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第2話 シブヤゲットーの衣食住生活

(3)シブヤゲットーの食生活


 外は山の頂上からは空が青かったが、このふもとのこの集落では、トレジャーマウンテンで燻ってる煙で空は薄汚れて見える。


 実の所ところ、飢えて死にそうも何も、現代において飢餓というものはない。だからヨシムラは笑い飛ばしたのだが。


 もちろん、屋台や食堂で食べるならグローブが当然必要だが、現代ではもう飢えて死ぬ事もなく、軽い病気や怪我なら無料で治療を受けられる。


 カードリッジ型自動配給機があちこちにあり、AI制御のオートファクトリーから生み出されるカロリーブロックやシェイクドリンク、嗜好品のアルコール、タバコ、下着、上着、靴下まで、好きなだけタダで自由に得られる。


 ただ、味や品物のバリエーションは多くは無いし、決して美味いとは言えず、むしろ不味い。栄養補給のためのみに作られたものや、とりあえず酔えればいいという、「最低限文化的な生活」として支給されるものだ。




 だから屋台や食堂や酒場をやってるレッドやオレンジのやってるそういった店は、美味しい料理人のところは普通に繁盛しているのだが。


 医療も看護ロボとモニタ上のドクターAIがある「診療所」で軽い病気や怪我なら無料で投薬と外科処置してくれる。ただ重い病気の場合は有料なため、レッドでも加入できる総合保障保険に入ってる人は多い。

 


 そういえばランチボックスは食べたが、少し一杯やりながら何か軽く食べていこうかな、とひと思った。できれば、カロリーブロックや料理店の事ではなく、たまに行われる、廃棄食品の加工品でなく本物の、畑や牧場で作られたという野菜や肉を使った贅沢な炊き出しを、今日していないだろうか?と、ついそっちの美味を思い出し、ヨヨギ・ヴィレッジを見渡した。


 周囲を見た限り残念ながらどうやら今日はやっていないようだが、たまにその辺の痩せた汚染された土地を使った家庭菜園のような畑ではなく、本物のきちんと農地として開拓された畑の野菜や、工場の培養肉ではなくちゃんと飼育した動物の肉を使った、美味であり栄養価も高い、「慈善活動」の炊き出しがたまに行われる。


 ノーストウキョウから武装したガードマンに護衛されやってきた、ホワイトランクかそれ以上の、上物の服を着たご婦人や坊ちゃん嬢ちゃん達が行う炊き出しだ。


 彼らはゲットーの人も地も放つ異臭にさすがに顔をひそめながらも、野菜類や、牛肉、豚肉、鶏肉など、具だくさんなありがたいスープを、使用人として恐らく都市で雇われてるオレンジの人間に住民に手渡させ、住民の感謝の言葉に満足し微笑む。不定期に、月2,3回くらいだろうか。頻度はかなり気まぐれだが楽しみの一つだ。


(4)イスト達の「イズム」


一応は、その他にも実は毎日食べられる、質がいい訳ではないが配給食品よりは格段に美味いといえる、同じく無料な炊き出しがあるにはあるのだが…。


 いわゆる「イスト」と住民が呼んでいる複数の、それぞれ別々などうも対立し合ってるいくつかの集団が、それらを各地で行っている。


 まあ強制ではないものの、ただ炊き出しの前には彼らの退屈な「イズム」の演説があり、すぐゴミになるパンフレットを渡されて読まねばならない。「イスト」達はそう演説で、「君たちはメガコーポなど資本家に搾取されている!」とか「我らが国、ニホン人の誇りを取り戻せ!」と演説を長々と垂れる。


 その後「我々に『委任状』を託して欲しい」と、これも強制でないが、うんざりするほどしつこく頼まれる。


 だがせっかくそれなりの額で「委任状」はブローカーに売れるのに、ちょっとした炊き出しの飯代とでは全然割に合わずバーター取引する気はなく、2,3回行って嫌気がさして、食費が浮くのは分かっててもそれ以来行っていない。


(5)ドーゲン坂・ヴィレッジ


 聞いて回ったがやはり今日はヨヨギ・ヴィレッジでは「慈善活動」の炊き出しはやっていないらしく、とぼとぼと歩き、ここらへんでは一番大きめの集落である、ドーゲン坂・ヴィレッジならもしかしてやっていないか?と思った。


 ドーゲン坂・ヴィレッジ、「ドーゲン坂」とも呼ばれる、焼け焦げた商業ビルを補強したりその前でテントをしたりと賑わっている集落へ、がれきの撤去だけはされた、ひび割れた道を歩いて行く。


 ドーゲン坂はその南に広がる湖、「ハチ湖」のほとりにあるが、あまりその湖は魚がいるわけでもないし、有害なため飲み水には使えないらしく、その集落からでる生活排水でかなり汚れてヘドロだらけで悪臭を放っている。




 街の中と外は、がれきが片付けられていて、舗装がちゃんとされひび割れていない道が通っているところが「ヴィレッジ」と「荒野」との境界線だ。


 舗装された道へと入りヴィレッジに到着すると、しばらくは治安はあまり良くなく、電子ドラッグなどの常用者もいて、それなりに危険な路地裏の近道をナイフを隠し持ち警戒しながら歩き、路地を出ると広がる大通りに面した馴染みの酒場までたどり着いた。


 この辺の建物も補強やリフォームがされていてかなりマシになっていて、ちゃんと割れていない修理されたガラス扉で開けて入る。席に座り、少し小太りの老け顔で損をしているようなウェイトレスに「冷たいエールを一杯」と頼んで外をぼーっと見てみた。


 集落から見やすい位置にある大型の空中投影で、「臨時投票日4月5日を忘れずに」と広報されている。


 臨時の票の付与か…と思い耳をすますと、今回イレギュラーな事が「上」であったらしい、緊急総会が開かれるからのようだ、と酒場に来ているレイバーらしき人達の席で酒のつまみの話にして盛り上がって情報交換している。


 よし、「上」の事情など知ったことではないが、また「委任状」が売れて臨時ボーナスになるな、と少し気分が良くなり、もうすぐ臨時収入があるのだからと、もう一杯エールを頼んだ。


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