なんでこうなったかな。
なんかもうよく分からない撮影会的なアレコレが終わったので、テキトーにポロンポロンとギターを弾きながら家具を作ったり畑作ったりしてる二人を遠目から眺める。
多少の息抜きにはなったのか、それとも音楽のお陰で集中出来ているのか、二人はあっという間に色々と作り上げていった。
戸棚を作り上げたドラゴさんがなんか結構な量の石をアイテム欄から用意している間に、ハーツさんは土を耕し、水を入れ、気付けば10平方メートル程度の水田が出来上がっていた。
……ん?
「いや待って、なんで田んぼ出来てンの」
「え? 作らないと米が作れませんが」
真顔である。
この後はここから水に土を慣らさないとなんですがね、とかも言ってるけど今はそれどころじゃねェ。
意味がまっっったく分からんのだが。
え、田んぼってそんな簡単に出来たっけ。ちょっと前までハウスとか畑とか作ってたよね?
いつの間に? ていうかどうなってんのこれ。
「そーでなくて、なんで田んぼ作れてンの?」
「………………なんか出来てました!」
「なんで!?」
少し考え込んだハーツさんが、真剣な顔でメガネをクイってした。
いやクイっじゃねェのよ。なんなのこれ。
いやいやいやいや、おかしいだろ。マジでどういうことなの。
「まぁ、ハーツさん農家のレベルMAXにしてたもんねー」
そんな発言をしつつ、トンテンカン、シャキーン! という謎の効果音を発しながらドラゴさんが金槌を振るうと、謎の像が中央に据えられた大きな器みたいなものが出来上がっていた。待ってなにあれ。さっきまで石だったよねあれ。
「……いや、そーゆードラゴさんも何作ってンすか」
「え? 噴水!」
「噴水」
え。そんな感じに出来るモンだっけ噴水。
いや、戸棚も大概だけどさ、それ以上に何がどうなってんのそれ。
「待って、なんかちょっと目を離した隙に出来るようなモンじゃなくね」
「だって、なんか出来るんだもん」
「ねー」
「ねー」
「いやなんで!? どこにも共感出来ンが!?」
二人で顔見合わせて首を傾げてるとこ悪ィけど意味分からんからな!?
ゲームの中でもそんなだっけ!?
いや、ゲームだと作れる物に相応な感じのレベルだったから出来上がるまでそれなりに時間かかってたか……。
え、レベルMAXだとこんなに早ェの?
いや、それよりなにより、現実にゲームの設定持ち込まれてて違和感がやべェ……。
これ、もしかしなくてもチートヒャッハー! みたいになるやんどう考えても。
…………頑張って自重しよ……。
とか考えてたら、ハーツさんから怪訝そうな視線を向けられた。
なんすか急に。
「私はむしろちょっと放置してただけでそんなにも普通に楽器引けてるユーリャさんが不思議ですが」
「え、何弾いたっけ」
そんなやべー曲弾いた記憶ねェけど。
「スカボローフェアにアヴェ・マリア、それからエリーゼのために、あとはなんか忘れましたが難易度高そうなクラシック曲とか」
「ユーリャさんすごいよね〜、ギターでクラシック弾くと難易度爆上がりする時あるのに」
えええ。そうなの。
どれも聞いたことあるような無いような。
「知らんよ指が勝手に動くんだもん」
なんせ吟遊詩人ですし。
『………………』
三人で見つめ合うこと三秒。
そして三人ともが、うん、とひとつ頷く。
「キモイよね」
「キモイっすね」
「キモイですよねぇ」
全員一致での結論はそれだった。
だってキモイもん。仕方ないよね。
そんな感じで納得した所で、ハーツさんがぐいーっと背筋や腰を伸ばした。
「よし、とりあえずハウスも畑も田んぼも出来たので、あとは種とか植えるためにもスキル色々使って放置しておきます」
ドヤ顔である。
まぁたしかにやり切った感じするもんな。
田んぼに畑にビニールハウス、どれも数日で出来るクオリティじゃない。熟練の農家の仕事だ。
あと、農家のスキルとかちゃんと把握してないから分からんけど、畑とかそういうのはすぐに植えるんじゃなくて、しばらく置いといた方がいいってのァ知ってる。
肥料は馴染ませとかねェと野菜が腐ることがあるってウチの爺ちゃんが言ってたし。
「一時間後に色々と植えられるようになるはずです」
「早くね?」
「そういうスキルなので」
「なるほど?」
スキルってホント便利ね……。
「んじゃあ自分は出来た家具とか設置してくる!」
自分の体よりも大きい家具をひょいっと軽く持ち上げて、そのまま片手で運ぶドラゴさんの姿に、なんか、そういや皆チートだったなぁ、なんてしみじみしてしまった。
「……ほんじゃアタシぁ一旦マイキャット達の様子見てきます」
なんかもう、すること無さすぎてこんなんしか思い付かないけど、それはそれで必要なことだから良しとしたい。
マイキャット達は基本的に放牧されているから、大体その辺のどっかに居る。とはいえ、どこにいるかってのまではイマイチ分からないのが普通だったりする。
だがしかし、忍者をカンストさせているアタシなら彼等の位置が分かるのだ。
「よろしくー」
「お願いします」
「あーい」
そんな感じでそれぞれが行動を開始したのだった。
「おーいべにさーん、クリスちゃーん、つくねちゃーん」
門の外、大体この辺かなー、って所で呼び掛ける。
すると、真っ先にウチのマイキャットが降ってきた。
『お呼びかしらマイダーリン!』
「うん、呼んだけどね。なんで脳天に降って来てんのクリスちゃん」
野太いイケボでライオンの遠吠えポーズせんでもろて。そこアタシの頭なんよ。そんでもちもちぐっぱぐっぱしてるとこ悪ィけど、頭皮に爪刺さっとるんよ。痛ェんよ。あとマイダーリンてなに。
『これはマーキングよ?』
「頭皮のダメージ考えて貰っていい?」
ハゲさす気か?
『んふふ。大丈夫よ、抜けても換毛期が来るでしょ?』
「え? 換毛期あんの?」
『無いの?』
「いや知らん」
ゲームじゃそんなん無かったもん。知らんよ。
「それより他の二匹は?」
『つっくんは魔獣シバキ回してて、ベニーはお家でお昼寝よ』
うん。ツッコミが追いつかねェな。もういいや。
「あれ、猫のおっさんじゃん。なにしてんの?」
ふと聞こえた声に顔を上げると、見覚えのある少年の姿が歩いて来ている所だった。
「おぉ、どしたんロンちゃん」
「なんでアンタにもそんな呼ばれ方されなきゃなんねーんだよ!」
「はっはっは、お前さんがアタシの名前をちゃんと呼んでくれりゃァそうするさ」
「うぐ……」
頭に猫を乗せた猫獣人に正論で返された可哀想な少年が出来上がった。
まぁ、しゃーねェわな。
「ンで? なんか用事かい?」
「えっと、ドラゴのおっさんは?」
「今は家ン中で作業中さね。危ねェから近寄ったら怒られンぞ?」
「えぇー、今日もかよぉ」
もじもじしていた少年が、いざ目当ての人物の現在を聞いてガックリと肩を落とした。
こういうリアクション、好きな人は好きなんだろうなぁ。
アタシぁそういうの無いんだよな。一番滾るの、技が綺麗に決まったりする時とかだし。
「まぁそりゃアそうさ。家が出来たばっかだからなァ」
「うーん、じゃあ猫のおっさんでいいや」
「でいいやってなに」
ひどくない?
「あのさー、ばあちゃんの作る石鹸なんだけど、買ってくれたりしねぇ?」
「え、買う」
無視かよ、ってツッコミよりも先にそれが口から出た。
「えっ」
「なんなら、定期購入したい」
「えっ」
だってそれ、村のブランド石鹸やん?
欲しいに決まってるわ。
「いや、売りに来たのになんでそんな驚いてンの」
「だって、ダメ元だったから……」
「ふぅん。なンでダメだと思ったン?」
「高いもん……」
しょんぼりしてる少年だが、一体何を言ってるのかねキミは。
「高くたって良いモンは売れるぞ」
「でも、隣村の作る石鹸のが安いんだよ……」
ははーん。
「なるほど。そンでこっちの村の石鹸が売れなくなって、在庫過多になってンだな?」
「なんで分かんの!?」
「そーじゃなきゃアタシらに売りに来たりしねェっしょ」
「……う……うん……」
なるほどなるほど。石鹸や薬草が名産の村からすりゃ、大打撃だわな。
「……んー、もし良けりゃ、なんだが」
「なんだよ?」
「アタシが売っぱらって来ようか?」
「へ?」
これ、ようやくアタシの本領発揮が出来るンじゃね?
「つきましては倍以上の値で売っぱらってくるから、今ある在庫全部買うわ」
「えええ!?」
ドヤ顔で言い放ったらなんかめっちゃビビられたけど、気にせずドヤ顔を続けたのだった。
……なお、頭にクリスちゃんを乗せたままだったことは、後から思い出した。
ちょっと無かったことにしたい。




