序章、神様の願い事
元神様で今は化け物の少女は縛られていた。
少女は身動き一つできずにただ僕を睨んでいた。
「 」
少女のその瞳は何かを言いたいようだった。
だが、何も言わなかった。
それは、少女が元神様であった頃の誇り。
最後のプライドであり、あがきでもあった。
例え、自身の望みが叶わぬとも捨てられないものだった。
少女が神様故の縛りなのだ。
自分で自分の存在を否定など、できるはずもない。
「やぁ、起きたのかい」
男の声がした。
その男は、ニメートルほどの長さがある鞘に納められた日本刀を腰にかけておらず片手に持っていた。
僕はまだ眠たい目をこすり、怪訝な視線をおくる。
「早速で悪いんだけど、死んでもらえるかな?」
「」
その男は僕の返事も待たずに切りかかってくる。
僕はその男の宣言どうりの行動を避けられることなどはなく、自分の身を守るように腕を盾にする。
「っ。・・・?」
しかし、いつまで待っても痛みはやってこない。
人は死ぬとわかっていたら痛みなど感じないのだろうか?。
僕は目を薄く開く。
男が勢いよく降ろした日本刀の刃は僕に当たる寸田のところで止まっていた。
「冗談、冗談だよ」
「・・・・・」
「今の君がどっちかわからなくてね、試させてもらった」
刀は本物で、その行動は偽物という難解なジョークなのか?。
笑えないし、怖い!。
男は今までのことをまるで何事もなかったかのような、消してしまったような表情で僕に話かける。
「ところで、君に聞きたい事があったんだよ・・」
「あの、その君って呼び方はやめてもらえませんか。僕には新時てっいう名前があるんです。それに、あなたは?」
「 。俺か、俺の名は教えられない。さぁ、新時君に質問だ。」
「はい」
「新時君は、まるで言葉どうりの神様みたいな背の低い成人女性に会ったことはあるかい?」
具体的すぎるっ!。
そんな人いるわけ・・・!。
心当たりがないわけではない、けれどこれはこの男には言ってはいけない気がする。
なので、僕は目の前の男に嘘をつくことにした。
「知りま・・せん」
「そうかい」
ここでこの話は終わる。
そして、なぜかところどころ汚れている学生服を着替えるために一度自宅に帰って、僕は学校に向かった。
その日の補習を心ここにあらずで僕は受けた。
補習中、僕があまりにも集中していないので古神先生に「どうしたのですか?、何か悩み事があるのなら先生は相談に乗りますよ」と、優しく聞かれてしまったほどだ。
古神先生には、はぐらかして答えた。
僕が、補習中に何を考えていたかというと・・あの男が最後に言った言葉だ。
ー「新時君、君はもう普通の人間じゃぁない」
家に帰った僕は学生服のまま自分の部屋に入りベットの上で横になる。
そして、僕は目を閉じた。
眠ってしまった僕の目の前には縛られている化け物の少女がいた。
相変わらず化け物の少女は僕を睨んでいる。
化け物の少女は口を開く。
「 。・・童、余の頼みを聞き届けてはくれぬか?」
「・・・・」
化け物の少女は自分の大切な何かを失う覚悟で話す。
化け物の少女の顔は酷く悲しい。
化け物の少女は自分で自分の存在を否定した。
「 。余には、もう一度だけで良い。会いたい人間がおる」
化け物の少女は思い出を懐かしむように語る。
「 。会って伝えたいことがある、例え、その人間が余のことを知らなかったとしても・・・・余には伝えねばならない事がある」
化け物の少女は強く願うように僕に言った。
何も知らない僕は化け物の少女の願いを手伝うことにした。
「わかった」
「 。・・・よいのか?」
「いいよ。でも、どうやって探すんだ?。 !」
化け物の少女は泣いた。
化け物の少女の両目から大粒の涙がぼろぼろと落ちる。
年相応な少女のように泣く。
何度も何度も「ありがとう」と言いながら泣いた。
「そんなに泣くなよ、これから探すんだろう。」
「そうじゃ、そうじゃ、そうじゃった」
「次に泣く時は笑い泣きにしよう」
「そうじゃな」
少女の目の下は少し赤くなってはいたが、少女はもう泣いてなどいない。
少女は前を向いて笑っていた。
少女のその笑顔はとても不気味な笑いだった。
僕は今になって気付いた、少女を縛っていた縄が緩み始めていることに。
それからすぐのことだ、少女は化け物となって自力で自身を縛っていた縄の封印を解いたのだった。
僕は本当に何も知らなかったし、こうなることを考えてなどまったくいなかった。
「ありがとう」
化け物の少女は意識のなくなっていく僕に対して最後にそう囁いた。
だから僕は知らない。
これからの話を体験することはあっても記憶に無い。
この夏休みが終わる最後の日まで僕は意識が戻らないのだから仕方がない。
これから化け物の少女が自身の望み叶えるために自分より格上の神様、地方神が全知全能の神に戦いを挑むことの話などわからない。