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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第五章:降り積もる雪よ
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遺跡の在処*9

「またドラゴンか……どうする?ネール」

 氷の底を眺めながら、ランヴァルドは何とも言えない顔をする羽目になる。

 また氷で、またドラゴンだ。碌なことが無い。この2つについては、本当に、碌なことが無い!

「多分、この装置を使えばここの湖の氷を溶かしてあのドラゴンを出せるが……封印を下手に解くのもなあ……」

 ランヴァルドは考える。このまま、何も無ければいいのだ。ブラブローマの貴族が何の手落ちも無く、しっかりとここを管理しているのならば、何も問題は無いのだ。

 だが……ここもまたステンティールの時と同様に、何者かによってドラゴンの封印が解かれるかもしれない、となれば、話は別である。

「……いや、ちょっと待て。これ、まだ誰も入ってないんだよな?その上で、凍ってるんだよな?状況だけ見りゃ、これは封印なわけで……いや、駄目だ、何も分からん……俺は古代遺跡の専門家じゃねえんだぞ……」

 ランヴァルドは本当なら国王へ言いたいあれこれをぶつぶつと呟きつつ頭を抱えた。一方のネールは、つんつん、と凍った湖の湖面をつついては首をかしげている。

「あー……ネール。何か分かったのか?」

 ランヴァルドが声を掛けると、ネールは少しばかり眉根を寄せて、真剣な顔で湖を見つめる。……そして。

「お。何か分かったんだな」

 ネールが石の欠片を拾ってきて、氷をガリガリと削って文字を書き始めたのを見て、ランヴァルドは存分に期待しながらネールを見守る。

 ……そして。

『ジレネロストと くうき にてる』

 ネールはそう、書いた文字を見せてきた。




「……ジレネロストと一緒、か。事故が起きそう、ってことか?」

 ランヴァルドが緊張たっぷりにそう問えば、ネールはゆるゆると首を横に振る。

「事故にはならない?でもジレネロストと……ああ、元々のジレネロストと一緒、ってことか?」

 だが次の問いに対してもネールはまた、首を横に振った。

「事故にはならないが、魔力が多い、ってことか。或いは、吹雪が発生したアレの方か?」

 これについては首を縦に振ったので、まあ、合っているのだろう。

 更に、ネールはまた一生懸命、文字を書いていく。

『ハイゼルも にてる』『ハイゼルとかの よわかったら いっしょ』

「……ほー?」

 ネールが一生懸命に伝えようとしているものが何なのか。ランヴァルドは暫し、考えることになるのだ。




 ……さて。

 ランヴァルドはまず、今までに出会ってしまった遺跡の数々を思い出していく。


 まず、ハイゼルの氷晶の洞窟。

 あそこでは、古代魔法の装置が動き始めた途端に凄まじい冷風が吹き荒れた。人間を生きたまま凍り付かせるようなあの冷たさは、生涯忘れられそうにない。

 それから、一応はゴーレムも居た。あれは恐らく、遺跡を守る衛兵の役目だったのだろうが。


 次に、ステンティール城の地下。マティアスが己の血によって道を開いた、あの遺跡である。

 あそこには元々、岩石竜が封じられていたらしい。だがその封印は解かれ……同時に、ステンティールを守護するはずのゴーレムが、氷を生じさせて戦うものに変化していたようだ。

 ここでも氷、氷なのだから、全く厭になる。


 次はドラクスローガ城の奥、だろうか。一応、あれも古代遺跡の一種ではあっただろう。

 あそこにはドラゴンが封印されていた。ドラゴンを、まるで卵のような形の封印の中に閉じ込めて、魔力で制御していたのだ。

 尤も、領主ドグラスがその封印を解いてしまったため、あそこにはもう、ドラゴンが居ないが……。


 そして、ジレネロスト。

 あそこには2つ、古代遺跡があったが……ハイゼル同様に吹雪が吹き荒れることになったのは記憶に新しい。

 それから、『魔力濾過装置』というような記載があったことが思い出される。

 ……そう。あの時も不思議に思ったが、どうやら、魔力を濾過していたようなのだ。アレは、魔力自体を濾し取るためのものなのか、はたまた、魔力から何かを濾し取るものなのか……。


 それから、ハイゼル寄りのステンティール領内でも、ハイゼルと同じような状態になった。もう手慣れたものであったので、対処も簡単だった。ランヴァルドはそう思い出してしまってから、『俺は古代遺跡になんて慣れたくねえ!』と思い出した。




 ……と、まあ、今までの古代遺跡は、ざっとこんな具合であった。

 そして今回のこれだ。ブラブローマ領の、水龍の封印。

 これがネールの言う通り、『ジレネロストとハイゼルに近い』のであれば……この氷を生み出しているものと、ハイゼルやジレネロスト、ステンティール東部の遺跡での猛吹雪とは、元々同じものなのではないだろうか。

 ……そして、その上でジレネロストの『魔力濾過装置』について考えると……。

「成程な」

 ランヴァルドはふと、腑に落ちた。今まで経験してきた碌でもないあれこれによって打たれた点が、1本の線になるかのように。

「今までの古代遺跡の目的が分かったぞ。あれらは恐らく……魔力から冷気を濾過する装置なんだろう」




「つまり、魔力そのものは、冷たい。そういうことだ」

 ランヴァルドが締め括れば、ネールがぱちぱちと拍手をした。

「……そういうことか?本当に?俺は何を言っているんだ……?」

 が、ランヴァルドはふと我に返ってきた。ついでに頭を抱える羽目になる。ネールは首をかしげているが……『魔力は元々冷たい』という説は、そう言ったランヴァルド自身にすら、意味が分からないのである!

「魔力が冷たいってことなら、魔獣の森は寒いよな?うん……やっぱり古代遺跡の魔力だけ別、ってかんじか……?」

 魔力そのもの、というと、人間にも多かれ少なかれ、魔力はある。ネールには多く、ランヴァルドには少ないこの『魔力』だが……これの多寡によって体温が下がるだとか、魔法の適性が炎より氷に出やすいだとか、そういった話は聞かない。

 ……そもそも、純粋な魔力から生まれたドラゴンのような魔物が皆、『冷たい』ということも無いだろう。となると、冷気を伴うのは魔力そのもの、というわけでもないのだろう。恐らくは。

 となると……。

「そもそもこの古代遺跡ってのは、どこから魔力を得ているんだかな」

 ランヴァルドは、遺跡の中をぐるりと見回して、呟いた。

 ……魔力そのものが冷たい、のではなく。あくまでも、『古代遺跡由来の魔力は冷たい』のかもしれない、と思いながら。




「ま、これ以上は考えても仕方がないな。俺は古代遺跡の専門家でもないわけだし……」

 ランヴァルドはぼやきつつ、しかし、確実に自分がそこらの古代遺跡研究家より古代遺跡に詳しくなってしまっていることも自覚しつつ……目の前の『これ』に意識を戻すことになる。

「ネール。こいつをどうすべきだと思う?」

 そう。目の前には湖があり、湖は凍り付いており……そして、その底にはドラゴンが眠っているのだ。


「こいつを解凍して始末していく、ってのもまあ、アリだが……そもそもこのドラゴンが何なのか、分からないしな……。下手に守り神の類を殺しちまったら問題だろうし……かといって、ここにマティアスの言っていた奴が来ないとも限らないしな。いや、そもそもマティアスが会った奴が遺跡に悪さしてるとも限らないのか……」

 ランヴァルドは頭を抱えて考える。

 何から何まで、分かっていないことが多すぎる。遺跡の機能のおおよそのところが推察されたところで、目の前のドラゴンも凍った湖もそのままだし、何より、ここの封印が破られないという保証も無い。

 ……だが。

「……まあ、ここがどうなろうと俺の知ったこっちゃないか」

 ランヴァルドは、悪徳商人なのである。損得だけでも物事を考えられる人間なのだ。

「そうだな。人知れずここの封印を俺達が何とかしてやる義理は無い。ここの封印が破られたらそれまでだし、そうでなかったとしたら何も無く、平和なだけだし……」

 ネールは『そういうものか』とふんふん頷いている。……それを見て、ランヴァルドは少しばかり、良心が咎めないでもないが。

「本来、ここをどうこうすべきなのは、ブラブローマの領主様なんだよな……」

 ランヴァルドは考えて、にやりと笑う。

「よし。ならこの情報を売るか」

 ……何せ、ランヴァルドは悪徳商人だ。商人としては、売れるものがあるのに売らないというわけにはいかないのである。


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― 新着の感想 ―
あー、なるほどねえ。あちこちにある遺跡が共通して周囲を寒冷化させるほど冷気をまき散らす機能を有しているからてっきり寒冷地に適応した種族が作ったものなのかと思っていたけど。 欲しかったのは純粋な魔力の方…
ランヴァルドさんはある程度古代遺跡の知識があるから、暫定古代人にもハッタリかませそうですねぇ。
うーむ、まだ古代遺跡の目的がよくわかりませんね。 冷気が出る遺跡はドラゴンなどを冷凍保存するためのものなのかな? 古代遺跡をいじって回ってる相手も含めて、まだまだ謎は多そうです。 それでは次回の更新も…
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