解くのだ。どこを解体して、どのようにこの遺跡を完全に無力化するのか。ネールにも分からない、『遺跡にとって想定外の』動かし方をしなければならないのだから。


 そうしてランヴァルドはなんとか、魔法を読み解いて……そして。

「ネール……頼む」

 ランヴァルドが制御盤の上に置いた掌に、ネールの小さなてが、ふに、と重なり、魔力を流し始める。

 温かな陽だまりのような魔力が広がるのが分かる。少しばかり、ランヴァルドもまたその恩恵に与って、『ああ、暖かいな』と思う。

 ……そうして黄金色の光が制御盤から染み渡っていけば、無事、ランヴァルドが狙った通りに遺跡が稼働を停止した。

「よし……後は、解体だな。もう一回動かされないように、細工して……」

 だが。

 動こうとした直後、ランヴァルドは強烈な眩暈にふらつく。

 寒さに凍えた体は上手く動かず、ランヴァルドはそのまま床に倒れることになった。

 床が冷たい。またも急激に体温が奪われていくのが分かるが、体が動かない。

 ネールが慌てて駆け寄ってくるが、意識が朦朧として、それさえもぼんやりとしか分からない。

 ふと見れば、白い石材の床の上に、赤く血が落ちていることは分かった。倒れた拍子にどこか切ったのか、それとも、元々氷の刃でどこか切っていたのか。はたまた、古代人と接触した時のように、鼻血でも出ているのか。

 ……ぼんやりと霞む視界の中、寒さと魔力にやられた体で、ランヴァルドはただ、白地に落ちた赤い斑点を見つめて……自分が血を吐いたテーブルクロスを思い出す。

 続いて、それを見た日の夜中に家を抜け出したことも。南へ向かう道中で吹き付けてきた雪風も。

 再会した母の、こちらを見る目も。


 思い出すな、と理性で留めようにも、その理性はすっかり凍えて働かない。そもそも、体が動かないのだ。凄まじい眩暈によって立ち上がることもままならず、最早、どうすることもできない。

 ネールがランヴァルドを揺すり起こそうとしている。だがランヴァルドは耐えきれず、目を閉じた。




 次にランヴァルドが目を覚ました時、ぱちぱちと焚火が爆ぜる音と、遠く聞こえる吹雪の音……そして、火と寝袋のぬくもり中に居た。

 周囲を見てみると、白い床や壁は古代遺跡のものだと分かる。だが、向こうの方から雪風の音が聞こえてくるところから察するに、比較的、出口に近い位置なのだろうとも思われた。

 少なくとも、最深部のような強い魔力と冷気に満ちているわけではなく……まあ、それでも魔力はそれなりに濃かったが、そこまで酷いものでもない。

「ここは……」

 起き上がろうとして、強い眩暈と頭痛に呻く。……そうして痛みに耐えていれば、自分が意識を失う直前のことを思い出す。

 ひとまず、古代魔法の装置は止めた、はずだ。だがその直後、解体する前に倒れた、と。

 ……それから、白い床に散った血の赤も思い出して、ランヴァルドは顔を顰める。思い出さないように、と努めても、どうにもこれが難しい。

「兄上」

 だが、そんなランヴァルドの思考を打ち切ってくれる存在がやってくる。

「オルヴァー……すまない、俺はどれぐらい寝てた?」

「ほんの一刻ほどです。まだ、寝ておられた方がよいのでは」

 オルヴァーはランヴァルドの顔を覗き込んで、心配そうにしていた。……当然だが、ランヴァルドをここまで連れてきてくれたのはオルヴァーだろう。

「遺跡は、どうなった?ちゃんと止まったか?」

「ええ。無事に」

 ……まあ、ひとまず、自分の仕事は1つ、終えたようだ。後は、ランヴァルドが苦労してなんとか読み解いた情報を元に、装置に物理的な変更を加えて、動かないようにしてしまえばいい。装置の中をある程度見ることになるだろうが……まあ、そこはネールも居ることだ。心配ないだろう。

「ネールは?」

「少し前に外へ出ていってしまいまして……書置きをしていったようですが」

 書置き、と首を傾げつつ、ランヴァルドはなんとかかんとか、ネールが書置きを残したという床を覗き込み……。

「芋掘り……」

『いもほり』と書かれたその床を見て、ランヴァルドは気が抜ける思いであった。


「兄上。『いもほり』とは何かの暗号ですか?」

「ああうん、そうだったらよかったんだけどな……多分そのままの意味だ。あいつは芋ほりに行った……」

「は……?」

 オルヴァーが何とも言えない顔をしている中、ランヴァルドは『そうまでしなくていいんだぞ』とネールにどのようにして伝えるか、思案し始める。

 ネールのことだ。ランヴァルドにものを食べさせるために、昨日のように芋を持ってこようとしているのだろう。健気なことである。だが、こんな時にまでそうしなくとも、とも、思う。

「何故、芋を……?」

「俺に食べさせたいらしい」

 最早、どう答えていいものやら分からず、ランヴァルドはそれだけ言ってため息を吐いた。

 ……つくづく、ランヴァルドはネールに振り回されてばかりである!




「ネールが戻ってきたら、もう一度さっきの部屋に戻って、古代魔法装置の解体を進めようと思う」

 芋掘りはおいておいて、ランヴァルドはオルヴァーにはさっさと今後の予定を説明しておくことにした。

「再び、ですか?危険ではありませんか、兄上」

「いや、大丈夫さ。もう魔力も吹雪も止んでいるし、そう危険は無いだろう」

 オルヴァーはランヴァルドを案じているようだったが、ランヴァルドはそれを振り切って立ち上がる。……眩暈は相変わらず、あった。体のあちこちは氷で切った切り傷だらけだ。だが、さっきよりはマシである。

「さて、ネールを呼ぶか……そう遠くへは行ってないだろ」

 出口と思われる方へ歩いていけば、オルヴァーは相変わらず心配そうな顔ではありながら、ランヴァルドを止めることはしなかった。

 そして……。


「ああ、ネール。戻った、か……」

 そこへ丁度、ネールが戻ってきた。意気揚々と、明るい顔で。その手には、小さな芋がいくつも握られている。

 だが、それ以上に気になるのは……。

「……ネール。外で魔物と戦ったか?あー、その、ドラゴンとか?」

 ネールは、こくり、と頷いた。だろうなあ、とランヴァルドは思った。

 何せ、ネールの手には芋のみならず……ドラゴンの鱗らしいものも握られていたので……。


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― 新着の感想 ―
いつもの   ご一緒にドラゴンはいかがですか?
出血大サービスの大安売りですね>ドラゴン鱗
ドラゴン退治は芋掘りのついで! 最近ドラゴンが乱獲されぎみですが、素材の市場価格がまた下がっちゃうんでしょうか。 それでは次回の更新も楽しみにお待ちしております。
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