スローライフってこんなんだっけ。
とんてんかん、しゃきーん、とドラゴさんが何かを作っている。
昼食後、なんかいきなり外の畑のすぐ側に連れて来られたかと思ったら、唐突に何か作り始めたんだけど何事なのこれ。
チラッと畑を見るとさすがは農家がカンストしてるハーツさんというか、完全に畑として完成しているように見えた。
とはいえ、まだハーツさんは今現在も畝作ったりなんかやっている。他に何やってンのかは全然分からんけど。
ていうか畑と水田ってなんか違う気がすンだが、そこんとこどうする予定なんだろう。
まあ、土壌を何とかしてから色々する予定なのかもしれんから、そのへんは置いとくか。
そんなわけであとはビニールハウスを立てるだけっぽく見えるんで、現在ドラゴさんがそれを作っているのかと思ったが、なんか微妙にサイズが小さい。
とはいえなぜ呼ばれたのか分からず首を傾げたところで、それは唐突に完成した。
そして、ドラゴさんが満足げに口を開く。
「はい、ユーリャさんここ座って」
「……なんすかこれ」
「椅子とガーデンテーブルとパラソルとココナツジュース」
「うん、そういう意味じゃねェのよ」
むしろそれ、見れば分かるンよ。
そーじゃなくて、なんでなのかが聞きたいンよ。
なにこのバカンス満喫できそうなセット。
「ほんとはハンモックにしようと思ったけど、その場合場所取りすぎると思って」
「そういう問題じゃねェだろ」
たしかにハンモックは片付けがめんどそうだけどな?
しかし、意味不明さには拍車かかっとるンよ。
説明。マジで説明よこせ。
「つまり、ここで座って弾き語りしてて欲しいんだ」
「待て待て、意味がわからん」
つまりって言われても分からん。ドラゴさんの中でなにがどうしてどうなったらそうなるん?
なんなん? それで説明になってると思ってるん? さすがドラゴさんだな?
「え、だってユーリャさん、今なにもお仕事ないじゃん?」
「まぁ、うん、そりゃそうなんだけど」
「だから、ここで座って弾き語りライブしてて欲しい」
「どういうことなの」
それはそれでサボりじゃん。ダメじゃん。だったらむしろ仕事よこせよ。
「だってさぁ、音楽流せるプレーヤーとか、なんもないんだよ?」
「まぁ、そりゃそうだな?」
似たようなモンは探しゃあるかもしれんが、今は手元に無いもんな。
「だから、ここでユーリャさんには音楽プレーヤーになってて欲しい」
「酷くね?」
え、なに、プレーヤー扱いってことはここで延々と一人で寂しく歌ってなきゃならんの?
え? 酷い。やだ。
「酷くないよ。ユーリャさんがここで歌ってたらみんなにバフかかるだろうから、絶対作業捗るよ? あっという間に終わるよ?」
そりゃあこっちは吟遊詩人だ。パーティメンバーに向けて歌えば作業効率アップのバフだってかかるだろう。
だがしかし、アタシぁ知っている。
ドラゴさんがそんなモンの為にまでこんなことしねェことを。
「……本音は?」
「無音で作業すんの集中出来ない」
「いや、酷くね?」
どーせそんなこったろーと思ったけどさぁ!
なんかもーさすがドラゴさんだよ。知らん人じゃねェからツッコミ入れるだけだけど、アタシじゃなけりゃキレてんぞそれ。
「まぁまぁユーリャさん。お仕事が出来るまではそれでいいんじゃないですか?」
畑の調整やら畝を作ったりやらしていたハーツさんが、苦笑しつつ宥めてくれた。
まぁ、それが仕事だって言われたらやるけど、なァんか納得しづらいんだよなァー。
「……はぁ……しゃーねぇな……」
それでも自分自身他に何も出来なさそうで、仕方なくパラソルの下の椅子に座り、ハープを取り出す。
ぽろろろろん、と音を出して適当に弾いた。
癒されるいい音だ。外れてもいないし、弦が緩くなっているところもない。
ふと、ドラゴさんがものすごく普段通りに疑問を口にした。
「ていうかユーリャさんて何が出来るの?」
さすがは仲間内でも定評がある言葉選びの下手さである。マジで相手がアタシじゃねェとガチギレすンぞ普通。
本人に全く悪気がないの分かってっからそゆのねェけど、ヒトによっちゃ完全に嫌味言ってるみたいに聞こえるもんコレ。
「そういえばまだ聞いてませんでしたね。ユーリャさんステータス見ました?」
「あー、うん。なんか、商売人が出来るみたいっす」
ぽろろん、ぽろろろろろん、ぽろん。爪弾いて音を出すだけでなんだか体が軽くなる不思議。
ちなみにこれ、ゲームでは“調律”っていう吟遊詩人の基本技のひとつだ。
これでなにが起きるのかっていうと、次に歌ったり弾いたりした曲の効果がアップする。バフをするためのバフというか。ゲームではこれをやってからでないと歌えない曲も多かったから、予備動作に近いかもしれない。
「商売人?」
「売ったり仕入れたり交渉したり計算したり在庫確認したり」
「自分らが作ったりした物をこの世界で売りさばけるってこと?」
「みたいっす」
答えたものの、ハーツさんとドラゴさんは不思議そうに顔を見合わせて、それぞれがほぼ同時に首を傾げた。
「……今、なんも商品になるようなのないよ?」
「ゲーム内で作ってたものが、この世界で売れるか分かりませんしね」
「いや、高級品としてなら売れるっしょ。問題は販路が作れてないから取引先が無いのと、商業組合に登録してないから販売権が無いことっす」
「致命的じゃん」
そうなんだよねェ。
ぽろろろん、と弾きながら遠い目をすると、ハーツさんはなんとも言えない哀れみの表情でこっちを見た。
「……じゃあ、ちょっと歌ってましょうか、ここで」
「…………はい……」
もうそれしか言えなかった。
ぽろんぽろん弾くけど、ふと気付く。
「……いや、歌うっても、なに歌やいいンよ、これ」
「カラオケ行った時にめちゃくちゃ歌ってたから、そういう感じでいいと思うよ」
ドラゴさんが材木を板材に加工しつつ答えてくれた。
いや、どういう感じよソレ。
「あれはドラゴさんが歌えない曲を歌って欲しいからつってバカスコ曲入れて歌わされてたんすけど?」
「でも覚えてるでしょ?」
「ワタナベさんのせいでな」
アイツが謎の記憶力を付与してくれたから聞いたことある曲全部覚えてるよクソが。
「そういえば全然姿見ないけど何してんだろあのヒト」
ふと思い出したらしいドラゴさんが、ぎーこぎーこ鋸を動かしていた手を止めて、今度はさっきと反対側に首を傾げた。
「たしかに、この数日見てませんね」
『あ、どうぞお気になさらず。わたくしはずっと皆様の写真撮ってブロマイドにしたり、この前の路上ライブの様子を編集して有料コンテンツ映像にして配信したり、曲をデータにしたり、それをストリーミング配信したりしてますので』
「いや気にするわ」
「なにしてんの」
「ちょっと何言ってるか分かりませんね」
いきなり出てきたかと思ったらマジでなんなの。
『おかげで懐が潤いましたので、このギルドハウスの設備もグレードアップ出来そうですよ!』
「どういうこと?」
「わからん」
「もうちょっと詳しい説明をお願いします」
ハーツさんナイス。マジで説明くれ説明。
『あ、えーとですね。まず、キッチンの水やトイレ、お風呂などの水を地下から汲み上げるのに、電化製品が使われてるんですけれども』
「そうなの?」
「え、電化製品……?」
「ファンタジーで電化製品……?」
予想外過ぎる事実に、さすがに全員の手が止まった。
だから、毎回思うけど情報の後出しがひでェのよ。なんなの。
『はい。それ以外にキッチンもオール電化ですので、電気の供給が切れたらアウトです』
「え、でも、照明はなんかでっかい宝石じゃん」
『それはこの世界で主に使われてる、魔力を使って光る照明と同じ技術を使用してます』
「はぇー」
なんか変な所でファンタジーだなオイ。
「え、じゃあ電気どっから来てんの」
「そこですよね」
『はい、魔石や魔道具に電気を起こすものがあるのでそれを使ってます』
「……うん、なるほど」
「ふむふむ?」
なるほど、分かるけど分からん。
いや、アタシらのためにそうなったんだってのは分かるけど、なんかさァ。
「つまり、グレードアップ出来るのはそのあたりの何か、ということですか?」
『はい! 魔石や魔道具の主な動力は魔力なんですけども、それをもっと効率よく運用させることが出来るようになります!』
「……具体的には?」
何をどうする気なんよ。
『ソーラーパネル、そして風力や火力で発電出来るように出来ます!』
「いや、なんでファンタジー世界でファンタジーじゃない方の動力使おうとしてんの」
ファンタジーなんだからファンタジーしろよ。
世界観もっと大事にしよ?
『え、だって魔力から電気作るの大変なんですよ? 電力も少ないから、もう少し電力上げないと、オーブンで調理しながら誰かがお風呂とかしてたら途中で電源落ちます』
「ならなんで源泉かけ流し常時循環型にしたんよ」
『似合うから……!』
全力の叫びだった。
うん、だからさ、なんなんよお前。
ここ暫くちょっと頑張りすぎたので燃え尽きてます(白目)
今月は休み休みまったり参ります。




