表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

第1話 「山」の頂にて~ヨヨギ・ヴィレッジ


(1)山の「頂」にて


 この山の上にはお宝があるに違いない。


 そう根拠はないが確信した俺は、ガラクタや膨大なコンクリート片などの産業廃棄物でできた山を細心の注意をしながら登っていく。


 無心に登り2,3時間でやっと辿り着いただろうか、頂上付近に着くと、俺はかついでいたズタボロで迷彩のように所々変色したリュックを置いて見渡しながら、感覚的にここではないかと思うところを、漁る。


 ガラクタの角や産業廃棄物の割れたガラスや飛び出した針金など、手に怪我を負いそうなものを慎重に気を付けカーボンファイバーの軍手でかき分ける。


 だがお宝らしきものはなく、腐りかけた廃棄食品から漏れ出る汁が手に付いて顔をしかめた。おかしい。この山が昨日ゴミを運び込まれた山なのに。

 何か当たりがあると思ったのに。だからこの危険な山をわざわざ登ってきたのに。


 そう少し弱気になりつつ漁ってどかしたガラクタの下に、周囲の変色したプラスチックやコンクリ片などとは異質な銀色の光を放つ何かが見えた。

 俺は祈るような気持ちで最後の邪魔なガラクタを退かすと、それは現れた。


 「よしっ!」とつい声に出てしまう、これは確か2040年代後半の家庭用のロボットで、掘り起こしてみても上半身しかないが、希少鉱物や使えるチップやメモリがふんだんに使われているはずだし、様々なデータが残っているかもしれない。30万グローブは固い。


 登った甲斐があったと安堵し身体と緊張が弛緩したのと、登ってきた疲れから、比較的平らで比較的綺麗な、何かの金属コンテナに腰を掛け、ぼーっと空を見る。


 地上ではあちこちの山から煙が燻り、青空をかき消されているが、こう高い山だと青空が見る事ができる。ちょっとした「登山家」の特典だ。


 視線を降ろすと、壁に囲まれたここの外が見え、黒焦げ溶けた大地の先に蜃気楼のように浮かぶ、白亜の都市が見える。


 まるで、おとぎ話の巨大な城にその周りを囲み守っている塔が立ち並んでるみたいで、教養のない俺にも荘厳さを感じるような美麗な高層建築が林立している。


 暗くなってからこの山を登った事はないが、夜になるとあらゆる色彩が、光を放ち暗闇が駆逐された世界が広がっているという、この地域では最も大きい都市であるノーストウキョウ。


 だがこう眺めて見えるだけで、当然ながら行った事もない。そういった都市は、事実上ホワイトランク以上の市民しか住めず、ここ廃棄地区…過去の爆心地とその周辺に点在するレッドやオレンジの街。


 ここは確か正式な名前は「第12廃棄商業地区」と呼ばれているらしいが、住民は塀に囲まれたこの街を、かつての地名だったそうである、「シブヤゲットー」と呼んでいる。


 このゲットーが今の俺の生きる場所であり、白亜の都市から吐き出される、大量のゴミの山の一時的な廃棄所の一つだ。


 その吐き出される大量の様々なゴミが辿り着く集積所、俺の生活の糧だ。

 ところどころで煙が燻る、集積所に無数にある「トレジャーマウンテン」、ふもとで採掘したり、俺のように上部のゴミの方が価値の高いものがあるはずだと、「登山」して発掘したりして生計を立てている人間がここに集まってくる。

 

 その一つ、俺のような「登山家」や住民が、「エベレスト」と呼んでいるこのとレジャーマウンテンの中では最も大きな山の頂上で、一仕事終えたとランチボックスとそのまま再利用している水筒替わりのペットボトルの水を出して、昼飯を食べながら、なんとなくただ白亜の都市のほうに、焦点をあわさずぼーっと視線を向けて考えていた。


 これらの山から取り出せる、ホワイト以上でよく使われている、無数の家電製品や家庭用ロボット、産業用機械、今時珍しい木製やプラスチック製、カーボン製の家具や調度品類、触る時は気をつけなければならない医療廃棄物などがある。


 それどころか様々な消費期限切れの廃棄食品の収集、果ては壊れ廃棄された機器の記憶媒体から抜き取る、役に立ちそうな各種データやパスワード、電子鍵まで、裏のマーケットに回るものも含め様々な資源を発掘しては、たまに買取額を過少に間違える油断ならない馴染みの買い取り屋に持ち込んで俺は日銭を稼いでいる。


 俺は、自分が生まれたのはどこなのか、誰が親なのかは知らないが、赤ん坊の当時、トレジャーマウンテンの一つ、「ピレネー」のふもとに捨てられていたらしく、「登山家」が拾って孤児院に引き渡され育った。


 その際拾って届けくれた「登山家」が、俺の名を安直っぽいが「ピレネー」と名付けたらしい。まあ、俺はその名前を気に入っている。そのオオタ孤児院では、捨て子などで姓が無い者には「オオタ」と与えるので、俺は「ピレネー・オオタ」になる。俺は当然覚えていないが、両親が、もしくはその片方が、西大陸の出身だったのか、統一機構が定期的移住を推奨しているのもあって、ここアジアブロック群島C4でも混血化が進んでいるが、エメラルドの目で赤毛だとそれなりに珍しく見えるらしい。


 孤児院に入って当初は訳が分からず荒れた時もあったものの、6歳の時に「チョーカー」が与えられ、メアリー、俺のバディAIに教え導かれて社会についての基礎知識を学び、それ以来はこれでも模範的院生と言われるよう過ごしていた。


 だが残念ながら養子にもらわれないで15歳の誕生日を迎えた者は、孤児院を出なければならず、結局俺は孤児院を出た後は17歳の現在こうした生活をしている。


(2)ヨヨギ・ヴィレッジ


 スマートコンタクトレンズ、通称スマコンの視界に出ている時刻が13:00を回っていたため、さて、そろそろ「下山」するかと、気を付けながらがれきやひん曲がった鉄筋、様々なゴミの山を慎重に降りていく。


 登りも危ないには危ないが、下りの方がむしろ危険だ。例えば足元が大丈夫だろうとトタン板へ足を降ろして踏み抜き大けがをする、ということもあり、いくらある程度の怪我は治療が無料とはいえ、気を付けなければならない。

 

 「山」から降りて、その谷間を歩き、途中すれ違う同じ顔見りの「登山家」に「今日はどうだった?」と挨拶しながら尋ねられ、「まあまあだったさ。どうも景気がよくないなあ」と、結構大物のハズのズタ袋の中の家庭用ロボの事は素知らぬふりをして返し、「気を付けて」とお互い手を降って別れる。


 そしてそれら山地を抜け開けた黒ずんた平地に建つ、かつては電波放送局だったと聞く黒ずんだ大きな建物の周囲を囲むように、ビルを補強して店にしたり、公園だったそうな場所にテントを開いたりしている、様々な商店や住宅が密集した集落、「ヨヨギ・ヴィレッジ」がある。


 その元電波放送局だったという崩れかかった建物は、今は居住区と事務所、商店などの雑居ビル状態になっているようだ。

 しかし、一部の区画がリフォームされて綺麗になり補強され、実際にテレビカメラで撮ったものを電波放送で流す、という酔狂な事をしていて、各地域からそれを聞きつけた人が集まってきて、かなり盛り上がり、今年で開局5周年らしい。


 集落へと入りながら、通りに並んでる崩れかかっているビルやテントを建てたりトタン小屋で様々な物を売ったり買ったりしている通りを見ながらぼんやりと、電波放送はどのようなものなのだろうか、と思う。


 ネットワークの方が便利だけど、まだ観てる人がいるんだろうなあ、試しに観てみたい…と好奇心がわずかに湧いてきたが、頭を横に振って考えを切り替え、まずは今日はどこでこのお宝を売ろうか、いつものとこ以外で高く売れるかもしれない、と悩む。

 

 「登山」で得られる日銭は、こういった大物を掘り当てる事もあれば、細かな電子基板のチップなど破片程度しか見つからない事もあり、平均では月に10万の時もあれば100万クレジットの時もある感じで、全然安定しない。


 安定を目指すなら土木系レイバーになるべきなのかもしれないが、やっぱりお宝を当てた時の喜びは何にも代えがたい。


 収入の1割はオオタ孤児院への今までの養育費の返済に回している。まあ、本来は院を出てから3年間は一応支払い猶予期間があるのだが、その間の金利で負債が増すし、クレジットヒストリーを育て社会信用ポイントを少しでも得るために、早めに返済するために当てている。


 残りは屋台や食堂などで自給自足で育てた野菜や賞味期限ぎりぎりか既に切れている廃棄食品を再調理しそれらしく見せかけた、それなりの味の料理を食べたりに使っている。


 固定費として、レッド向けの、格安だが保障も薄い、治安から火災までを一通りはカバーする総合保障保険の保険料と「マンション」の一週間分の家賃、そして先述の自分で決めてる定額の貯金で、色々差し引くと月に5万は消えてしまう。


 あまりに足りない時は、カードリッジ式食料自動配給器で食料をもらうしかない時もある。


 元々は公園であったらしく、広く開けた土地に無数にあるテントとテントの間を歩いて、馴染みの買い取り屋に行く前に、ちょっと相場を調べるかと、最近この集落…ヨヨギ・ヴィレッジでたまに見かける買い取り屋なムラタに「こんにちは、景気はどう?」と挨拶する。


 世間話を軽くするとムラタは元々、アジアブロック群島C3の西部管理区のオオサカ出身で、ジェットに乗ってC4へ来たらしい。ジェットに乗るにしろ高速鉄道に乗るにしろ乗合バスに乗るにしろ、交通機関はタダなため、人々の出入りはかなり各地域でで激しい。馴染みのヨシムラだって元々はC4の最西端のナゴヤの集落から来たらしい。


 西部管理区のC3だと、少し言語が異なるらしく、ムラタの話し方に面白く、また俺はまだここC4地域しか知らないので、C3の話を聞きたく思い尋ねてみたい気があった。


 だが、世間話もいいがまずは「そういえばこういうの拾ったんだけど?」と採掘してきた家庭用ロボの残骸を見せる。


「いやあ、上半身しか残っておらんようじゃ、ちょっとあかんなぁ…。15万、ってとこやなぁ」と顔をしかめながら言われ、むきになって「それじゃちょっと安すぎない?ヨシムラのとこ持ってくよ」と言い去ろうとすると、「待ちなはれ、うちなら18万までなら出しまっせ?」という。


「そう、まあ一応ひいきにしてるとこにも顔出してくるよ。25万くらいでどうか考えておいてね、気が変わったら『Links』で通知よろしく」と店主とフレンド交換し頭を下げた後、馴染みというか、「まあまあ良心的なほう」な買い取り屋に向かう。


 元々はEVシフトがまだ完全に終わっていなかった時代があり、その時かつての内燃機関による自動車の修理工だったという馴染みの買い取り屋、ヨシムラの店のテントへ着くと「営業中」と書いた札が垂れ下がっていた。


 テントの横にある非売品だという内燃機関で動くレトロカーを横目に入って行く。ふと、ガソリンはどうやって手に入れてるんだろうと思ったが。


「いらっしゃい…ってピレネーかよ。またお宝でも見つかったか?」と、どうやらその電波放送を聴く端末…ではないな、機械(?)のガラス板に映る、2D動画を再生する機器を、作業場の横のプラスティックコンテナの上に置いて観ているようだった。


 すると顔だけこっちを向いていたのが、くるっと椅子を回してこっちを見てきて、値踏みするような声と目で撫でられた。


俺は「今回はかなりの大物だよ?」とにこっと返しながらズタ袋から家庭用ロボの残骸を取り出してカウンターに載せて見せる。だがどうもお宝を見たヨシムラの顔つきが良くない。


「こりゃあ…うーん…ちょっとロボとしての価値は当たり前だが無いから…レアメタルやチップ、メモリとかでの査定になるが…」と唸りながらこちらの方をちらっと眼で向けると、「18万だな。それが上限だ」とヨシムラがしかめっつらをしながら言いやがった。


「いやいや、かなり貴重な資源がボディや基盤に使われてるでしょ?メモリにも何か残ってるかもしれないし」と食い下がるが、「いや、資源としちゃあ、チタン合金は昔は貴重だったんだが…ここ数年でユーラシア大陸東部で採掘が本格化して、今は相場が安くなってるからな」と言うとふう、と一息吐き出した。


 「それにこれは2058年より以前のだから、ネットスフィア成立前のインターネット時代ので今の暗号規格とは全然違う。現存するか分からない古い暗号通貨があるかもしれねぇが、デコードわざわざする費用のほうが高くつくだろ?」とジト目で見られる。


「第一、当時のセキュリティのログインデータで、今現在で何か貴重なデータやリソースが残ってるか分からんし、インターネットアーカイブでも、40年前のサーバが残ってたりすると思うか?」と至極言われてみれば当然だが触れて欲しくなかった事を言われてしまう。


「それじゃせめて20万以上にしてよ、例の最近来てるムラタでは20万って言われたからさ。それでどう?」と、スマートコンタクトレンズのウィンドウの視界の端に、ムラタから「19万なら買ってもええで」という通知をもらったのを見ながら嘘を覆い隠すようにオーバーに身振り手振りでロボの残骸を持ちあげ見上げる。


 すると、ヨシムラの親父は「はぁ…」と言い、「分かった。20万でいいだろ?」と返してきた。


「30万は堅いと思ってたんだけどなあ…」とちょっとぼやくと、「バカ言え、お前は知らないかもしれないが、これは当時2つ機種があって、もう一つのは高性能なハイエンドのだが、これは廉価版の安いやつだぜ?30万はボリ過ぎだ」としかめっ面をする。


 手招きしてきたので、ヨシムラの親父の手に手を重ねた後、「認証」とお互いに言い、スマートコンタクトレンズで見える半透過画面でウォレットの残高を見て20万振り込まれたのを確認して「ありがと」と言った。


「まあ、また何かあったら持ってこいよ。高く買い取ってやるから」とにかっと笑ってロボの方へ背を向けたので、「わかった、一応馴染みの店だしね。飢えて死にそうだったんだ、飯が久しぶりに食えるよ」と悔しく嫌味を言った。


 苦笑したヨシムラの親父から「おうおう、食ってこい。飢えないようにな」と笑いながらの声が返ってきて、テントの外へと俺は出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ