クラスメイト
「遅いぞクソ野郎」
教室のドアを開けるといきなり野太い声で罵倒された。
「どうしたマウンテンゴリラ…ここはお前の暮らす動物園じゃないぞ」
朝から僕を罵倒してきたバカ野郎の名前は川村健太。
自分のことを人間だと思っている悲しきゴリラだ。
「誰がゴリラだ。こっちはお前のせいで朝から嫌な気分になってるんだ」
「メスゴリラにでも振られたの?」
「違う…お前に唆されてモンスコのガチャを引いたら爆死した…」
「ザマァ!」
「それはお前の気持ちが足りないから…」
横から別の男の声が入る。
彼の名前は長谷川拓実…あだ名は導師だ。
「なんだと!?」
「俺はガチャを引く前に常にその女のことを考えている。その子がどんな下着を履いているか、体はどこから洗うか、最後はキス顔を想像してからガチャを引く」
拓実はエロの伝道師として男子から有名で、彼のことを讃える男子から導師と呼ばれていて、日々迷える子羊たちにアドバイスを送っている。
主に自家発電の素材や方法など…
「変態じゃねぇか! 誰がそんなことするか!」
「違う…紳士なだけだ…」
「まぁまぁ健太、導師の推しを引く確率は75パーセントぐらいあるから、試す価値はあるんじゃないか?」
別に導師は課金勢では無い。僕たち高校生は収入が少ないんだからそんな簡単に課金は出来ない。
だが、導師は幸運な男。今まで少ない石で数々のバトルを制してきた。
「確かに…だが…」
考える健太。
「やれば当たるかもよ?」
「相手は男だぞ! いくらなんでも…」
「でも今回のキャラは強いよ」
そう、今回のキャラは持っているだけでほとんどのクエストに連れて行ける万能キャラ。
しかも、最強キャラランキングもリセマラランキングも1位のキャラクターだ。
「ちなみにお前らは?」
「単発で引いたらきた」
「チッ! クソ野郎が!」
「俺は男に興味ない」
導師はどんなにスペックが高くても男キャラのガチャは引かない。
「俺だって…!」
「まぁ、辞めとけって。どうせ引いたって健太じゃ出ないよ」
「やってやろうじゃねぇーか!」
どうせならガチャを引いてくれた方が面白いから挑発してみたら乗ってきた。
「じゃあ、まずはどんな下着を履いてる?」
さっそく導師がガチャを引く前に行っているルーティンを健太に聞いていく…
これを男キャラで実践するのはキツイな。
「く、黒だ…」
「じゃあ風呂で最初に洗う場所は?」
「髪…」
健太の顔がどんどん青くなっていく。
「最後はキス顔」
普通にそんなことは想像したくないし、そこまでしてソシャゲのキャラを引きたいとは思わない。
「うわー!!!! だが…! これで当たるはずだ!!」
そうしてついに健太はガチャを引いた。
「これは!」
最高レアのキャラが当たる確定演出が出たことで机を手で叩き興奮する健太。
これで目当てのキャラが当たったらこのルーティンを続けるのだろうか?
それならそれで笑える。
「行けー!」
そうしてガチャから出たのはちょんまげをつけたサムライのキャラだった…
「またお前か!!」
「良かったじゃん、モテモテで」
「5体目だよ!!」
「導師のおかげだね」
「クソ! 俺の苦労はなんだったんだ!」
「フフ、俺とお前ではレベルが違う」
「だって、健太が恥ずかしがって真面目にやらないから」
「俺が頑張って貯めた石が……」
「ま、どんまい」
「いや、どうせなら俺は最後まで戦う…あと1回だけ単発な引ける」
「行け!」
そうして健太の思いを乗せて引いたガチャはまた確定演出を出すことに成功した。
「おしっ!! 行けー!!」
そして出たのは……
「またお前かー!!!!」
さっきと同じサムライだった。
「じゃあ寸劇も終わったし購買に行こうか」
「ああ…」
燃え尽きた健太を置いて僕と導師は昼休みが終わる前に購買に向かった。