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クズに金貨と花冠を  作者: もちもち物質
第四章:薄っぺらい約束
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化け物の責任*5

 そうして翌日には王都をまた出発した。

 イサクとアンネリエは王城で諸々掛け合っているところと思われる。2人が王城での成果をジレネロストへ持ち帰って報告してくれる時までには、ジレネロストをある程度復興させておかなければならないのだ。大変である。

 ……もしあの2人がランヴァルドとの取引を全て国王に洗いざらい話していたとしても、まあ、ランヴァルドとしては問題が無い。

 あの国王陛下であるからには、ランヴァルドが『悪徳商人』であることくらいは見抜いておられるのであろうし、その上で利用しようという胆力はおありなのだろう。ならばランヴァルドは自分の悪辣な面も含めて全て見せ、その上で『有能だ』と思わせることができればよいのだ。




 ということで、『有能』と思わせるためにも、ランヴァルドは早速、ジレネロストに戻ったその日の内から、どんどんと復興作業を始めていくことにした。

「よし、ネール。今日はここに道を作るぞ」

 ……ランヴァルドはいよいよ、ネールを掘削工事に運用し始める。

 古代遺跡の壁面に穴を開けるくらいのことはできるネールだ。山を切り開くくらいのことはなんとかできるだろう。やってもらわねば困る。

 何せ、この山が邪魔なのだ。ここに街道を作ることができれば、王都やハイゼルへの道を大幅に短くすることができる。これがあるのとないのとでは大違いなので……ランヴァルドはネールによく言い含めるのであった。

「ただ掘っただけじゃ、崩れるからな。しっかり吹き飛ばすなり、消し飛ばすなり、上手くやってくれ」

 ネールは分かっているのかいないのか、それでもこくこくとはっきり頷いているので、まあ、大丈夫だろう。

 ……一応、今日、この山には『立ち入り禁止』と令を出してある。兵士達にも手伝ってもらって、うっかり人が迷い込まないようにしてあるのだ。よって、多少は山が崩れようが土砂が降ってこようが、構わず作業ができる、ということになる。まあ、ネールとランヴァルド自身の安全さえ確保できれば。

「よし!じゃあネール、やっちまえ!」

 ランヴァルドはくれぐれも、自分が土砂に埋もれたりなんだりしないように緊張しつつ……ネールが嬉々として飛び出していき、早速、黄金に輝く光の刃で新たな道を拓いていくのを見守るのだった。


 ネールは実に上手くやった。

 何度か、山相手に『遺跡の壁にやったように』攻撃していたのだが……向こう側が確実に空洞であるような遺跡の壁とは異なり、山はみっちりと土や岩が固まった代物である。壁と同じように破壊できるものではない。

 だが、ネールは何度かの失敗を経て、『こう切ったら、こう……?』と、少しずつ山を削り取り始めたのである。

 表層の土ではなく、その奥にある岩石。それらをしっかり切断してやれば、その岩ごと、土砂が滑り落ちていく。落ちた土砂は、まあ、後で退かせばよいのである。

 また、ある程度の大きさになった岩なら、ネールがまた破壊できてしまう。綺麗にすぱりと切り刻まれた岩を見て、『この切り石を使って建築ができそうだな……』とランヴァルドはまた別の商売を考え始めた。

 ……山は邪魔だが、資源でもある。使えるものは使いたいランヴァルドなのであった。




 また、山を切り開いて道を作る、などという荒唐無稽なことを実現する間にも魔物狩りは進んでいく。

 山を拓くにあたって、ネールが切り崩して作った一本道に溜まった土砂や石を運び出す作業が必要である。それらの作業は、新たに雇い入れられた者達によって進められ、そして、その間のネールは暇を持て余すことなどなく、南の方の魔物狩りを進めていくことになるのだ。

 また、最近ではすっかり冒険者達が居付いてくれているので、ネールが粗方大物を狩り終えた区域に入っては、然程強くない魔物を狩って、治安維持ならびに商品の仕入れに貢献してくれているのだ。

 冒険者が定期的に入って魔物の素材を持ってくるとなれば、当然、商人達が集まり、魔物の素材を仕入れ、建築資材や食品、冒険者達のための薬などを売っていくようになり……更に、最近ではそれらに加えて、衣類や石鹸といった生活用品も、菓子類や酒といった嗜好品も、売られるようになってきている。

 ……そのうち春が来るわけだが、そうなったらいよいよ、大規模に畑の開墾が始まるだろう。となれば、秋には収穫物を売り買いしたり、加工したり、といったことが始まり……まあ、その頃にはジレネロストはもう、立派な『町』になっているものと思われる。

 だができることなら、夏にはもう『町』にしてしまいたい。更に欲を言うならば……春が来たと同時に、ここを交易路として各地に宣伝して回りたいところだ。

 ランヴァルドはそれらを念頭に置きつつ、作業を進めていくことになったのだが……。




「……今年の春は遅そうだな」

 ランヴァルドはジレネロストを訪れた旅商人から聞いた話を思い出し、頭を抱える。

 どうやら、国の南端では未だに雪が降っているらしい。もうそろそろ、春の気配がしてきても良さそうな時期なのだが。

 ……冷夏が2年連続で、となると、いよいよ国が危うい。

 特に、北部は今年の冬が終わった時には既に死にかけ、という領地も出てこようものを、そこで更に追い打ちをかけるように冷夏が来たならば……いよいよ、潰れる領地が後を絶たなくなるだろう。

「国王陛下も頭が痛いことだろうな……」

 ランヴァルドは『イサクさんとアンネリエさんも大変だろうなあ』と思いつつ、まあ、それはそれとして……。

「……となると、いよいよ南の方から繋がる街道は整備を急いだ方がいいな。よし」

 ……人が困れば金が動く。ランヴァルドはそれに乗じて、金を稼ぐ。そうして金を稼いでおけば、後は、貴族位を頂き次第、どこかの領地を金で割譲してもらって、いよいよランヴァルドも領主の座に就き、ファルクエークの上に立つ準備が整う、というわけなのだ。

 ジレネロストを割譲してもらう、というのは少々危ない。要らない恨みは買いたくないのだ。ここはネールが治めるということにして、中立地帯にしてしまった方が金になるだろう。なら、ランヴァルドはこの近隣……南の方ででも、領地をなんとか割譲して貰えばそれでいい。

 例えば、古代遺跡を利用することは思いつく。

 ……ジレネロストの古代遺跡がどのようなものであったかを細かに公言するのは危険だが、『古代遺跡から魔力が漏れて、ジレネロストは魔物の巣窟になっていたようだ』という程度ならば知っている者も多い。

 ならば……『おたくの領地にある古代遺跡は危険です。そこで古代遺跡のある土地を私に売って頂けませんか。私ならば制圧と管理ができますので』と持ち掛ければ、土地の割譲にも案外簡単に頷いてもらえるかもしれない。

 まあ、金があって、地位があれば、より更なる地位は簡単に手に入る。ランヴァルドはそう見込んで、今日もまた、ネールと共にジレネロスト南部の整備に向かうことにするのだった。

 ……ただ、『イサクさん、国王陛下の説得はちゃんと上手くいってるんだろうな……』と少々心配になりつつ。




 そうして、数日後。

「ああ、マグナス殿!お久しぶりです!」

 王城の紋が入った馬車が到着する。降りてきたのは、イサクとアンネリエだ。

 事前の連絡も無かったので、実に唐突であるが……ランヴァルドは、はて、と首を傾げつつ2人を出迎えた。

「お久しぶりです。何かあったんですか?」

「ええ!まあ、国王陛下との相談が終わりました、ということで」

 ……朗報である。国王との相談が終わった、ということは、いよいよネールが正式にジレネロストの主となり、ついでにランヴァルドにも貴族位が授与される、ということになるだろう。

 ランヴァルドは『いよいよか』と笑みを深め……だが。

「マグナス殿へ授与される貴族位について、お話がございまして」

 ……イサクがそう言うのを聞いて、何やら嫌な予感を覚えるのだった。




「結論から申し上げますと、マグナス殿には『星光勲章』が授与されます」

「え」

 イサクの開口一番の言葉に、ランヴァルドは面食らった。

 星光勲章、といえば……国益に大いに貢献した者に贈られる、上位の勲章である。ネールの金剣勲章に並ぶものだ。

 流石に、ドラゴン殺しの英雄に並ぶほどの功績を上げたわけじゃないぞ、とランヴァルドが尻込みしていると、イサクはにっこり笑った。

「まあ、勲章に見合うだけの成果をこれから出していただく、ということで……正式な授与は、春になる見込みです」

「あ、ああ……つまりそれまでにジレネロストを立派に復興させておけ、と?」

「まあそうなりますな」

 イサクがそう言うのを聞いて、ランヴァルドは『大変なことになったもんだ』と頭を抱える。

 ……星光勲章は、流石に、身に余る。授与されるにしても、精々が銀剣勲章か六花勲章か、そこらだろうと思っていたのに。

「分かりました。ならば勲章に恥じないような功績を出してみせます」

「おお、頼もしい!どうか、よろしくお願いしますね」

 イサクはにこにこと上機嫌な様子であるが、ランヴァルドはため息を吐きたいくらいの気分だ。

 ……そして、更に。

「それでですね……同時に、ネールさんには『竜麟勲章』が授与される見込みです」

 イサクがそう言い始めたので、ランヴァルドは思考が停まりかけた。

 何せランヴァルドは、『竜麟勲章』というものを知らなかったので。

「は?え?何ですか、それは」

 竜麟、というのだからドラゴンの鱗の勲章だろう。それは分かる。だが聞いたことのない名称に、ランヴァルドは咄嗟に思考が追い付かず……。

「なんと……ネールさんに授与するための勲章が新たにできました!」

 更に追い打ちをかけるようなイサクの言葉に、今度こそ、思考が停まった。


「……勲章が!?」

「はい!勲章が!」

「ネールの為に!?」

「はい!いやあ、やはりね、彼女には特別な箔をつけねば、と国王陛下は仰っておいででして!」

 ランヴァルドが唖然とする一方、イサクはにこにこと嬉しそうである。

「ネールさんは伝説に名を残す、救国の英雄に匹敵するような働きを見せていますからね。彼女に相応しい勲章を、となると……ええと、流石に光輪十字剣勲章は重すぎるだろう、と……」

「……戦死した者に贈られがちですからね、アレは」

「はい。縁起でもない上、実際に贈られた方のご遺族からは反発が出かねないだろうな、ということで……」

 ……確かに、ネールに贈るべき勲章がもう無い、というのは、分かる。

 何せ、武勲についてはネールが今既に持っている『金剣勲章』がほぼ最上のものなのだ。それ以上を、となると……『光輪十字剣勲章』というものが一応存在してはいるのだが、基本的に、生者には贈られない代物である。そして功績としては、金剣勲章相当の功績に『殉死』が追加されたもの、となるだろうか。

 と考えると……確かに、ただ武勲があるだけのネールにこれ以上の勲章を、となると、新たに勲章を作るくらいしかない、というのは、まあ、分からないでもない。

 だが、分からないのは『彼女に特別な箔を』というところだろう。

 新たに勲章を作ってまで、ネールを称えたい理由は何だろうか。確かに、幼いネールを名ばかりとはいえジレネロストの領主に据えるならば、間違いなくやっかみもあることだろうし、そこで、国王が後ろ盾になっている、と証明するための勲章は、確かに役に立つだろうが……。


「……あー、それでですね」

 ランヴァルドが考えていると、イサクは少々咳払いをしてから……言った。




「ネールさんではなく、マグナスさんをジレネロストの領主にせよ、と、国王陛下は仰っておいででして」

「……は?」

 今度こそ、ランヴァルドはいっぱいいっぱいである。


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― 新着の感想 ―
ランヴァルドがジレネロストの領主になるのであればネールが不満に思って暴れ出す心配も無いし、 あの国王陛下のことだからランヴァルドが過去に領主になる為に勉強を頑張ってたことも、家族に殺されかけてもそれを…
ランヴァルドの方が色々分かってて使い勝手良さそうだもんな
身の程をわきまえていて、それでいて中長期的な目線で利益計算ができ、清濁併せ持っていて、基本的に善良だが敵には容赦しない。 確かに統治する側からしたら、喉から手が出るほど欲しい人材ですねぇ...
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